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息抜きに 「軟禁古書店」
軟禁古書店
茅ヶ崎の住宅街に、
ひっそりと佇む「葉隠れ書房」
ここに入り、本を読み始めると、
それを読み終わるまで軟禁されるという。
いや、監禁されるという。
そんな不思議な古書店があった。
ここは茅ヶ崎市菱沼一丁目。
店内にて、夜22時を回った頃。
まだ店の明かりは灯っており、テーブルで読書をしている男性がいる。
カウンターの中にも店主らしき男が読書をしている。
テーブルで読書をしている男が、頭を上下に、
うつらうつらすると、
肩に竹刀が撃ち込まれる。
男は痛みに悶絶する。
撃ち込んだのは店主である。
「真辺さん。まだ半分くらいしか読めてないじゃないですか。シャキッとして下さい。あっ珈琲入れときますね。」
そう言って、まだ少し入っているマグカップを回収していく。
真辺腕時計を見て、
「横田さん。もう22時ですよ。この続きはまた次回に。」
横田、ため息をついて、
「真辺さん。私も正直に言えば少し眠いですよ。しかしね、出れないものは出れないんですよ。」
そう、この「葉隠れ書房」という古本屋は最新の設備、と言って良いか分からないが、今真辺が頭からすっぽり被っているヘッドギア的な物は、脳を解析しており、読書が進み、読了したかどうかを判定出来る機械となっていて、最後の一文字を読み終わるとロックが解除され、顎とおでこの部分が開いて、取り外せる仕組みになっている。
そして、一度これを始めると、出入口と、出入口側の窓を含む壁に電気が通って、途中でドアを開けようものなら火傷を負ってしまうという仕組みになっている。
さしずめ、真辺の人差し指が少し焦げている。
試した様だ。
「横田さん、あなた店主なんだから、解除出来るでしょう?お願いしますよ。」
真辺ペコペコ頭を下げる。
「いやいや、あなたそんな事を考えていたんですか。だから読書が進まないんですよ。いいですか、これは解除できません。この機械のブレーカーだけは外に付いてるんです。しかも金庫の様なボックスになっていて、その鍵は、それです。」
そう言って、壁に掛けてある鍵を指差す。
真辺、青ざめる。
「そんな。脱出不可能なのか。最悪だ。」
横田、珈琲をマグカップに注ぎながら、
ニコニコと、
「真辺さん、あなたが言ったんじゃないですか、ここで読んでいきたいと。」
「そりゃまあ、言いましたけど。」
4時間前
真辺はたしかに「ここで読んでいきたい」と言った。
正確に言えば、
「へー、綺麗なお店ですね!何か一冊買っていきます。けど、こんな素敵な空間で読書してみたいな。あっ、これ、ここで読んでもいいですか?」
と真辺は言った。
店主は店のルールに則り、読書を始めた真辺に後ろからそーっと忍び寄り、ヘッドギアを装着した。
「真辺さん。はい珈琲。読書に集中して下さいね。」
真辺、渋々。
「はい。」
「それにしても、よりによって三島由紀夫の春の雪って、そうとう難しい部類の作品をなんで選んじゃったんですか?まあ超名作ですが」
「いや、なんとなく。」
「なんとなくって、あかんわそりゃ、三島作品は他に何を読みましたか?」
「いや、何も。」
「えー!それは大変だ。大変な上に、一つ気掛かりな事があります。」
「えっ、気がかり?何ですか?」
「ええっとですね、これ、まだ私も未知なのですが、真辺さん、あなたの選んだ春の雪、それ、四部作なんです。多分、全部四冊読まないと解除されないと思います。多分。」
真辺、それを聞いて一度意識を失う。
これが不思議と、読み終わり、
解放される頃には、妙な友情が芽生え、
また来店してしまうから、
始末におえないものである。
「ビブリアの部屋 葉隠れ書房」
あなたのご来店待ってます。