BUMPのアルバム「aurora arc」の魅力を解説
バンドサウンドに原点回帰したかもしれない可能性、星と猫と出会いと別れを歌う一貫性、演奏技術の向上とアレンジの新しさ、曲の個性の強さ、幸福感がニューアルバムの魅力だ。以上がこのページの要点だ。BUMP OF CHICKENが2019年7月10日(水)にニューアルバム「aurora arc」を発売する。そこで私、街河ヒカリがニューアルバムの特徴と魅力をまとめることにしよう。今は発売前のため未発表の曲についてはコメントできず、発表された曲についてだけコメントすることにする。2019年6月4日(火)までの情報を元に書いている。間違っている部分があるかもしれないので、随時加筆修正する予定だ。このページは全体で約5000字あり、すべて無料だ。ちなみにこのページは、私が2019年3月14日に公開した記事を加筆修正したものだ。
最後にはBUMPの変遷をまとめた文章へのリンクを載せたので、さらに深く考察したい方はそちらを読んでほしい。
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ニューアルバムの概要
BUMP OF CHICKENのニューアルバムが2019年7月10日(水)に発売されると、2019年3月14日(木)に発表された。また、ツアーの開催も発表された。2019年6月4日(火)にはアルバムのタイトルが「aurora arc」だと発表され、収録曲のタイトルも発表された。また、ツアータイトルは「aurora ark」だと発表された。アルバムがarcでツアーがarkだ。
「aurora arc」をカタカナで書くと「オーロラ アーク」か?間違っていたら教えてほしい。
アルバムの公式サイトはこちら。
収録曲は次の14曲ある。
aurora arc
月虹
Aurora
記念撮影
ジャングルジム
リボン
シリウス
アリア
話がしたいよ
アンサー
望遠のマーチ
Spica
新世界
流れ星の正体
以上がアルバム収録曲である。おそらく、曲順もこの通りだと思われる。14曲中12曲がすでに公開されているため、発売前の現在でも視聴が可能だ。「aurora arc」と「ジャングルジム」だけは未公開だ。
これ以降では、視聴可能な12曲だけに基づき、ニューアルバム「aurora arc」の特徴と魅力をまとめる。
特徴その1 バンドサウンドに原点回帰した?
2007年のアルバム「orbital period」、2010年のアルバム「COSMONAUT」では、シンセを導入した曲や、ストリングスを導入した曲が登場した。続いて2014年のアルバム「RAY」、2016年のアルバム「Butterflies」では、エレクトロなアレンジの曲が登場した。もちろんバンドサウンドの曲もあったが、全体的には、初期のBUMPにあったバンド感は弱まったようだった。
しかし2016年以降は逆にバンド感が強まったようにも感じられる。原点回帰したのか?
雑誌『MUSICA』2018年8月号には、藤原基央へのインタビュー記事があった。当時はアルバムの発売が未決定だったのだが、インタビューアーの鹿野淳は近年のBUMPの曲を「アップデート感がある楽曲と原点回帰的な楽曲がバランスよく混在している」と捉えていた(『MUSICA』2018年8月号p.38)。
鹿野淳が「原点回帰」と捉えた曲は、2018年発表の「望遠のマーチ」だった。「望遠のマーチ」は、スマートフォンアプリ『妖怪ウォッチ ワールド』のCMソングでもある。YouTubeで視聴できる。
以下が「望遠のマーチ」についての発言である。
鹿野淳「楽曲とかアレンジとかギターのフレーズとかビート感とか、そういうところはバンドの初期の感じを思い出させる」
