マガジンのカバー画像

novels

4
自作の小説の供養。
運営しているクリエイター

#フィクション

呼ばれ、惑う。

呼ばれ、惑う。

「月が怖いの。満月を見上げると、まるで誰かに呼ばれているような気がして……」

大学最後の夏、学生らしいことがしたくて、友人たちと河原で花火をした日。熱気が重くのしかかるような熱帯夜だったと思う。

年甲斐もなく小学生のようにはしゃいだ帰り道、駅までの道を辿りながらふと夜空に浮かぶ満月を見上げていたときだった。
隣を歩いていた彼女がポツリに言ったのだ、「月が怖いの」 と。

私たちの祖先にとって、

もっとみる
明日も、明後日も、ずっと、

明日も、明後日も、ずっと、

「電話ボックスはロマンスを運ぶの。」

微笑みながらそう言う祖母の姿が脳裏をよぎる。

幼い頃の私は、おじいちゃんっ子だったらしい。
祖父は、私が幼稚園に入園する前に他界したため、覚えていることはもう少ないが、記憶の中で頭を撫でてくれた大きな手は祖父のものだったのだろう。
朧げな記憶の中の祖父に少しでも近づきたくて、学生時代の私は、祖母に祖父のプロポーズを言葉を尋ねたことがあった。
結局祖母は最期

もっとみる
ノスタルジー

ノスタルジー

電車で2駅、そこから15分ほどバスに揺られ、さらに歩くこと10分。
某古本街の大通りから少し外れた小さな通りにひっそりと佇む古びたビル。人気は無く一見ただの廃ビルにしか見えないその建物の前を、都会の時間に追われる人々は足早に通り過ぎていく。
そこが私の目的地だった。

長年の汚れのせいでくすんでしまったガラスドアをそっと押し開け中に入ると、備え付けの小さなエレベーターに乗り込む。3階行きのボタンを

もっとみる