親になったら、一度はやってみたいこと。
〝男のロマン〟という言葉がある。
男性が想像する
夢とか憧れのようなもののことだ。
それと同じように、私は
〝親のロマン〟というのも
この世には存在していると思っている。
親になったら一度は通る道。
そう、我が子の『胎内記憶』への憧れである。
わかりやすいのでいうと、
「○○君、お母さんのお腹にいた時のこと、覚えてる?」
「うん!おぼえてるよ!」
「お腹の中ってどんなだった?」
「とってもあったかくて気持ちよかった!
だからぼく、お腹にまだいたかったんだ…」
「そうなんだ!
だから出産の時、
なかなかお腹から出てこなかったのね!」
「ぼくのこと、△△って呼んでたでしょ?
お母さんとお父さんが優しい声で呼んでくれてたの、ぼく聞こえてたよ」
「え?!そんな風に呼んでたのは、お父さんとお母さんしか知らないはずなのに…
やっぱり胎内記憶って本当にあるんだ…!」(感動)
〜親のロマン fin.〜
みたいなのだと
もう完璧。
まじで教科書に載ってるレベルのやり取り。
ちなみに、
「ねぇ、お母さんのお腹にいた時のこと覚える?」
「覚えてない!ウンチ!」
〜我が子の胎内記憶について fin.〜
という風に
子どもが全く胎内記憶を覚えてない場合もある。
憧れを抱き過ぎず
親のロマンを求め過ぎずにしておかないと
ちびまる子ちゃんのように
白目をむいて「ガーン」となる場合もある。
でもその覚悟をもってでも、
親は我が子の胎内記憶の確認に挑みたくなる。
僅かな可能性に賭けてみたくなる。
なぜなら、それが親のロマンだからだ。
本当のことかは分からないけど、
私調べによると
胎内記憶については何度も聞かないほうが良いらしい。
何度も聞くと、
親の想いを汲んで子どもも適当に記憶を捏造するから
チャンスは最初の1回きりだと思った方がいい
とのこと。
それと、話し始めの2歳くらいだと胎内記憶があることが多いけど、年齢が上がっていくにつれてその記憶は薄れていってしまうらしい。
確かに友人と胎内記憶について語らったことはないからその通りなんだろう。
だから、親は子どもが2歳くらいになって
ちょっと話せるようになると
「そろそろ聞いてみようかな…?」と
そわそわし出す。
「でもまだ上手くは話せないしなぁ…」
という葛藤も味わう。
とにかくタイミングがめちゃくちゃ大事で
早すぎると上手く話せないし、
遅すぎると忘れている。
しかもチャンスは1回。
この可能性の低さが
より一層親のロマンをかきたてる。
ロマンとはそういうものだ。
我が家の話をしよう。
長男が2歳の頃、
「…ママのお腹の中にいたの覚えてる…?」
「…?」
「…な、何でもない!!」
余りにも息子がキョトンとしていたので、
私はこの大切な1回をノーカウント認定した。
ロマンをとるか、
ルールをとるか、
そんなのロマンに決まってる。
自分で色んな記事を読み漁って勝手に決めたルールを全シカトして、
私は親のロマンを守った。
それが、親の都合というものだ。
私のロマンを、キョトン顔で終わらせてなるものか。
気付けば息子は4歳になり、
ペラペラペラペラとよく喋り、
YouTubeのゲーム実況を真似するまでに成長した。
昨日の夜、
次男が寝静まってから
長男と旦那と3人でリビングにいた時のことだ。
「長男、うさぎ組が今日で終わったね!」
「また一つお兄さんになったね!」
今年度の登園を終えた長男に向かって
私と旦那がニコニコして話しかけると、
長男は得意そうな顔でこちらを見る。
息子の目まぐるしい成長に
旦那と私は感慨深くなり、
ついつい思い出話に花が咲く。
長男も楽しそうに話をしている。
なかなか良い雰囲気だ。
そんな雰囲気に飲み込まれ、
突然旦那が
「そういえば長男ってさ、
ママのお腹にいた時のこと覚えてる?」
と尋ねた。
私が大事に守り抜いた親のロマン。
しかし、確かにこのタイミング以外ない。
雰囲気も完璧。
今なら長男もよく喋ってる。
親も昔を懐かしんで、胸いっぱい。
次男も静かに寝ている。
これ程のシチュエーションが次に来るのは
多分1年後だ。
そう、今しかない。
でかしたぞ、旦那。
なんて言う?
なんて言う?
