ハリウッド式の脚本メソッド「三幕構成」と物語作成ゲーム『ジャーナリング・オブ・ザ・デッド』
ゾンビ世界で日記を書くゲーム!?
エモーション・ストーリーメイク・ゲーム『ジャーナリング・オブ・ザ・デッド』のゲームマーケット2024秋【両-C01】、取置予約中です。
【シド・フィールドの「映画脚本の基本構造:三幕構成」を学ぶための『ジャーナリング・オブ・ザ・デッド』】について、「もう少し詳しく解説して」というリクエストをもらってので、やる。
まず、そもそも『ジャーナリング・オブ・ザ・デッド』とは何か。米光一成の新作ゲームである。
状況設定が示され、そのなかでプレイヤーが執筆していくゲームだ。
まず、カードを引いて、キャラクターの関係性を決め、居る場所を決め、特殊状況を決める。「執筆者」と「相棒」ふたりの名前を決める。
ゾンビが群れている世界に、主人公と相棒がいる。プレイヤーである主人公は、ペンと紙を拾い日記を書き始める。
序章がはじまる。またカードを引いて、いまどういう状況なのかという枠組みのテキストを読み、その状況にあわせて最初の日記を書く。
カードの引きによって、進む章が決まる。「絶望の章」へ進むのか。「受難の章」へ進むのか。また新しい章でカードを引いて、状況を決める。日記を書く。
この繰り返しで、「最終日の章」に到達するまでの物語を紡ぐ。
状況の変化、小道具、突発的な事件、人間関係の混乱などが引いたカードによって決められる。そのフレームで、プレイヤーは、自分たちの置かれた状況をイメージしながら、即興で物語を描くことになる。振り回されるようにして日記を書くしかないのだ。
状況の変化は、『シド・フィールドの「三幕構成」』の通りに展開する仕組みが施されている(というか、おもしろい日記になるようにシステム構築していったら、これシド・フィールドじゃないかー!ってあとから気づいたっていうのが本当)。
悩むべきところは悩むしかないのだが、小道具、突発的な事件、人間関係の混乱などがカードによって決められるので、楽しみながら進められる(ふりまわされながら即興ストーリーを生み出す楽しさをぜひ味わってほしい)。
テンポよくプレイすれば30分で1つの物語をつくりだすことができる。
シド・フィールドは、ハリウッド式の脚本メソッド「三幕構成」理論を体系化した人物だ。
脚本術の書「SCREENPLAY」は、脚本術のバイブルと呼ばれており、22ヵ国語に翻訳され、全米400以上の学校でテキストとして使用されている。
映画の脚本術だが、あらゆる物語に応用可能な理論体系だ。作家の乙一もシド・フィールドの構成技法を取り入れて「書き上げられない」という状態から脱したと語っている(『暗いところで待ち合わせ』など、見事にこの構成になっている!)。
日本語版『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』は全3巻、トータルで990ページ超えの大ボリュームを使って、脚本構成の神髄をていねいに解説している。
2010年ごろから10年ぐらい、ぼくはゲーム会社や、専門学校で、脚本の書き方の講義をしていた。
このときに最初の導入として使っていたのがシド・フィールドの「三幕構成」理論だ。
なにしろ明快で、王道で、理論的。これだけで、つまづいていた人が急に書けるようになったりするからすごい。
骨子だけざくっと解説しよう。
映画は120分だ(←言い切ってみた)。脚本は1ページ1分なので、120ページ。
まず、主人公が何をやる(アクション)映画なのか数行で説明せよ(「ログライン」と呼ばれる)。
そして、三幕だ。
第一幕は、発端。1-30ページ。状況設定を行う。主人公が誰で、何をやろうとしているのか。目標を設定する。
そして第二幕。葛藤。30-90ページ。いくつもの障壁があらわれ、それを乗り越えていく。いちばん中心となるパートだ。劇的転換点であるミッドポイントがあるのも第二幕だ。
そして第三幕。解決。90-120ページ。真の障壁を乗り越え、解決にいたる。
『ジャーナリング・オブ・ザ・デッド』は、カードと冊子で手渡される状況設定に振り回されながらイマジネーションをふくらませていく物語づくりのゲームだ。
どのように進めようとも、どんなカードを引こうとも、この「三幕構成」の通りに進んでいく。
「準備」で状況設定が決まり、序章では主人公たちが状況の中でどうアクションするか、何を起こすかを考えることになる。第一幕だ。
その後、葛藤の連続の第二幕。ほぼ真ん中でミッドポイントとなる事件が発生するように導かれ、劇的転換が起こる。
そして、第三幕では最後の試練、最終日にすべての解決を迫る出来事が発生する。
状況の変化が示されるだけなので、具体的に何が起こったかは、プレイヤーが考えることになる。
だが、状況の変化と、物語の流れによって、自然に「三幕構成」になっていくのだ。これは不思議でもなんでもない。そうなるように仕組んでいるからだ。
そして、それが一番おもしろい物語の構成であるから、その仕組みに乗っかるだけでいい。
ひとは自然に「おもしろい物語」を生み出したくなるし、そう行動するようになる(ということが今回、『ジャーナリング・オブ・ザ・デッド』を作ってみてわかったよ!)。
ミッドポイントで劇的転換が起こることが物語創作の重要な点だ。巻き込まれて消極的に行動していたが自分から仕掛けていくようになった!とか、そういったことが起こるポイントだ。ここで、外的要因が内的要因にシフトしていくと「深い物語」になる。
『ジャーナリング・オブ・ザ・デッド』では、「ゾンビ群VSわたしたち」の対立だったのが、実は「わたし」と「相棒」の関係性こそが問題なのだという転換が(徐々に)起こるように仕組まれている。
『ジャーナリング・オブ・ザ・デッド』を、シド・フィールドの「三幕構成」を対応させた図を下に掲載しておく。
『ジャーナリング・オブ・ザ・デッド』でさまざまな物語を生み出して、脚本術の神髄を習得してください。