その肩を鷲掴みにして -op.1 Puccini,Brahms,Rachmaninov
オーケストラで働いているとほんとうに数多くの作品に触れることが出来ます。
その中で嬉しいことのひとつが、ファゴットのソロ曲は書いてくれなかった(ちょっと根に持ってる)偉人の、思い描く理想像に1パートとして入っていること。
あ、ファゴットのこと知ってたんだと妙に安心してしまう。
そりゃ知らないわけはないんだけど(笑) 音域のこととか音色とか知ろうとしてくれたんだなぁって
"fagott"と書かれたパート譜に着手してたっていう当たり前のことにキュンキュンしてしまいます。
今日はそんな『えー、あなたこんなにファゴットに期待してくれてるのになんでソロ書かなかった?ん?』と嘆かずにはいられない大好きな作品を紹介します。ぜひスコア片手に聴いてみてください。
プッチーニ作曲 歌劇「マノン・レスコー」より間奏曲
言わずと知れた名曲。余談ですがクラシックって展開ネタバレしてるはずなのに何回聴いても心揺さぶられるのなんなんですかね?改めて不思議だなぁ。
プッチーニは大大大好きな作曲家。わざと泣かせにきてるとしか思えないメロディーラインと、時折曇ったりフワっと浮遊感のある和声がたまらんです。よね?
この曲ファゴットは何をしているかというと、実はちゃっかりメロディーも吹いちゃっているんです。2小節ごとにメロディーと裏メロを行き来したりなんてことも。
プッチーニの作風において、ファゴットはこの曲に限らずとにかく忙しいことが多いです。コンマ何秒の世界で役割がコロコロかわる引っ張りだこ感が、"おっしゃやってやろう"という気持ちにさせてくれます。そんなに必要ならがんばっちゃうよ~?
そしてプッチーニの好きなところのひとつ”ベースライン”。
これはもうヘ音記号奏者は激しく頷いてくれると思うんですけれどまじで気持ちいい。下りて下りて下りきったところのなんだろう?征服感?すごい。めちゃめちゃ男らしい男になった気分。
ブラームス作曲 交響曲第3番 第2楽章
ここを顔真っ赤にしないファゴット奏者とは仲良くなれません。フランクフルト放送響の首席もこの表情。わかる。指揮者にどんなに抑えろと言われても本番どうしてもどうしても溢れ出てしまう。カァーッ!ここ抑えられるわけないだろ!
主題が何度も展開された締めくくりのところでよーうやくオブリガードを任命される感じもたまらない。
ソロホルンからの引継ぎで同じ音を少しだけ重ねてから展開されるのも好き。ホルンが素晴らしければ素晴らしいほど燃える。バトンを受け取るような使命感にかられます。
そして音域がまた絶妙に良い。楽器の都合で絞り出すようなニュアンスを出しやすい音域を離れることなく、ほんとうに自然にたゆたえる感じ。そんなに"わかってる"のになんでソナタ書いてくれなかった!?
ラフマニノフ作曲 交響曲第2番 第3楽章
ただただありがとうとしか言いようのない曲。何度演奏しても、吹きながら涙をこらえるのが大変です。この曲に関してはどんな言葉を並べても陳腐すぎて笑ってしまう。
好きなところ・ファゴット的においしいところは語りつくせないほどたっくさんあるのですが、その中でも特筆してたまらないパーツをご紹介します。動画中5:30くらいです。
いやぁちょっと待って。特に練習番号51の4小節前からがアツすぎる…!
聴こえます?聴こえますか?ぜひ楽譜とにらめっこしながら耳をすませてください。
正直吹いてると自分の音は聞こえづらい箇所ではあります。笑
でもこのテヌートを伴うリズムとアルペジオのターンと…おいしすぎる!!
この動き無くして急き立てるような勢いは作られないと思います。こないだピアノ編曲版を聴いたらガッツリカットされてて萎えました。
他にも数えきれないほどあるのですが、それはまた後ほど。
もしタイムマシンに乗れるなら彼らの肩を鷲づかみにして、お願い!おれがなんでも吹くからファゴットのために書いて!お願い!と耳元で叫びたい。