私と旦那の視線を感じながら
長男がゆっくり口を開く。
「おぼえてるよ。
あったかいお水がいっぱいあって、
お風呂みたいで、
ぼく、すっごい気持ちよかったんだぁ」
キ…
キ…
キタァァァーーーーーー!!!
待ってた甲斐があった!
1回ノーカウントしてよかった!!
このタイミングで聞いてくれて良かった!!!
胎内記憶すげぇぇぇぇ!!!
私と旦那はあまりの嬉しさと衝撃に
言葉を失う。
でもチャンスは今しかない!
1回しか聞けない!
慌てて、長男に質問を続ける。
「ママのお腹の中って何色だった?
見えてたの?」
質問しながら、私はお腹の中を想像する。
真っ暗なのかな?
それとも、赤っぽいとか?
ドキドキしながら息子の返事を待つ。
「えーっとね、黄色!」
「え?!黄色?!」
意外な答えに、
私と旦那はざわつく。
〝おぉー、なんか思ってたの違うけど、
本当に黄色いのかもね。
なんか凄いね…〟
そんな感情を、お互いに視線で交わす。
「ほんとはねぇ、黄色じゃなくて虹色!
レインボーだった!」
続け様に、長男がニコニコしながら言う。
「……。」
「…そっか。」
雲行きが怪しくなってきたが、
旦那はどうしても聞きたかった質問をする。
「長男さ、お腹でパパの声聞こえてた?」
初めての妊娠中、
母性など皆無で一度も話しかけなかった私とは真逆で
旦那は毎晩欠かさずに私の腹を撫で、
長男に優しい声で話しかけていた。
母性に溢れた男だった。
その声が届いていたのか、
どうしても確認したかったのだ。
「…えっとぉー…」
誰にも言えない秘密を打ち明けられる時の様に、
私と旦那は耳をそばだてる。
漫画のように「ゴクリ…」と
頭上に描かれそうな勢いである。
またもや長男はゆっくり口を開く。
「聞こえてたよ!」
ヤ…
ヤ…
ヤッタァァァーーーー!!!
旦那の声届いてたー!
旦那の思い届いてたー!!
良かったねーーーーー!!!
まじで胎内記憶すげぇぇぇぇぇぇ!!!
「パパの声が怖くて、
ぼくびっくりして、
スースーって寝ちゃったの!」
「あ、へぇ〜…」
「あ、そうなんだ…」
その後続いた意外な言葉に、
何とも言えない相槌をうちながら
またもや私と旦那はざわつく。
〝確かに突然声がしたら
びっくりするのかもね…
でも、優しい声だったけどな…〟
そんな感情を、お互いに視線で交わす。
旦那は怖かったと言われて、
心なしかショックを受けているようだった。
そして、それ以上は
私も旦那も何も聞かなかった。
その日の夜、
眠りにつく時に思い出したことがある。
前に旦那と長男と次男と
お風呂に浸かりながら、
「羊水って、これくらいの温度らしいよ」
と話したことを。
「羊水って何?」
「羊水って、ママのお腹に赤ちゃんがいる時にお腹にあるお水のこと!
赤ちゃんは羊水の中にぷかぷか浮かんでるんだよ!
今のお風呂みたいな感じなのかもね!」
「へぇー!じゃあお腹の中って気持ちいいんだね!」
私はその記憶を思い出しながら、
先ほどの長男の胎内記憶発言と照らし合わせてみる。
もう何も言うまい。
翌日。
テレビを見ていた長男が、
「あ、そういえばさぁ。
ぼく赤ちゃんでママのお腹にいた時さぁ。
ほら、0歳のころ」
「うんうん」
「お腹の中で、タンエン食べてたわ」
テレビには
タンエンが流れていた。
私が食べたタンエンを、
臍の緒から食べたのね!
とかじゃなくて、
ママ、タンエン食べたことないんだけど。
今初めて、タンエンって食べ物がある事を知ったんだけど。
だから君もないでしょ、食べたこと。
でも美味そうだね。
私の経験によると、
やはり子どもは『胎内記憶』について
親の想いを汲んだり汲まなかったり
周りのものから影響を受けたりして
何となーく話をしてるのかもしれない。
そして親は『胎内記憶』について
「どーせ覚えてないだろうけど…」と
無理矢理自分に思い込ませても、
どうしても期待してしまうのかもしれない。
この思った通りにいかない感じが、
やはり、より一層親のロマンをかきたてる。
ロマンとはそういうものだ。
〜長男のタンエン記憶 fin.〜
〜次男へ続く〜
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