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ある日の会話(24.09.20)
「…それはなんですか?…随分と弱っているようですが…」
いつものようにカウンター席でコーヒーを啜っていると手の空いたマスターが俺の隣の席に置かれたケージを眺めてそう言った。
俺はカップから口を離してそれに視線を移す。
丸っこくて青白いー手提げ付きゴミ袋を縛った見た目のーナニカがケージの中でドス黒いタールのような液体を撒き散らしながら震えている。
「生ゴミですね。ああえっと席に置いてすみません…物理的に汚しはしないと思います、が床に降ろしますか」
「いえ、大丈夫ですよ。お客様ですからね」
俺はソレの様子を見ながらケージの上から飲みかけのコーヒーを流し込んだ。ケージの中のソレは上を向いて口…否、袋の口を開けて流れ込むコーヒーをがぶがぶと飲み再び袋の口を閉めるといつの間にか撒き散らしていたドス黒い液体は消えていた。
「マスター、コーヒーのおかわりください。あとアイスティーも。…よるさんケーキとか要りますか、」
メニュー表を見せてデザートの欄を指差すがソレは閉じた口を縛って兎のような耳を整えると首と言うより胴全体を横に振った。
「はい」
「ああ、よるさんだったんですね」
マスターは納得したように微笑んで注文したドリンクの用意を始めた。
生ゴミことよるつきは変な液体は撒き散らさなくなったが不定形な胴体が液体の入ったビニール袋の様にぼってりと伸びている。
俺はため息をひとつしてケージを揺らしてみた。中でもごもごと何か言っている声がしたが言葉までは聞き取れない。
「すっかり生ゴミに成り果てて…蘇生するには早すぎましたか?」
もごもご、もごもごと声を発している。
相変わらず聞き取れはしないが魂を分けている分、大体は何を言っているか予想はつく。
…大体、後悔と懺悔だろうから。
「理なんかと話すからですよ。は?いや、そうでしょうよ、そのあとからこんななんだから」
本当にコレが1番メンタルが強いとは思えない。それなら自分の方がよっぽど強いと思うのだが…周りをゆっくり見回してもう一度ソレを見て目を細める。
今の居場所を生み出せるのはコレのチカラか…
切っても切れない存在。
俺は先に出されたアイスティーに蜂蜜を入れて沈殿した蜜を暫く眺めた後、混ぜ合わせてストローを外しケージの中へグラスを傾けた。
2024/09/20の記録。