見出し画像

【親が汗をかけば子どもの力も伸びる】中学受験のプロに聞く!「国語力」の伸ばし方

中学受験に向けて、「子どもの国語の点数がなかなか伸びない」「どう教えたらいいかわからない」と悩んでいませんか? わかっているようでよくわからない、「国語力」の伸ばし方。家庭でできることはあるのでしょうか。SAPIXなどで講師をつとめ、現在は独自の読解メソッドで中学受験のコーチングを行っている齊藤美琴さんに、国語入試の傾向と、文章問題で出題されやすい作品についてお話を聞きました。

齊藤美琴さんに国語力の伸ばし方についてお聞きました!

「国語」の文章問題には、学校の目指すカラーが色濃くあらわれている

 国語の入試問題では、「人間関係」、なかでも「友情」を扱った作品がよく出題されます。小学生同士の友情はもちろん、学校によっては、高校生や大学生、ときには大人同士の人間関係を題材にした作品が取り上げられることもあります。
 
 ここ2〜3年で増えているのが、「他者との距離感」をテーマにした文章です。コロナ禍がある程度過去のものになりつつあるなか、増加傾向にあります。これに加えて、「多様性」「他者理解」「相手を受け入れること」といった定番テーマも例年よく扱われています。
 
 私立の学校がそもそもなぜ学校が生徒を選抜するのかというと、「こういう学校をつくりたい」という明確な建学の精神があり、その方針に合う生徒を集めたいからです。そして、それぞれの学校のカラーが色濃くあらわれるのが、国語の「文章問題」。入試問題を通じて、各学校の先生方の思いが読み取れます。0時間目の国語の授業と言う学校もあるほどです。
 
 難関校は、こうした方針がとくに顕著ですね。実生活でなじみがない、小学生には理解しづらい物語や論説文が出題され、筆者の考えを読みきり、受け止める力を問われます。時事トピックを扱うことも多く、2020年の灘中学校では生活保護を受けながら母と妹と暮らす女の子を主人公のひとりにした『むこう岸』が、2022年の開成中学校では子ども食堂を舞台にした『おいしくて泣くとき』が取り上げられました。
 
 一方、中堅校の入試では、登場人物の気持ちがある出来事でマイナスになり、再びプラスに戻る王道のストーリー展開がよく出題されます。難関校が取り上げた作品が翌年以降扱われることも多いです。定番テーマを押さえつつ、トレンドが反映されやすい傾向にあります。

語彙を増やすには、「音読」がいちばん!

 算数や理科に比べると、つい後回しにしがちな「国語」ですが、適切なアプローチをすれば国語力は必ず伸びます。国語の成績がいまひとつと感じたら、まず原因を考えてみましょう。私が、ご家庭から相談を受けるときに着目するのは、次の3つのポイントです。

【POINT.1】本を通して言葉に触れていない
子どもたちには、「たくさん本を読んでください」と話しています。ふだんから本を読む習慣があると、文字を受け入れ、理解する素地が育ちます。「読書をすれば、国語ができる」とまではいえませんが、本を読んでいない子は語彙力に乏しい傾向があり、国語ができている子は本を読んでいる傾向があります。

【POINT.2】家庭での会話量が少ない
親子の会話は、「語彙力」に影響します。会話の量が多くても、子どもが相槌役になっているときは要注意。子どもの言葉を先まわりしていると、子どもが言葉を探し、発する機会を逃してしまいます。子どもが会話の主体となるようにして、言葉を伝えるチャンスを奪わないようにしましょう。

【POINT.3】設問を誤って解釈している
「読書はしているけれど、国語の成績が伸びない」場合に多いパターンです。入試では、出題された文章だけでなく、「設問」を受け止める力も問われます。設問を誤って解釈したり、登場人物や筆者の考えを拒絶したりしていると、正しい答えに辿り着けないことがあります。
 
【POINT.1】【POINT.2】に当てはまる場合は、「語彙を増やす」アプローチが有効です。

 5年生以降になると、問題文は理解できているのに、選択問題でつまづくことがあります。これは、選択肢に「文中の言葉を言い換えた言葉」が織り交ぜられていて、語彙力が試されているからです。取りこぼしを避けるためにも、子どもの頭の“辞書”に入っていない言葉を、あの手この手で増やしていきましょう。
 
 語彙力を増やすおすすめの方法は、「音読」することです。音読は読む練習だと思われがちですが、じつは文章に向き合い、新しい言葉に触れるチャンスでもあります。子どもの読む力や語彙力を確認できるので、塾の国語のテキストなどを使って、まずは一度試してみましょう。
 
 いざ取り組んでみると、思っていたより子どもがつかえるので、驚いてしまうご家庭は少なくありません。聞きたくないと思うときもあるかもしれませんが、親が汗をかけば子どもの力も伸びていきます。志望校に届くためと思い、付き合う覚悟を決めましょう。
 
 いまの教材で詰まるようなら、1学年下のテキストを読んでみてください。戻るのは勇気がいりますが、塾の宿題を先送りにしてでも、まずやるべきだと私は考えています。子どもの読むレベルに合う教材が見当たらないときは、塾の先生に相談してみるのもいいですね。「そばについて音読させようと思うのですが、うちの子にちょうどいい文章はありますか?」と質問すれば、喜んでおすすめを教えてくれるはずです。下の学年のテキストを勧められたときは、該当部分をコピーして渡せば、子どものやる気を削がずに済みます。
 
