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まだ手つかずの鉱脈ー『すみわたる夜空のような』銀色夏生(2005年)
(1,265文字)
最果タヒの感想文を書いたら、持ってる詩集のほとんどが未読なのに気付いた。だから読みはじめた。
この本を購入したのは、銀色夏生がこの中の詩を朗読していたのを観たから。それがとても良かったのだ。気づいたら買ったまま7年も経っていた。
恋は人を救えるか 人は恋を救えるか
見上げると、夜の広さ、しんしんと降りそそぐ、夜の深さ――。何かがだんだんあいまいに死んでいくようなつきあいより、すみわたる夜空のような孤独を。
片思いをしているすべての人に捧げる詩集。
銀色夏生は詩人で、日記風エッセイ『つれづれノート』シリーズを20冊くらい(2024年現在46冊既刊)と、小説や旅行記などで計30冊ちかく読んだが、詩集はこれでまだ2冊目だ。
でも、よくタイトルを目にしていて、心に留めていた。それだけで救われるようなタイトルだったから。
『これもすべて同じ一日』や、
『こんなに長い幸福の不在』、
『やがて今も忘れ去られる』、
『君はおりこう みんな知らないけど』、
『微笑みながら消えていく』はおまじないのように頭の片隅にあった。語感が好きだ。
詩は啓示になる。
ほぼ読んだことがなかったけれど、詩は今の自分の悩みに応えてくれるものかもしれない。正解や解答を与えてくれるんじゃなくて。
おかしいかもしれないけれど、森博嗣のエッセイ「クリームシリーズ」(講談社文庫)や「100の講義シリーズ」(だいわ文庫)にも似た効果があると思っている。
悩んだときに読むと、どこかのページには自分の問題に対応した言葉が得られるからだ。詩集は読んでいる人の感覚に効き、森博嗣の言葉は論理的に効く。
詩は、日常から離れている。作者からも読者からも。開けばただちにちがうところへ行ける。
ある詩では、高校のとき好きだった人を思い出した。ある詩では、執着しなくていいと気づかされた。離れる詩があり、自由になれる。
もっと早く読めば良かったかもしれない。でも今が適正時期だったんだろう。
何度も詩集を開いて今のわたしの答えを見つけよう。
同じ(というとおこがましいが)感じやすい人として、銀色夏生を頼りにしてきた。こういう作家がいてくれて、わたしはこの世に成り立っている。
これから銀色夏生の詩集を読んでいこう。まだ手つかずの世界を見つけられてうれしい。
最後に、この文章のはじめに書いた「本人が朗読していた詩」の冒頭を載せます。良いと思ったら手に取ってください。
「君へ」
君は好きなことを、
好きなふうにやるべきだ。
そのことが他人から見て、どんなに変でも、
損でも、バカだと言われても、
気にするな。
だって彼等は、君の願いを知らない。
君が何をめざし、
何に向かっているのかを知らない。
君は彼等とは違うものを見てるのだから。
あの、強い思いだけを、繰り返し思い出して。
そのことを忘れないで。
(後略)
詩はわたしに向けて書かれている。
詩はあなたに向けて書かれている。いつも。
購入:2017/11/5
読む:12/10・12/11
note:12/12