藤原基央「この曲、メロディの随所にブルーノートっていう音階が含まれているんですけど。僕は時々それを使うんですけど、ここまで多用することは珍しくて……何が言いたいかというと、要するにブルーノートを使う音楽は自分の音楽体験の原風景にあるものなんですよ。そういう、俺の古くは幼稚園の時からの音楽体験の根底にある部分のいくつかの要素が強めに表れてる曲だな、と。そのニュアンス、コード感は『FLAME VAIN』の頃はちょこっと入ってるんですけど。“ナイフ”とかにもちょっと残ってるし、“リトルブレイバー”とかも、あれはUKのほうからの影響とサザンロックの影響とごちゃ混ぜになってるんですけど、でも、入ってる。そういう自分の原風景がそのまま出てるなって思いますね、この曲は。」
藤原基央「たとえば2番のAメロはパワーコードで久々にガンガン弾いたんですけど、それも面白かったし。パワーコード自体は今も全然いろいろ弾くんですけど、パワーコードで全部を引っ張るっていうことは割と久々にやったことで。それこそ『FLAME VAIN』とか『THE LIVING DEAD』でやってたようなことなんですよね」
(『MUSICA』2018年8月号p.36)
ただし藤原基央の発言によると、原点回帰を目指したわけではなく、「気づいたらそういう感じだった」とのことだ。
しかし「原点回帰」とは、「初期の頃と同じ」という意味ではない。初期の頃よりも複雑で高度な技術を使い、一周して初期の頃のテイストを再構築したようにも感じられる。それがニューアルバム「aurora arc」の特徴の2番目だ。
特徴その2 演奏技術の向上とアレンジの新しさ
初期の頃に比べるとBUMPのメンバーは年々演奏技術が向上している。藤原基央は以前から歌がうまかったがさらに向上し、近年は伸びやかでウェットな声質に変化した。しかも藤原基央は曲ごとに歌い方を変えている。
前述の雑誌『MUSICA』でインタビューアーの鹿野淳は2018年の曲「Spica」について、「本当にカッコいい。音楽の構造として非常にオリジナリティが高い」と評価した(『MUSICA』2018年8月号p.33)。
「Spica」に限らず、近年のBUMPの曲をヘッドフォンやイヤーフォンでじっくり聴くと、繊細で凝ったアレンジと、藤原基央の声質が曲ごとに異なっていることが分かる。スマホやPCのスピーカーではそこまで聴き取れないかもしれない。ぜひヘッドフォン・イヤーフォンで聴いてほしい。
初期の頃と同じテイストを求めている方は、好きになれないかもしれない。しかし私は今だからこそ聴ける曲をお薦めしたい。
特徴その3 変わらない本質
「BUMPは初期の頃のほうが良かった」「ユグドラシルまで」と言う人もいるが、歌詞の本質は変わっていない。生と死、出会いと別れ、希望と絶望、星と空と宇宙、時間と記憶、反復と対比。今回のアルバム「aurora arc」でも、同じことを歌っている。
また、BUMPの歌詞といえば猫が頻繁に登場したのだが、近年は残念ながら猫の登場が初期の頃よりは珍しくなった。しかし、2017年の曲「リボン」には猫が登場する。なお、リボンはバンド結成20周年の最後に書かれた曲であり、今までの歌詞を振り返るような言葉が並んでいる。
「嵐」「ポケット」「ガラス玉」「手作りの地図」「野良猫」、やはり20周年だからこそ生まれた歌詞だ。
特徴その4 曲の個性が強い
2014年のアルバム「RAY」と2016年のアルバム「Butterflies」に収録された曲は、かなりバラエティに富んでいた。個性が強く派手でキャッチーな曲もあったが、中にはそうでない曲もあった。マニアではない人には魅力が感じづらい曲や、聴かせどころが際立っていない曲もあった。それらの曲が、「BUMPは初期のころのほうが良かった」と言われた要因の一つだったのかもしれない。
前回のアルバム発売以降に発表された曲は12曲あるが、そのうち11曲が、映画・アニメ・ドラマ・CMに使われた。これは他のミュージシャンにも言えることだが、テレビや映画で使われる曲は、マニアではない素人さえも惹きつけるキャッチーな曲である傾向にある。近年のBUMPの曲も同じだ。個性が強く、派手で、聴かせどころが際立っている。かつ、一曲一曲のテイストが異なっているので、アルバム全体の彩りが豊かに感じられるはずだ。
