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映画「マスカレード・ナイト」なら120分間刑事になれる
みなさんは映画を「映画館」と「自宅」どちらで観るのが好きですか?
ぼくはどっちも好きだけど「映画館ならでは」の魅力を特に説明できなかった。「映画館だと、画面大きくていいよね。」くらい。
けれど、「マスカレード・ナイト」を映画館で観てから、言葉にできるようになった。
それは、映画を観るときと観終えたときに「カチッ」と心のスイッチが鳴るかどうか。
ネタバレは含まずに、書いていきますね。
※1分半の予告映像↓
2019年公開の「マスカレード・ホテル」に続くマスカレードシリーズの映像化2作目。
破天荒な新田刑事(木村拓哉)が高級ホテルのスタッフとして潜伏し、真面目すぎるホテルマン山岸(長澤まさみ)とタッグを組んで難事件の解決に挑む。犯人が現れるという密告状が届いたホテルで、500名の候補者から犯人を探し出す物語。
まるでそこにいる「没入感」が映画の魅力
映画を見終わったあとに「あぁ、現実世界に戻ってきた」と感じることがある。「カチッ」と心のスイッチが切り替わった感覚。それは映画の世界に、自分が取り込まれたときに感じるけど、この作品はまさにそうだ。
舞台は高級ホテル。そして、終始ホテルという1つの建物の中だけでストーリーが進行していく。だから、自分の日常世界と切り離されている感覚がしやすい。
そして、カメラワークによる臨場感がすごい。登場人物をあくまで客観的に捉えるだけでなく、ときに主人公の目線で映像が流れ込む。エレベーターの中など、狭い空間のシーンも多く、キャストの息づかいまで聞こえてくるような「生きた映像」が心臓を忙しくさせる。
この臨場感のおかげで、ぼくは上映中、何度も勘違いした。まるで、自分はキムタクと一緒に潜入捜査をしている刑事なのではないかと。タイムリミットが迫る緊迫したシーンでは「やべえ!もう時間がねぇ!」と心の中で叫んだ。落ち着け。お前は何もできない。
ときには、長澤まさみと共に働くホテルマンになった。長澤先輩の神対応を近くで見ながら、「この人の力になりたい。一体どうすればいいんだろう…。」と思い悩んだ。大丈夫だ。お前は何もできない。
また、ストーリーにおいては、ミステリー初心者にも優しく「推理の誘導」をしてくれる。ホテルにはお客様として犯人候補が次々と登場する。なおかつ、作品の時系列は基本的に一直線なので、順を追って情報を整理できる。
さらに、犯人候補は分かりやすく怪しい言動をしてくれるので、視聴者に「思考のエンジン」をかけさせてくれる。しかし、その言動の目的や背景を解き明かすのはめちゃくちゃ難しい。入り口は開かれている迷路だが、入ると迷いまくる。
そんな「頭をひねらせる楽しさ」をギリギリまで楽しませてくれる。ぼくは普段ミステリーを読まないが「ミステリーの魅力ってこういうことね!」とストンと納得してしまった。
そして、この「推理に参加している感覚」がぼくを1人の見習い刑事としての没入感を加速させた。
このような「まるで、そこにいる没入感」を踏まえて、久々に「映画館で観る」魅力を全身で感じた。
最近はNetflixなどで自宅で映画を鑑賞しやすい。くつろいだ空間で映画を楽しめるのは最高だ。でも、テレビの画面で観る映画では、作品の世界に没頭しにくい。ふとスマホの通知が光って気が散ったり、テレビ台に置いてある、ひよこのぬいぐるみがぼくの頭を「日常」に戻してしまう。
映画館で映画を観る魅力というのは、「作品の世界に足を踏み入れる」ことなのだと思い出した。携帯の電源を切り、スクリーン以外真っ黒で何も見えない空間で、自分が日常と隔離される。大画面に映る俳優たちと同じ目線で、同じ世界に立ち、同じ感情を抱く。これが、映画なんだ。
「作品との一体化」。この現象を目の当たりにしてこそ、作品を十分に味わい尽くしたと言えるのかもしれない。
そんな素敵なことを、「マスカレード・ナイト」は思い出させてくれた。120分間、前のめりでぼくを見習い刑事にさせてくれた。映画を観る前と後で、心のスイッチが「カチッ」と鳴り、日常がオフになったから、体験できたことだ。
みなさんも、ぜひこの作品を劇場で観てほしいな。当然、感染症防止対策を踏まえての話だけど(ぼくの住んでいる地域の劇場はめちゃ空いてたので)。
そして、1人の登場人物として、この作品に関わってみてほしい。キムタクや長澤まさみと同じ景色を観て、同じ緊迫感で、ストーリーを味わえると思う。
あぁ、あのとき、ぼくがキムタクより一歩早く動いていたら、ストーリー変わってただろうな。
没入、しすぎかなぁ。