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ダイエットの話 ── 江戸時代は?

ダイエット、ダイエット……この志向はいつまで続くのでしょうか。
実は江戸時代にも痩せ型ブームがありました。「柳腰」などといい、細っそりした美人が人気を集めたのです。

ところが、やがて大問題が起きました。
大名などが細身の女性を好み、妻に迎えた結果、お世継ぎができなくなってしまったというのです。
子どもが産まれないというのは大名家にとっては危機でした。

そこで、江戸時代の人々は「美人の定義」を改めました。
ふくよかな女性を尊び、美人画などでもぽっちゃりした人物を描くようになったといいます。
思い切った改革です。
そしてまた、日本の女性は健康的に子どもを産むようになったようです。

「太っている」というのは、男女を問わず、豊かさの象徴でもありました。
そんな、おおらかな時代が続いていたのです。

現代はなぜこのような改革が起こらないのか。
不思議に思っていたのですが、ある時、ふと気づきました。
医療が発達したからではないか?と。

今はかなり細身の女性でも、様々な方法で子どもを産むことができます。
江戸時代なら妊娠が難しかったかもしれない人や、出産で命の危険を感じたであろう女性も、母子ともに無事というケースが増えていると考えられます。
本人は、自然な妊娠、出産と比べて大変な思いをしていたとしても、男性や社会全体にとっては、危機的問題とはされにくいのです。

昭和生まれの、小さくて丸い体形の私にとっては、他にも不思議なことがありました。
平成生まれの日本人が、すごくすらりとして細いことです。男性でも、若い人の中には肩や腰が驚くほど細い人がいます。
戦後、復興とともに食糧事情がよくなったからとか、ライフスタイルが洋風になったからとか、いろいろな理由を聞きましたが、今ひとつ納得できませんでした。
しかし、あるとても可愛い、若い友人が子どもを産み、「帝王切開だったの」と言った時、そうか!と思いました。

細身の美人が、医療の力で子どもを産み続けた結果、昭和では有り得ないほどスリムな男子や女子が誕生したのかと。
見ているぶんには可愛いし、別によいのですが、このままでは将来的にどこまで細くなるのか心配になります。

何とか子どもが産める。差し当たり、大問題は起きていないように見える。だから、ダイエット志向はずっと続いているのかもしれません。
しかし、不妊や少子化の問題は、もう長い間、解決すべき課題といわれています。

最近は、ようやく少し変化が感じられてきました。ぽっちゃりした女性や、若くない人などがモデルとして活躍するケースが出てきたりして、ナチュラル志向が高まっています。
誰でも、本来の自分の体形を否定せず、自然に似合う服を着て、様々な美しさを認め合う。そんな時代が来つつあるのかもしれません。

まさに「江戸時代」の到来です。
私は、現代人が無理に和服を着るべきとは思いませんが、和服はいろいろな体形に合うという意味で、よかったと考えています。
太れば帯を緩めればいいし、背が低ければ着物をはしょればいい。人間が服に合わせて「この体形になるべき」と、努力する必要はなかったのです。

男女が出会って惹かれ合い、子どもを授かるというのは、自然なめぐり合わせであり、縁だ。これが日本古来の考え方だと思います。
自分の容姿や性格は、自然にしておいたほうが、自然な出会いや恋愛関係に恵まれる気がします。気持ちよく適度に運動をして痩せるならいいですが、地獄のようなダイエットをして、「そんな君が好きだ」という相手と結婚をしても、幸せに暮らせるかは疑問です。

生まれつき細い人は、それはそれでいいと思います。江戸時代のように困ることなく、現代の医療で出産できる可能性が高いでしょう。ただ、健康的な生活をし、栄養をたっぷり摂ることは大事です。「もっと痩せれば、トップモデルになれるかも」といった欲は、出さないほうが無難です。

私は背が低くてずっと悩んでいましたが、「モデルになろうかな」と考えたことは一度もなく、それは幸せだった(というか、楽だった)と思います。
モデルというのは大変な仕事です。本当に向いている、一部の人だけがやったほうがいい気がします。
ナチュラル系であれば、話は別ですが……それでも楽な仕事とは思えません。

ダイエットを考えている人は、その前にまず、自分はどのような人生を送りたいのか。これを考えたほうがよいと思います。
無理矢理、細い体型になり、無理が大好きなプライドの高い人と結婚をして、少し美貌が崩れただけで文句や嫌味を言われるような人生が、夢なのか……。
お互いが相手の身体や気持ちを思いやり、皺が増えても白髪が生えても、笑って過ごせるような人生がよいのか。
よく自分自身に問いかけて、納得してから行動したほうがいいと思います。

美人の定義など、時代によって、人によって変わります。
無理をするより、もともと自らに具わっている持ち味や魅力を最大限に発揮したほうが、人に好かれ、自分にピッタリな相手も見つかるのではないでしょうか。

他人より美人になろう。そんなことばかり考えるより、他人に優しくすることのほうが大事です。もちろん、自分に対しても……。ゆったりとした優しさ、柔らかさが人の心を癒し、大きな魅力となっていくのです。そのほうが、ある意味、楽であり長続きする美だと思います。

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多田容子
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