前回のアルバム発売以降に発表された曲を簡単に紹介しよう。
「アリア」
TBSドラマ『仰げば尊し』の主題歌
「アンサー」
テレビアニメ『3月のライオン』のオープニングテーマ
「流れ星の正体」
藤原基央は雑誌「B=PASS」でコラムの連載をしていたが、2017年3月号で連載を終了することになった。藤原基央が最終回を書こうとすると、歌詞になったので曲にした。テレビや映画などでの採用なし。YouTubeで2017年1月28日から1月30日までに期間限定公開された。その後は未公開であったが、2019年4月11日にInstagramと公式サイトで公開され、4月12日にYouTubeで公開された。ちなみに4月12日は藤原基央の誕生日である。現在も視聴できる。
「リボン」
バンド結成20周年の最終日であった2017年2月10日に「リボン」のスタジオライブ生配信をした(2016年2月11日がバンド結成20周年記念日だった)。GalaxyのCMソング。
「記念撮影」
カップヌードルのCMソング
「シリウス」
テレビアニメ『重神機パンドーラ』のオープニングテーマ
「Spica」
テレビアニメ『重神機パンドーラ』のエンディングテーマ
「望遠のマーチ」
スマートフォンアプリ『妖怪ウォッチ ワールド』のCMソング
「話がしたいよ」
映画『億男』の主題歌
「月虹」
テレビアニメ『からくりサーカス』のオープニングテーマ
「新世界」
ロッテ創業70周年記念スペシャルアニメーション『ベイビーアイラブユーだぜ』のテーマソング
「Aurora」
TBSドラマ『グッドワイフ』の主題歌
特徴その5 歌詞の幸福感と抽象化
かつてBUMPの歌詞は、ワンフレーズだけでもインパクトがあった。詩に親しんだ経験が浅い人でも心を動かされた。雪の中を満身創痍で走るような痛みがあった。
1999年「アルエ」
ハートに巻いた包帯を 僕がゆっくりほどくから
2000年「リリィ」
「出てこいウソツキめ!」と 自分の歌に格好悪く脅されるんだ
しかし近年の歌詞には抽象的な言葉が増え、より詩らしくなった。幸福感を表現する歌詞が増え、もがき苦しみながら生きていくような歌詞は少なくなった。ワンフレーズのインパクトは薄くなった。しかし全体の構成の美しさは健在だ。ワンフレーズだけ取り出しても、その曲の魅力は分からない。
だから初期と同じ歌詞を求めている人は、ニューアルバム「aurora arc」を好きになれないかもしれない。
特徴その6 物語を表現する歌詞の難化
初期から中期のBUMPの歌詞といえば、物語形式を取ることで有名だった。「K」「ラフ・メイカー」「車輪の唄」などが特に有名だった。
BUMPが年数を経るに伴い、「いつ・どこで・だれが・何をする」かが明確に書かれた物語形式の歌詞は、だんだんと減っていった。
しかし2017年の曲「記念撮影」は、曲の中で過去と今と未来があり、主人公の心情の変化がある。分かりづらいが、実は物語形式である。そのほかにも主人公の心情の変化がある曲が何曲かある。
以上です。
間違っている部分があれば直します。新情報が入りしだい更新する予定です。ご感想をお持ちしています。皆様からこのページを拡散していただけたら幸いです。
これ以降は、補足です。
補足
私は2018年に「BUMPとRADは似てるのか?綾波レイと君の名は。」と題した2万6千字の文章を無料でnoteに公開したので、BUMPの変遷と藤原基央の感性を知りたい方にお薦めします。中学生だった升秀夫が藤原基央の胸ぐらをつかみ「俺と一緒にロックを変えようぜ」と誘ったバンド結成、藤原基央の高校中退、ガラスのブルース、天体観測、ray、初音ミク、3月のライオンについても書きました。
また、私の知人であるハコサトさんがBUMPの歌詞の解釈を書いていらっしゃるので、こちらのサイトもお薦めします。
補足は以上です。今後も街河ヒカリをよろしくお願いします。