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言葉の宝箱 130【古いものはね、よくここまで出来たと思うほど無駄がそぎ落としてある。ものの核心を、ぎゅっと素手でつかみ出したみたいなところがある】

『星の衣』高橋治(講談社1995/11/24)

機に浮かぶ模様が
忘れがたい男の優しさ、忘れてしまいたい男の面影を織り出していく。
沖縄の伝統織物に生涯をかける2人の女、
汀子は亡き夫へ捧げる首里織、尚子は新しい人生の証となる八重山上布。
生と愛の情念を織り上げる女の直向きさを描いた吉川英治文学賞受賞作。

・あの時期には二度と帰れないということが、信じられない。
老いるのは、こんなに呆気ないことなのかと(略)
若さへの嫉妬ではないのです。
自分が老いてしまったことへの悔いでもないのです。
もっと、動物本然のもの、つまり、
活力、体の斬れ味、怖ろしさに立ち向う前の一種の傲岸さ、
そうした誰でも一度は持っていたものを、
私はもう永遠に失ってしまっている P20

・逆らい、憎み、呪ったところで、なにが変わるわけでもない。
それよりも、
ある時期までは、自分を乗せて流れるものに身をまかせた方が良い P50

・古いものはね、
よくここまで出来たと思うほど無駄がそぎ落としてある。つまり、
ものの核心を、ぎゅっと素手でつかみ出したみたいなところがあるのさ P250

・「仕方がないや」私は決断します。
そして、いつかはわかってもらえるだろうと信じながら努力します。
美波はそれが出来ないのです。
先ず、万一にも誤解を生まないようにしようとするところから始めます。
ですから、時間がかかるのです(略)
細心で緻密なのです。
どちらが良いのかは、それこそ一長一短でしょう P257

・正直な人ほど、
他人を責められないことを知って、自分に刃を向ける P266

・人間は一歩ずつしか前に進めない。
だからって、立ち停まっちゃいかん(略)
今は大股に歩く時だ。どんなに歩幅をひろげても良い。
物作りの一生にはなん度か、
自分になぜこんなことが出来るのかと思うほど上手くなることがある。
君はいまその時期に差しかかってる。立ち停まっちゃ駄目だ。
そうさせるなにかがあるんなら、全部切り捨てる(略)
君をのせて動いている潮は、滅多につかまえられるものじゃない。
だが、他の大抵のものは、
少々時期を逃しても後戻りすれば、取り返しがつく P345

・女と男のことなんてのは、たかだか長持ちして二年か三年だ。
夫婦になって三十年、四十年なんてのも、
これはもう意地の突っぱり合いで我慢比べ P348

・逃げたくなる。気分を変えたくなる。
そこを無理押しして突き抜けるのよ。
それが完全に自分のものになった時に、初めて楽しみが沸いて来る P384

・自信は恐ろしいものです。
殊に、技に関しては無限の力を持つ味方になってくれます(略)
自分が上達しているのがわかるのです P465

・世間は見る眼がない人間の集まりではないんですから、
どなたがどういってた、あの人がそれとなく眼をかけている。
そういう話も自然と耳に入って来ます P493

・力でねじ伏せるしか
仲よくする道がないことが、人と人との間にはあるものさ P538


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