バイクの旅人 3
第3回 ソロツーリングの魅力
前回はマスツーリングの魅力を語りましたが、じつは私は、今回述べる「ソロツーリング」ばかりしています。なんの制約もない、一人旅が好きなのです。
単独のツーリングの魅力は、これはもう「自由気儘」ということでしょう。気が向いた時に気が向いたルートで、気が向いた場所に走り出せるのです。計画の変更もいつでもOK。というより、計画などあまり必要ありません。自由度を奪ってしまいます。気になる脇道があれば曲がり、気に入った景色があれば停まってしまってよいのです。バイクの売りは機動性と駐車スペースの小ささ。この特性をフルに使うべきです。
しかし自由とは、全責任を持つということでもあります。アクシデントが発生したら、対処できる能力がライダーに求められます。なにが起きても、まずはひとりで解決に向かわなければなりません。
ですがそんな知識や技術は、逆説的ですが、トラブルを体験して初めて身につくもの。まずは覚悟して発て、ということです。
そしてこれもパラドックスになりますが、不測の事態が、教訓とともによい思い出として残る場合が多いのです。人の情けと優しさを知り、感謝と思いやりの心を持つようになります。旅先で受けた恩はどこかで返すのが旅人の礼儀。次の旅では、バッグの中に優しさが増えています。ライダーは、旅を重ねて成長するのです。
余談ですが、私の創作のヒントも、そんなソロのバイク旅で多くを得ています。寿郎社から出版した「千マイルブルース」は、旅先での体験を元にまとめた短編集です。ここでもやはり、旅が人を育てています。ぜひご一読を。
さて、ソロツーリングを重ねてゆくと、泊りがけでもっと遠くに足を延ばしたくなります。自由なバイク旅には、やはりキャンプ。次回の最終回では、キャンプツーリングに出発します。
初出 共同通信社