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歳を取っても暮らせる家のツボ 〜座っての動作のすすめ(玄関編)



「歩けなくなったら終わりだよ」

みたいな脅し文句のような励ましに、自らを奮い立たせて、日々トレーニングジムと見まごうような運動型デイサービスに通い、マシンを使って運動に励んでいる高齢者の方は多い、と思います。

介護予防とも呼ばれるものの主力メニューたるそれは、当たり前だが転倒予防の役に立つ。フレイル状態にならないためにはお勧めできるし、全く悪いことじゃない。じゃないのだが。

世界は、自らジムにお金を出して通うような人種だけで成り立っているわけではないのだ、とあえて言ってみたい。

自分のように。
できることなら、用事のない休みの日は怠惰にごろごろしていたい。スポーツは見る専門(たまにゴール裏で跳ねたりもするが)、普段の運動は散歩くらいで何とかならんかな、というぐうたら派であるから、自分がいざその歳になっても、運動型デイや、通所リハに突如通いたくなるとは思えない。これでは転倒予備軍まっしぐら、である。

また、どんなにトレーニングをしていても、その瞬間に意識が落ちてしまえばばったり転ぶ。最近、実の父が転倒して怪我をしたのだが、手の甲などの負傷箇所からそれを疑ったりもしていることもあり、本日はこれを書くことを思いついた次第でもあるのです。

運動による筋力等の維持、あれは車の片輪。だからこそ、もう片側である、住まいなどの環境を整備することもまた有効なのである。


でも具体的に何をすればいいの?という話がそこで出てきますよね。

わかりやすいのは手すりをつけること。専門用語で言えば、これで支持基底面が増え、転倒のリスクを減らせる。

そして、小さい段差を減らすこと。これで蹴つまずく要素、滑る要素を減らす。この2つが、転倒を防ぐための住環境整備の王道です。

とても大切な支持基底面の話、↑のリンクをお読みいただければ幸いです。

 

でも、そんな支持基底面を増やすものは、何も手すりだけじゃないのです。
そう、お尻の使い方です。本日はそんなお話を。


そもそもの問題は、二足歩行


人間は前脚を他の動物と違う目的に使う形に進化したので(手を様々な作業に使う動物として、ですね)、ニ足歩行という非常に不安定な移動形態をとる。
でも、その不安定さには、次の動作に移りやすいというメリットもあるのです。これ、どういうことでしょう。


航空機の話に例えると、飛行特性が安定した飛行機は、急な機動をする戦闘機には向かない。安定した揚力を生み出す翼が、そのまままっすぐ飛んでいようとする慣性の味方をしてしまうからである。要は、すぐには曲がらない。

そこに革命をもたらしたのが、人力+油圧を利用していた操縦系統に、電気とサーボモーターを利用する、フライバイワイヤというシステム。今はそれがさらに進んで、光ケーブルとモーターになり、フライバイライトと呼ばれております。

これの良いところは、パイロットによる操縦の入力に加えて、センサーと電子演算による補正をかけられること。

なので、素直に飛ばしたらすぐに墜落してしまうような不安定な設計の飛行機に、1秒間に何回も微細なコントロールをする制御を加えて、まっすぐ飛ばすことができるようになったわけで。

そしてこういった飛行機は、もともと飛行特性が不安定なので、いざ曲がろうとしたときの反応が速いし、航空力学的には不合理な形態であっても、細かく制御して飛ばせてしまう。昨今の軍用機の不思議なスタイルは、この技術が支えているのでした。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/a1/F-117_Nighthawk_Front.jpg  より
こんなのが飛ぶとかおかしいだろ、と思いましたよね当時は


話を戻すと、人間の二足歩行もこの話に似た面があります。不安定な二足歩行だからこそ、それを細かく制御することで単調な移動だけでなく、様々な周囲の状況に合わせた移動ができている、と言える。

二足歩行は不安定上等、それを繊細な制御でどうにかしているわけですね。


そんな繊細な制御系や、パワフルなモーターがくたびれるのが加齢の宿命なので、どんなに頑張ってもだんだん転倒が増えるのは、もともと人間が持っている特性だと思ってほしい。不安定な移動方法を選択した、はるか昔のご先祖様のせいです。

で、そのために足の数を増やすかのように、手すりなどを付けて安定した姿勢を作るのだけど、実は転倒の危険箇所は、移動する場所だけではないのです。


姿勢が変わる・段差がある場所で、座れるようにする


玄関の上がり框や、浴室の浴槽跨ぎなど。これらは、身体は移動していないけど、これを立位でやろうとするとどうしても片足が上がり、とても不安定な姿勢になります。

常套手段としては、やっぱり手すりをつけて支持基底面を増やす、なのですが。それとともに忘れてほしくないのが、脚の替わりにおしりを活用することです。なんのことはない、椅子に座る、ということですが。

座位という姿勢の支持基底面は、脚とおしり(両側の坐骨部ですね)で構成されております。

左の状態が座位の支持基底面(下)と、側方からみたところ

なので、当たり前の話すぎて恐縮なのですが、
座ってやれるのなら、座ってやったほうが転ばないのです。

でも、人には、今までの暮らしの継続性という慣性がはたらく。なので立ってやってたことを、認知機能が微妙になってから座ってやりましょうね、となってもなかなか受け入れられにくい、そういう問題がでてきます。

なので、ある程度元気なうちから、座ってやれることは座ってやる練習をするのがいいな、と思っているのです。そして、こちらができることは、そのための環境整備、となります。

玄関+座位のくふう


靴の脱ぎ履きと、上がり框の昇降という2大イベントを日々繰り広げるのが玄関。そこに椅子を置くと、逆に空間が狭くなって移動の際に引っかかる、ということもあります。
そんなときはこういう手もあるよ、という事例がこちら。トップ画像のものもそうですね。

折りたたみベンチを、壁補強の上で設置

壁付き折りたたみ椅子【マツ六(株)】

この製品、ちゃんと脚がついています。固定のために壁に補強は要るんですけど、鉛直荷重は壁に持たせるわけじゃないので(なのでネジに剪断力は作用せず引き抜きだけ防げばいい)、座った途端に抜け落ちて脱落などのリスクがすくなく安全性が高い。残念ながら介護保険は使えないのですが、狭めの玄関に、後付けする場合はコチラ、お勧めできます。それに合わせて、手すりの位置も検討すると尚良し、ですね。

また、工事でつけるのはちょっと、という方には、以前取り上げたこちらをお試しいただいてもよいかと。介護保険が使える(認定を受けている)方なら、福祉用具貸与にて毎月1~3割の自己負担で借りることができます。

もちろん、たたきに既存の椅子を置いていただくのも構わないのですが、椅子の選択は要注意です。狭いからと小さいものを選ぶと、どうしても不安定なものになり、椅子ごと倒れがち。やっぱり事故のもとになりますので、できることなら四つ脚の、座面の端に座ってもいきなりひっくり返らないものを選んでいただきたく。
そんなとき、周囲に手すりがあれば危ない!で済むことなんですけどね。このパターンではどの選択であれ、手すり併用は必須、と言っていいかと思います。

次回は浴室編、いってみます。




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てすり屋のひとりごと 橋本 洋一郎(合同会社 湘南改造家)
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