 一方、国語が伸びない原因が【POINT.3】に該当する場合は、「客観的な読み方」ができていないのかもしれません。本好きで感受性が強いタイプに多いですね。語彙力や読む力があり、大好きなキャラクターに自分を重ねて本を読むのは得意だけれども、ほかの登場人物の情報が入ってこない。「私はこう思わない」と感じると、その人物がなぜそういう行動をしたのか、読み飛ばしてしまうのです。
 
 こうしたケースでは、問題を解くことがトレーニングになります。入試では「このときの僕の気持ちは?」「このときのお母さんの様子は?」と、設問ごとに「目線」が切り替わります。家庭で問題を解くときは、一問ごとに「これは誰目線の問題だっけ?」「誰の気持ちを考えるんだっけ?」と声をかけるようにしましょう。


中学受験に佐藤いつ子作品が頻出する3つの理由

 家庭でできる国語対策として、「入試によく出る本を読もう」と考える方もいらっしゃるかもしれませんね。中学受験でよく出題される佐藤いつ子さんの作品の特徴や、読書と中学受験の関係について、齊藤さんに引き続きお話を聞きました。

中学生の友人関係が等身大で描かれている佐藤いつ子作品

 佐藤いつ子さんの作品は、これまでの中学受験で非常によく出題されています。中学生の友情・恋愛をテーマにした近著『ソノリティ はじまりのうた』は、学習院中等科を始め、桐朋女子中学校・高等学校、立命館中学校・高等学校、京都女子中学校・高等学校など、多くの学校で出題されました。ほかにも、『駅伝ランナー』『キャプテンマークと銭湯と』といった佐藤いつ子さんの作品が入試に取り上げられています。
 
 なぜ中学受験で佐藤さんの作品が頻出するのか。理由は大きく3つあると考えられます。

【理由.1】登場人物の心情や行動が細かく描かれている
中学受験の国語では、「心情」と「行動」に着目する問題がよく出題されます。どんなきっかけで、誰の気持ちがどう変わったのか。その気持ちは、どのような言動から読みとれるのかを問われるのです。
佐藤さんの作品は、登場人物の語り口調で「気づき」や「気持ちの変化」が丁寧に描かれています。そのため、「誰が」「どんなきっかけで」「どんな気持ちになったのか」と問いやすく、受験国語と非常に相性がいいと考えられます。

【理由.2】中学受験の鉄板「友人関係」をテーマにしている
『ソノリティ はじまりのうた』は、合唱コンクールを控えた中学生の友情・恋愛がみずみずしく描かれた作品です。合唱コンクールへの意気込みは、登場人物により大きく異なっています。「他者は自分とは違う気持ちを持つことがある」ということを読みとり、受けとる力を確認したい中学受験とは、相性抜群だといえるでしょう。中学生の友人関係を等身大で理解してほしいという学校からのメッセージだとも受け止められます。

【理由.3】オムニバス形式で、起承転結がわかりやすい
佐藤さんの作品は、各章ごとに起承転結がはっきりしていて、短いページの中で登場人物の感情が大きく揺れ動きます。作品の一部を出題する中学入試とは好相性だといえます。
 
佐藤さんの新作『透明なルール』も、中学生の友人関係を描いた作品です。登場人物のキャラクターがそれぞれ立体的で、入試でも扱われそうな「ギフテッド・生理の貧困・同調圧力」といった時事トピックも、ところどころに散りばめられています。

登場人物のキャラクターが多彩な『透明なルール』も、中学入試で出題される可能性が十分あると感じます。主人公は女の子ですが、女子校に限らず、男子校や共学でも扱われる見込みは高いでしょう。『ソノリティ はじまりのうた』を取り上げたような中堅校で出題されるのではないでしょうか。
 
中学受験で頻出する作品を通して読むかどうかは、子どもの興味次第で決めるといいと思います。作品全体を読めばすぐさま成績がアップするわけではありませんが、親が読んでみて子どもの好みに合うようなら、勧めてみてもいいかもしれません。実際のところ、出題をきっかけに、いい本に出合ってほしいと考えている学校もたくさんあるんですよ。
 
中学受験は、「完成しない受験」といわれています。子どもの勉強は中学受験のあとも続きますから、受験勉強をきっかけに、いい作品に触れてもらえたらと思っています。


子どもをよく見て、「国語力」を伸ばす最適なアプローチを考えよう

取材のなかで、「国語の成績が伸びない理由が、語彙力にあるのか、文章や設問を受け止める力にあるのか。そこを意識すると、参考書ばかり買うことを避けられるはず」と話していた齊藤さん。成績を伸ばす有効なアプローチは、子どもによって異なるのですね。今回教えていただいたポイントをおさえて、子どもの「国語力」を育んでいきましょう。
 
取材・文三東社

【プロフィール】
齊藤美琴
中学受験のコーチングをメインに、教科指導、幼稚園・小学校受験の相談など、家庭の力を引き出すレッスンを行う。SAPIXの個別指導部門・プリバート東京教室での国語科専任講師、ジャック幼児教育研究所(四谷教室)での講師を経てフリーランスとして独立。読解トレーニングときめ細かい学習コーチングに定評がある。2022年に渋谷ヒカリエ8階のシェア型書店に『みこと書店』をオープン。PICCOLITA(ピッコリータ)代表。

『透明なルール』
著者: 佐藤 いつ子
【定価】1,650円(本体1,500円+税)
【発売日】2024年4月24日
【サイズ】四六 変形判
【ISBN】9784041145418
全国の書店にて発売!
カドカワストア
BOOK☆WALKER
本の総合カタログ Books

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集