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ことば の ちから


「わたしも海外行っていたよ!」

入社してすぐの自己紹介の時に、他拠点のメンバーとビデオチャットにて話をする機会があった。
その時に「自己紹介のところに書いてあった経歴、書いてあったよ!」と声をかけてくれた。

「わたしも海外行っていたよ!」

拠点がちがうので今後話すかわからないのに、わたしのことを知ろうとしてくれて共通の話題を振ってくれた先輩。
初めて話したその日から、業務で関わる機会に恵まれなかったけれど、その言葉を聞いた時に目の前が明るくなった。
いまの会社をより好きになれた瞬間だった。

本当に何気ない言葉だったはず。
だけど、その言葉がずっと心の中で温もりを与えてくれた。


毎日の生活に、言葉が溢れている。

きっと24時間の間に発した言葉、全部を覚えている人はいないだろう。
すごく考えて発した言葉は覚えているけれど、相手のすごく考えて発した言葉は覚えていないこともある。

また、何気なく発した言葉や口癖、慣れた言い回し。
発した言葉には行き着く先があるはずだけど、行き先を考えずに発してしまう言葉もきっとある。


「だれも責めてない」

オーストラリアのカフェで働いていた時のこと、コーヒーを受け取った常連のお客さんが戻ってきて言った。

「This coffee is cheesy.」

Cheesyというのは、「チーズの形容詞→チーズ臭い→なんとなく気持ち悪い」、そんなイメージを持っている言葉。
とりあえず、よくは思っていないことは確かだった。

英語が流暢でもなければ、コーヒーさえ満足につくれない。

そんな自分に心底嫌気がさした。
常連さんになるくらい気に入ってくれたカフェなのに、わたしのせいで来なくなったらどうしよう…そんな考えがぐるぐるして抜け出せなくなった。

そんな時、カフェのメインバリスタが言ってくれた。

「No one blames you.」
(だれも責めていないよ)

だれも責めていない。
美味しくないと感じたから言ってきただけで、それならもう一杯つくればいい。それだけのこと。
まずいと感じるなら、もっと不味いという表現を使う。だから大丈夫。
明日もまた来てくれる。

そんなことを言って、そのお客さんにコーヒーを新しいコーヒーを作ってくれた。
その後にもう一言。
いつもみたいに笑っていてくれない方が困るから新しいコーヒー作った後は元気出せ」と声をかけてくれた。


「それなら、もう乗り越えたんだね」

人生観が丸ごと変わるきっかけになったオーストラリアへの出発理由は、まったく明るいものではなかった。

当時、ストーカー被害に遭って人間不信になって精神的に心底参っていた。
身体的にも滅入ってしまい、寝れない、動けない、起き上がれないという限界をむかえていた。

正直、気晴らしというのも一つだった。
どうにか現状を打開したいと環境を変えたかった。

実際オーストラリアに行って思ったのは、環境を変えても自分が変わるかどうかは自分次第。
現実はどこまでも現実でしかないということ。

英語も話せない、やりたいことが叶いそうな予感もしない、自分の意見も持っていない。
ダメなところをあげたらキリがなかったけれど、ここまで来て落ち込んでいる場合じゃないと鼓舞してみると少しずつ楽しくなってきた。

そんな時に出会った人に、オーストラリアへ来た理由などを正直に話してみた時に言ってくれた。

「それなら、もう乗り越えたんだね。」

その出来事がなかったら、今ここにいないかもしれないよね。
傷ついたことがよかったね、とは言えないけど、それをちゃんと乗り越える力がある。
これから先、何があってもきっと大丈夫だ!

自分では気づいていなかったけど、そう言ってもらえたことで乗り越えた自分に気づくことができた。

悲しい出来事やつらいこと、ない方がいいのかもしれないけれどいつだって人生を切り開くきっかけになったのはそんな出来事だった。
そして、どんなことも自分のバネにすることで「無駄なことなんてなにもないなぁ」と何度だって実感することができている。


言葉は、信じられないくらいに傷をつける。
目には見えないからこそ、程度なんてだれにも伝わらないけれどしっかりと奥深くに刻まれる。
ふとした瞬間に蘇ったり、自分自身で傷口を触ってしまったり、同じ言葉でより深く傷をつけられたり。

それでも、いつだって元気をくれるのも言葉だった。

どんな言葉でも、発した本人からは何気ない記憶にも残らない言葉なのかもしれない。
そんな何気ない言葉によって、どん底から立ち上がらなくなることもあれば、大事なときに奮い立たせてくれることもある。

思い返せば、いつも言葉と共にある人生。
何気ない言葉に日々救われている。


そんな風に感じるからこそ、できることなら丁寧に大切に言葉を紡ぎ続けていきたい。


たすけてくれて、ありがとう。



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Aina ☺︎
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