バイクの旅人 2
第2回 マスツーリングの魅力
観光地や行楽地で、よくバイクのグループを見かけます。数人であったり、数十人だったり。「マスツーリング」です。「マス」とは多量、固まりを意味し、つまりは集団や複数で行うツーリングのことをそう呼びます。
ツーリングの初心者は、ここから始めることが多いでしょう。トラブルに対処でき、ペースもビギナーに配慮されます。運転技術も学べ、友人の幅も広がります。そしてなにより、人数が多いという安心感があります。
しかし同じ団体行動なのに、バスや乗用車の旅とはまったく異なります。
まず、それぞれが単独で運転にあたります。そして走行中は、互いに会話ができません。つまり、集団にいても孤独であるという、かなり変わった団体旅行になるのです。
けれど孤立しているわけではありません。きちんと連携し、同じルートと時間を共有しているのです。世界観の違う各々が。これが面白い。休憩時や終了後に感想を述べあうと、見事にバラバラなのです。ある者は峠に広がるパノラマに感嘆し、ある者はコーナーの連続に陶酔し、ある者には寂れた商家が心に残る。まるで映画の鑑賞会です。
そのようにひとりひとりは「独り」なのに、皆で一緒にゴールを目指す。それはやはり共同作業であり、皆でやり遂げたという感触が残ります。
つまり、集団ではあるが孤独であり、孤独だが孤立してはおらず、全体としての一体感や達成感が味わえる。文字にするとややこしくなりますが、このあたりがマスツーリングの面白さでしょう。
ただし、集団での行動である以上、制約はもちろんあります。ペースやコースは勝手に変えられず、わがままは許されません。協調性が強く求められるのです。「みんなはひとりのため。ひとりはみんなのため」です。
これを不自由と思うかどうかが、「マス」と「ソロ」の分岐点になるでしょう。
初出 共同通信社