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その階段の手すり、足りてます? ~危険部位をカバーする、手すりの追加


noteで記事を書くようになって役立っていることのひとつに、様々なケアマネさんが残している記事を拝読できる、ということがある。
なんといっても、こちらへの仕事の依頼の多くはケアマネもしくは地域包括の方がかなりの割合を占める。なので、それらの方々の思考を辿ることで、新たな気づきが得られることがあるのだった。

今回はそんなお話です。

いつも拝読している、こずえさんの経験された、利用者さんの住環境の話です。タイトルに食いついて斜め読み、即コメント。
恥ずかしながら、手すりがすでに付いているケースの話であることを読み落としていたことをご返信で知り、顔から火が出る思いだったのですが。

でも待てよ、とも思ったわけです。自分の仕事では、すでに手すりのついている階段に、新たに手すりを付け足すケース、結構あるぞ、と。

というわけで、手すりはあるけど足りていない階段と、その追加対策の話です。


まず、手すりとはどういうふうに役立っているか、という話を改めて確認。

支持基底面と重心位置の話を踏まえていないと、この階段の手すりの話は説明が難しいのでリンク再掲です。

階段って、複数の段差の連続です。つまり、進むためにはどちらかの足を床から離す必要が出てくる。言い換えると、片足立ちを繰り返すのが階段、です。そして片足立ちの瞬間の支持基底面は片足の底だけ、なのでその狭い面に重心からの垂線を重ねないと倒れる。安定していないのは言わずもがな。

でも、手すりを取り付けると、それを保持した瞬間に脚が1本増えたのと同じ効果を発揮します。階段に手すりが必須と言われるゆえんです。

ですが、その状態が途切れるところがあると、危ないのです。

自分はそれを説明する時に、「断崖絶壁に手を引いて行って放置」と表現しています。中途半端に手すりを取り付けることで、むしろ余計な危険を生んでいるという見立てです。


ありがちなのは、例えばこういうところ。階段途中から見下ろすと、こう。

あとちょっと、で手すりがなくなる

これ、手すりのない部分で、高齢の皆さんの上り動作はどうなるかイメージできますか?

答えは、四つ足で歩く、です。上の方の段に手をついて、支持基底面を広げて登っていく。なので、上り方向には、手すりがなくても登れてしまうのです。それも、階段が急であればあるほど立ち姿勢に近い姿勢になり、安定します。


でも、行きはよいよい、なのですね。
四つ足で上がる高齢の方、前向きでの動作の場合、下りは手すりがないと降りられない、となるはずです。そして、あと数段というところで、手すりがなくなり、動きが止まります
おまけに段のかたちまで歩きにくい三角形に。ここで内回りで踏み外すと、数段まとめて一気に落ちることになる、危険箇所です。

要領の良い方だと、お尻をついていざり歩きしたり、後ろ向きになって四つ足で降りたりすることもありますが、動作は安定するものの、お尻が痛かったり振り向いても足元が見えなかったりするのが難。

なのでここで、側壁に手をついて前向きでなんとか降りられているケース、結構あります。それを、階段の上りも下りもなんとか出来ている、と評価すると危ない。
最後の数段は、支持基底面が狭くなっているところに、側壁に手をつくことで姿勢を細かくコントロールして重心位置を乗せている、からです。でも、手が滑ったり、力が足りなければ即座にバランスが崩れます

なので、こういうケースではできるならば、こうして手すりを追加します。

可能なら連続させたいけど、このケースは太さ違いで断念

なおこのかたちの手すり、現行の建築基準法ではアウトになりますが、回る部分が三角形の階段ではなく踊り場だったらセーフ、のはず。
法的には高さが1mを超える階段に手すりの設置義務があるので、平坦な踊り場で階段を分割して、その片側の高低差が1m以下だったら手すりは不要です。デザイン寄りの設計者はやるかもしれない手法ですが、危ないんです、それ。

いちおう業界向けにも発信しますよ


ほかにも、こういう対応をすることもあります。
段の周り部分の内側に縦手すりを設置。平面的に見ると、文房具のコンパスにおける、針の位置ですね。利用者さんに握力がそれなりにある場合は、これだけで回る部分の手すりは足りてしまうこともあります。
そして副次的効果として、階段の内回りを歩きにくくなる効果もあります。握った手と腕の長さが内の手すり位置から足され、内側の壁角から30cmくらいの距離の、踏み外しにくいところを歩かされるわけですね。

右側の縦手すりがポイント

なおこの縦手すり使い、180°廻りの部分の内側や、あと少し手すりが足りない最下段などでも効果的です。

こういうところとか
あと一歩のところとか

ほかにも、階段のところだけあればいいわけじゃない、というケースも。

最後の一段がのぼれない
降りるとき怖い、の対策に

こちら、階段最上段の手すりが階段で切れているところに、横手すりを足したケース。斜めの手すりだけだと最後の一歩の足が出ないとか、逆に降りるときに階段の最上段に立つのが怖い、ということになりがちです。なので、階段の上と下には、見えない階段が一段あると考えて、手すりを少し伸ばすとずいぶん動きは楽になり、安心感も増えます。

なお上記のそれぞれの付け足し手すり、大概は介護保険の住宅改修費支給も使えます。要介護認定を受けている方は、まずケアマネさんにご相談をお願いしたく。


ほかにも、上り下りそれぞれの姿勢の違いや円背の状態と、手すり高さの変化の話とか、握力のあるなしでの判断の違いとか、実は現場ではいろいろ考えて提案していることに、改めて気付いた次第です。そのあたりはいつかまた別記事で。

以上、こずえさんの記事を受けての、お詫び的な意味も込めた解説記事、でした。

皆様のご自宅や、ご利用者さんのお宅も、こんな視線でぜひチェックしていただけると、嬉しく思います。

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てすり屋のひとりごと 橋本 洋一郎(合同会社 湘南改造家)
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