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夏こそ「熱い」青春部活小説を【死にたい夜に効く話.31冊目】『武士道シックスティーン』誉田哲也著
夏が来た。
部活だ!練習だ!大会だ!
学生時代、なんやかんや真面目に部活をやってしまった身としては悪夢思い出が蘇ったり蘇らなかったり。
熱い青春部活小説が読みたいってなったら、やっぱりこれでしょう。
『武士道シックスティーン』
主人公は剣道部の女子高生二人。
幼い頃から剣道をやってきた、全国大会準優勝経験のある磯山さん。
片や剣道は中学から始めた早苗。
そんな実力差明らかな二人だが、磯山さんはある理由で早苗を敵視していて…。
性格も戦い方のスタイルもまるで違う二人の高校部活青春もの。
女子二人組の青春ものだからと言って、きゃっきゃした雰囲気はない。
むしろ殺気立っている。そこがいい。
ただでさえ真逆の二人。徹底的に違うのは、剣道に対する向き合い方、勝ち負けに対する向き合い方。
磯山さんの勝ち負けに対する執着は半端じゃない。
むろん、頭を下げたからといって、本気で間違ったことをしたなどとは思っていない。勝つために手段は選ばない。それが兵法というものだ。そこに正しいも間違いもない。
あるのは生と死。斬るか斬られるか。それだけだ。
対する早苗は、勝ち負けにまるでこだわらない。
「いや、たぶん私、勝てなくても、続けると思います。単純に……剣道が好きだから。剣道の動きとか、雰囲気とか、緊張感とか、匂いとか……そういうのが好きだから、なんかそういう感じに、浸ってたい、っていうか」
当然ながら正反対の考え方、そう簡単にわかり合えるわけじゃない。
けれど、関わっていくうちに、二人の考え方も関係性も変わっていく。
人間関係ってめんどくさいな、と思ってしまうこともあるけれど、全く違う考えを持つ人と関わることでしか見えてこないこともあるから、めんどくさいの一言で片付けることもできない。
「友人」「ライバル」という言葉には収まりきらないような二人の関係性がいい。
モブキャラになって遠目から見ていたいという人の気持ちとはきっとこういうことだ。
自分は、元々は勝ち負けにこだわる(そのために猛練習する)タイプだったけど、ある時期から勝ち負けにこだわらない考え方に変わったというのもあって、磯山さんの気持ちも早苗の気持ちもどちらもわかる。
そしてどちらが上とか下とか、正しいとか正しくないとか、そういうものでもない。
二人の成長に泣けるし、それを見守る人たちの温かさにも泣ける。
テンポのいい文章と展開。だからと言って、決して軽いわけじゃない。
二人の女子高生は、何度読んでも好きになる。
勝負に向かう時の、あの頃のヒリヒリとした感覚が蘇ってきた。
〈参考文献〉
誉田哲也『武士道シックスティーン』文藝春秋、2007年