『役職が人を育てる』って本当にそう?
『役職が人を育てる』や『ポジションが人を育てる』や『肩書きが人を成長させる』などなど、
言い方はいろいろありますが、役職を与えると成長させられるという論は、誰が言い出したのかよく耳にします。
組織内のアサインを決めるときに、この話を引き合いに出しつつ
「マネージャーに任命してみるか!」と決断されることを見ることもあります。
その判断がされたからなのかわかりませんが、
30名もいない会社なのに CxO が6名もいる会社を見たこともあります。
しかしマネージャーにすれば成長するかというとそんなこともなく、
実際にうまくワークするパターンは体感50%くらいです。
どうして成功することがあって、失敗することもあるのでしょうか?
1. 『役職が人を育てる』の成功パターン
マネージャーなどの役職が与えられたとき、その人のやることや権限は広がり、たいてい以下のことが起こります。
メンバーをマネジメントするようになる/採用に携わるようになる
会社の事業情報や人事情報など知る情報が増える
自身で決定しないといけないことが増え、それへの責任も伴う
自身のマネージャーが変わり、より経営メンバー側に近付く
これによって、チームマネジメントの知識を実践とともに学んだり、
知る情報が増えることでより緻密な意思決定をおこなえるようになったり、
自身の行動による影響・重要さを知ることで、責任感が強くなったり深く考える習慣がついたり、
経営メンバーとの距離が近づきコミュニケーションが増えることで、経営への関心や知識が増すことが期待されます。
こうして、そのポジションにふさわしい知識と経験や責任感を持った人材が出来上がっていく。
これが成功パターンです。
2. 『役職が人を育てる』はこうして失敗する
成功パターンと比較すると、
以下のような失敗例のいずれかや複数を踏むことで、思ったほどの成果を上げられません。
メンバーをマネジメントするようになる/採用に携わるようになる
成功:チームマネジメントの知識を実践とともに学ぶ
失敗:チームマネジメントを学ばず、我流でおこなったりマネジメントしなかったりで、チームの成長に寄与しない
会社の事業情報や人事情報など知る情報が増える
成功:情報が増えることでより緻密な意思決定をおこなえる
失敗:任命されるだけで、与えられる情報は増えない
自身で決定しないといけないことが増え、それへの責任も伴う
成功:責任感が強くなったり深く考える習慣がつく
失敗:周りのお伺いを立てるばかりで意思決定できない
失敗:失敗しても「仕方ないか」と考え成長しない
失敗:自身の責任を認識せず、思いつきで物事を決める
失敗:責任に耐えきれず病気になる
自身のマネージャーが変わり、より経営メンバー側に近付く
成功:マネージャーとのコミュニケーションで知識が増す
失敗:マネージャーと会話する頻度が少ない
失敗:マネージャーからフィードバックがされない
この失敗原因は、本人に起因するものもありますが、
ほとんど、その人に役職を与えた側に起因します。
期待値や現在位置のフィードバックを重ねていけば本人もアジャストできるのですが、たいてい丁寧なフィードバックはされません。
なぜなら、「役職が人を育てるっていうからマネージャーにしてみよう!」と言う人は、人材育成についての知識や関心が薄いからです。
「そうすれば勝手に人が育つらしい」という認識なので、役職に見合うまで成長させていくという意識はあまりありません。
それでも、役職を与えられた側というのは優秀なので、
自分自身で改善を図ったり、自身のマネージャーに自分からフィードバックを求めに向かったりすることで、成長できることがあります。
こういう自走力がある人によって、結果的に成功パターンの割合が50%くらいに上がっているように感じます。
3. 『役職が人を育てる』で失敗しないためには
人材育成に手を抜いてはいけないと私は思いますが、
人もお金も少ないベンチャー企業が、
「人材の育成に時間をかけられないよ!」と言う気持ちもわかります。
そこで、人材育成にほどよく時間をかけないでいながら、
『役職が人を育てる』の成功率を上げる方法について考えてみましょう。
3-1. 自身で改善できる人に役職を任命する
失敗例に書いた『失敗しても「仕方ないか」と考え成長しない』などの人は、適切なマネジメントによって改善できる可能性もありますが、それには時間がかかります。
任命前に、自分自身での改善をおこなうタイプの人間かに着目しましょう。
言われたことを高品質でこなす人を評価してしまいがちですが、
役職を与えるべき人は、言われたことに対してさらによく出来ないかの提案をして、それをやり遂げる人です。
また、問題分析能力がある人かどうかの確認もしておきましょう。
例えば「チームを超えたシャッフルランチは会社としてどうしておこなっているのか?」という疑問に対して、
「社内の結束を高めるため」とまでしか答えられない人と、
そこからさらに踏み込んで「社内の結束が高められると何がいいのか?」「社内の人が仲良くなることで逆に不都合はないのか?」などと思考を深められる人に分かれます。
実際になにか質問を出してみて、こういった深い思考ができるのかを確認し、問題分析能力がある人か検証してみるとよいでしょう。
これができない場合、改善能力がまだ弱く自走力に欠けるので、まずはコンサルタントの必読書などを読んでもらってクリティカルシンキングを鍛えてもらうといいと思います。
3-2. 自分の持っている情報をすべて共有する
失敗例に『任命されるだけで、与えられる情報は増えない』と書きました。
自走力がある人でもどうにもならないのが「情報」です。
役職に任命する側の人は、その役職に必要そうな情報を選別して渡すのではなく、あなたの持っている情報をすべて共有するようにしましょう。
Google Drive のフォルダごと共有するイメージです。
そうすることで自走できる人であれば、
自身に必要な情報を取捨選択してより緻密な意思決定をできるようになっていきます。
もし、「自分の持っている情報をすべて渡して悪用されたらどうしよう……」などと思うのなら、信用が足りていないのでまだ任命するべきではありません。
3-3. 最低でも1ヶ月に1度は、現在の期待値を伝える
いくら自走できる人に役職を与えても、やはりフィードバックは必要です。
役職を与えられた人は、その役職をこなせているのか自分ではわかりません。
役職任命者から、現在の期待値や、どこを評価しているのかを伝えることを継続的におこなうのは、
成長促進だけでなく、退職の防止にもなります。
面談にあたっては、事前に30分以上かけて「現在の期待値や、どこを評価しているのか」についてドキュメントにまとめておいてください。
ぶっつけ本番で挑むと、相手に伝わるいいフィードバックがあまりできず、その場での思いつきを伝えることになりがちです。
事前の準備があれば、面談自体は30分で終わることでしょう。
4. おわりに
結局のところ、『役職が人を育てる』が本当かといえば、私の見解としては
「人の成長を促進できる場合もあるが、責任や周囲の期待だけ上がって退職に至る危険性もある、取り扱い注意の剣」だと思います。
メンバーの成長で悩んだとき、
『役職が人を育てる』という言葉に影響されてとりあえずで役職を与えてしまうより先に、
その人に与えられる情報を増やせないか、インターン1名だけのマネジメントをまずはお願いするなどできないか、といったところから始めてみるのも手かもしれませんね!
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