<押井守⇔高橋留美子>不仲説はデマだったのか?
リメイク版「らんま1/2」を見た。
まだ序盤なので評価云々は避けておくけど、それより驚いたのはキャストである。
乱馬:山口勝平
らんま:林原めぐみ
あかね:日髙のり子
なびき:高山みなみ
かすみ:井上喜久子
声優はオッサンとオバサンしかおらんやん!
・・いやね、旧キャストをできる限り続投させてオールドファンを喜ばせてあげようという意図は分かるよ?
だけどさ、私としては令和版「うる星やつら」の何が良かったかというと、やっぱ、上坂すみれ(ラム役)だったんだ。
「まさか、いまどきのアイドル声優がラムちゃんをあそこまで再現できるとは・・」という意外性を含めての高評価だったわけで、今回の「らんま」の方はそういうのがないのが少し残念。
そうは言っても、さすが大御所声優の皆さん、やはりプロである。
たとえ見た目が老けようとも、声はほとんど老けてませんでした。
さて、今回は「らんま1/2」の話をしたいわけじゃなく、それよりむしろ、その原作者である高橋留美子先生に関する話を少しさせてもらいたいのね。
・・いや、もっと端的に言っちゃうと
高橋留美子と押井守は、ホントに仲が悪いのか?
というのが今回のテーマです。
いやね、これは私にとって切実な問題なんだ。
なぜなら私は高橋先生のファンであり、しかしまた同時に押井監督のファンでもあるから。
好きな人と好きな人が喧嘩してる姿はあまり見たくない、というのが率直なところである。
ボク、お父さんのこと大好き
でも、お母さんのことも大好き
だからお父さんお母さん、喧嘩しないで・・
今回は、そういうコドモのような純粋な気持ちになり、敢えて
<高橋留美子と押井守、別に仲が悪くない説>
をアピールしていく趣向です。
というか、この説は意外と有力なものであり、高橋先生と親交ある漫画家の椎名高志先生が、「高橋留美子『ビューティフルドリーマー』激怒事件」の真相について、次のような証言をしてるのよ。
(高橋先生は)『これは自分とはあまり関係無い、監督の作品ですね』とは言った。
『でも面白い』とも言ってらして、別に怒ったりはしてないはずだ。
高橋先生が「ビューティフルドリーマー」を「面白い」と評価してたとは、ぶっちゃけ初耳である。
ただ、押井守の方は試写会での高橋先生の言葉(「監督の作品ですね」)を「キレてた」と解釈しており(自らそう証言している)、このへんは純粋に誤解だったのかなぁ・・?
また、高橋先生はテレビアニメ版「うる星やつら」についても、このようなコメントを残している。
「才能溢れる、若きクリエーターたちの情熱やエネルギーが結集して、原作にはない魅力をもたらしてくれた、とても素晴らしい作品だったと思っています」
ここで、わざわざ「原作にはない魅力」と敢えて表現してくれてるんだね。
一方、押井守は「うる星やつら」について次のようなコメントをしている。
「なんか無茶したかったというか、斬新なことに挑戦したかった。
若い奴らが集まってきて、彼らの望むものを ほとんど無条件でやらせてみた。
酷いのはとことん酷いけど、普通にやってたら絶対できないような、圧倒的なパワー感ある 作品も生まれました」
一応、押井さんもバカじゃないから、自分の「無茶」を自覚してたわけだな。
なかば「怒られて当然」とも思ってたわけで、そういうところから高橋先生の何てことないひと言を「やっぱキレとる!」と拡大解釈しちゃったのかもしれん。
あと、高橋先生と押井監督の「センス」のギャップについてだが、これについては、まず次の事実を皆さんにご理解いただきたい。
実は高橋留美子も押井守も、共に「諸星大二郎のファン」という共通の嗜好性がある
押井守は、あるインタビューで漫画についてコメントを求められた際、次のような発言をしている。
「『ガロ』や『COM』の時代からずっと活動を続けている一部の作家には、個性というか作家性がある。
そして、そういう作家性のある漫画家のなかでトップなのが諸星大二郎だよね」
「この前、漫画の大断捨離をやったんだけど、その中で残したのは
諸星大二郎と星野之宣、桜玉吉といしいひさいちかな。
あとはほとんど捨てた」
まさかとは思うが、高橋先生の「うる星やつら」は捨ててないよな(笑)?
で、高橋先生の方だが、彼女の諸星大二郎好きは結構有名だろう。
なんせ、諸星あたるの「諸星」は、諸星先生からとってるというぐらいなんだから。
実際、先生は諸星オマージュと思われる伝奇系の作品を複数残してて、その最も有名な作品が「犬夜叉」だが、今回はそれ以外の伝奇系を幾つかご紹介しておきたい。
OVA「炎トリッパー」(1986年)
これは、「犬夜叉」の原型とされている作品である。
短編集「るーみっくわーるど」収録。
上の画を見ての通り、女子高生が戦国時代にタイムスリップしちゃう系の話です。
まず、女子高生・涼子が知り合いの小学生・周平と一緒にいたところを不運にもガス爆発の事故に遭い、戦国時代にタイムスリップしてしまう。
しかし転移した先で、一緒にタイムスリップしたはずの周平がいくら探しても見つからない。
<ポイント①>周平はどこに行ったのか?
やがて涼子は野盗に襲われてるところを宿丸という若者に助けられ、彼の村に身を寄せることとなる。
宿丸には、すずという幼い妹がいた。
涼子は周平の捜索を続けつつも、宿丸やすずと仲良くなっていく。
ある日涼子は、すずが持っている鈴が、幼い頃自分が持ってたのと同じ鈴だということに気付く。
<ポイント②>涼子とすずは、なぜ同じ鈴を持ってたのか?
そうこうしてるうちに、村がいきなり野盗軍団の襲撃を受けた。
家に火を放たれ、その火の海の中で、すずが忽然と姿を消してしまう。
<ポイント③>すずは、どこに行ったのか?
襲撃で宿丸も傷を負い、その傷の手当をしてた涼子は、宿丸の腹部に周平と同じ盲腸の手術痕があることに気付く。
えっ、戦国時代の人間が、盲腸の手術痕?
<ポイント④>周平と宿丸は、なぜ腹部に同じ手術痕があったのか?
こういう感じで、ミステリー調にストーリーは進行していく。
<ポイント⑤>なぜ、涼子役とすず役の両方のcvを、島本須美(ナウシカの中の人)がやってるのか?
う~む、実に難しいミステリーだ・・(笑)。
OVA「笑う標的」(1987年)
これはまぁ、完全にホラーですね。
短編集「るーみっくわーるど」収録。
主人公の高校生・譲には、幼い頃に親同士が決めた許嫁・梓というイトコがいた。
その梓が、譲の家に引っ越してくるという。
このへんは少し「らんま1/2」っぽい展開だが、この梓にもらんまと同じく秘密があったんです。
というのも、何か邪悪なものに憑かれてるみたいで・・。
で、そんな梓は一途な性格らしく、「譲と結婚する」と固く心に決めている様子。
しかし、実をいうと譲には里美というガールフレンドがいた。
<ポイント①>なぜ、里美のcvが松本伊代なんだろう?
梓が転校してきてからというもの、学校では一部男子生徒が消息不明になるなど、不可解なことが頻発するようになる。
やがて、里美は身の危険を感じるようになっていく・・。
<ポイント②>松本伊代は歌手のくせに、OP曲もED曲も唄っていないのはなぜだろう? というか、何の為のアニメ出演?
武器に弓矢を使うあたりは、「犬夜叉」の先取りといったところである。
で、この作品って、一応ハッピーエンドでスタッフロールに入るんだけど、スタッフロールが終わってから意味不明のバッドエンドで締めくくるというめっちゃタチの悪い趣向である。
後味悪い・・。
TVアニメ「人魚の傷」(2004年)
これはTVアニメ「人魚の森」シリーズの中のラスト2話(12話/13話)に該当するものだが、内容がエグすぎて第11話までで一旦放送を終了し、12~13話「人魚の傷」編だけ、半年後にひっそりと深夜に放送したという問題作なんだわ。
とにかくエグい・・
DVD版は、この12~13話だけR15指定がついたらしい
はい、お分かりいただけたでしょうか。
「うる星やつら」とか「らんま1/2」とか、ああいう男女きゃっきゃうふふ系というのは、あくまで高橋先生の一面に過ぎないんです。
先生は割と闇の深い表現もする人だし、
時にエグい表現をするという点においては、 押井監督よりむしろ高橋先生の方が一枚上手といっていいとさえ思う。
そんなわけで、高橋留美子という人は決して保守志向ではなく、
「攻めた表現」
というものに対して、むしろ好意的な立場だった可能性も十分にあると思うんだよね。
で、最終的な結論です。
高橋先生は押井監督に対してキレてなかったという可能性も十分にあって、意外とこの2人は犬猿の仲というわけでもないんじゃないかな、と。
なお、今回ご紹介した
・炎トリッパー
・笑う標的
・人魚の傷
は、いずれもYouTubeで無料視聴可能ですので、興味があれば是非一度ご覧ください。