予想外の伏兵だった・・「烏は主を選ばない」という傑作
全然期待せず見始めたのに、「何コレ?凄いじゃん」と途中から夢中になる作品ってたまにあるでしょ。
最近では、NHKアニメ「烏は主を選ばない」がまさにそれだったんだ。
さほど世間で話題にはなってないところを見ると、まだ見てない人は多いだろう。
しかし、天下のNHKのアニメだぞ?
NHKアニメには比較的ハズレが少ないので、それだけでも見る価値があると思う。
ましてや、これはNHKが昔から得意とする「宮廷モノ」である。
「彩雲国物語」や「十二国記」など、NHKは昔から宮廷モノの傑作を輩出する局だ。
「烏は主を」は、そういう系譜上にあるものだろう。
聞けば、これは人気小説が原作らしい。
「薬屋のひとりごと」が大ヒットした流れを見ても、ここ最近はこういうのがキテるのかも。
いわゆる「宮廷サスペンス」ってやつ。
「宮廷ミステリー」といってもいい。
歴史モノになるとオトコノコなら武将や剣士や忍者が出てくるバトル系作品を好むものだが、意外とオンナノコは貴族を描いたやつを好むよね。
うん、私はオトコノコだけど、意外と貴族を描いた物語って好き。
同じバトルにしても、武将とはまた別の粘着的陰湿さをもって戦うところがいいじゃないか。
武将が剣や矢を使うのに対し、貴族は主に毒やクスリを使う。
陰湿だろ?
「烏は主を」もまた、そっち系である。
表立った刃傷沙汰などほとんどない、一見平和な宮廷だけど、その裏の顔はほとんど戦場だといっていい。
そりゃ〇〇家という名家が一堂に集ってるんだから、家の威信をかけて他家を潰そうと水面下で動くのは当然の流れさ。
ある意味、こういう戦いの歴史は武家よりずっと古くから始まっているものであり、その陰謀ノウハウも武家のそれを遥かに凌駕してるものだろう。
「烏は主を」では、4大貴族が出てくる。
北家、南家、西家、東家。
まぁ、各々が藤原氏みたいなものである。
北家は武力が強く、南家は財力が強いなどの特徴もあるようだけど、あまりそのへんは問題にならない。
一番の問題は、4家とまた別に宗家、すなわち天皇家のようなものがあり、そこの皇子(次期天皇)の后を4家のうちどこから娶るか、ポイントはそこなんだよ。
で、4家の公平を担保する為か、システムとして4家が各々后候補1名を選抜し、その4人の女性をひとつの場所に集めて一年間交流させるわけだ。
「お互い、切磋琢磨させる」という主旨らしい。
ライバルとなる4人の女性を、敢えて交流させる・・。
きっついわ~。
こんなの、リアリティーショーで放送したら高視聴率間違いないよね。
北家⇒白珠
南家⇒浜木綿
西家⇒真赭の薄
東家⇒あせび
皇子⇒若宮
こういうのって、恋愛モノになると思うだろ?
いやいや、全然違う。
というか、若宮と后候補は、第12話まで顔を合わせることすらなかったんだから。
ただひたすら、宮中における権謀術数の描写ばかりである。
そのくせ、意外とあっさり第13話で后は決定する。
・・そこのネタバレは避けておこう。
あまりにも意外な展開だから。
この作品最大のポイントは、壮大なミスリードにこそある。
多分、視聴者は皆、うまいこと騙されたと思うよ。
一種の「叙述トリック」だね。
確かに、「あれ?」という伏線は冒頭の部分からあったんだ。
しかし叙述トリックの方に引っ張られ、うまいこと視聴者はその伏線を忘却してしまう構造になっている。
うまいよな~。
多分、これの原作の小説はめっちゃ面白いんだと思う。
これはジャンルとして、明らかにミステリーとして捉えるべきものだった。
殺人事件もしっかり起きるし。
しかも事件の謎を解く探偵役は、なんと若宮である。
そう、この物語の主人公となるのは若宮、およびその近侍となったばかりの少年・雪哉なんだ。
話が進めば進むほど若宮の凄さが理解できる構造になっていて、また雪哉もただの少年じゃなく、とんでもないポテンシャルを秘めてることが分かってくる。
そのへんが心地いいんだよな~。
で、殺人事件の犯人は第13話で判明するんだが、これがまた、予想外の人物だったわ。
この犯人を真相解明編より前に目星をつけていた視聴者はほぼいないと思うけど、
もし、推理で犯人を言い当てられた人がいるというなら、その人は男性じゃなく、女性だろうよ。
多分、女性心理が分かってないと、あの真犯人には辿り着けないよ。
男には無理。
少なくとも、私には全然無理だった。
というか、この作品の周到なミスリードは1個や2個ではない。
数えきれないほどのミスリードが組み込まれている。
まだ未見で、これから見る人にはこう言いたい。
油断するな。全てを疑え、と。
私は割とミステリー系のアニメが好きで、「名探偵コナン」や「金田一少年の事件簿」を筆頭にそのほとんどを網羅してるんだが、その中でも「烏は主を」は結構上位にくる感じだね。
やはりこのジャンルは小説を原作としたものに一定の強さがあり、たとえば「氷菓」「すべてがFになる」「Another」「GOSICK」「虚構推理」「神様のメモ帳」など、傑作が多い。
実は私も、一時期は推理小説にハマってたことがあるのよ。
といっても、小学生の頃だけなんだけど・・。
その頃は家の教育方針で
「毎週必ず図書館で本を(最低1冊)借りてくること」
という鉄の掟があり、そんなのテキトーにやりすごせばいいじゃんと今なら思うんだが、なぜかその頃の私は真面目にそれを遵守してたのよ。
図書館といっても市営の児童図書館で、たまたま家の近所にあったのね。
で、内容は特に問われなかったので、図書館にある本の中では比較的娯楽性が強いと感じた「ミステリー」ジャンルの棚にある本を私は片っ端から借りたのさ。
それも児童図書館にあるようなのだから、新刊とかじゃなく古典で、コナンドイルとかアガサクリスティとかエラリークイーンとか横溝正史とかの古くからある名作ってやつ。
しかも、そういうのをちゃんと読んでた(笑)。
なんて真面目な私・・。
カムバック、真面目な私・・(泣)。
でさ、ある日、本にイタズラ書きがあることに気付いたのよ。
頁の冒頭に人名が書いてあり、すぐにそれがこの推理小説の真犯人の名前だということに私は気付いた。
「タチ悪い利用者もいるなぁ」と思ったけど、書いてるのが鉛筆だったし、とりあえず消しゴムでそれを消して、とりあえず読んで、そのまま返したのね。
ただ、しばらくするとまた別の本で同じイタズラ書きを発見。
多分、同一の犯人だろう。
その時点で職員に報告するのが普通なんだろうが、その頃の私はなぜか変なスイッチが入ったみたいで、逆に
イタズラされた本を見つけては借りる⇒読む⇒イタズラ書きを消す⇒返す、という謎のルーティーンにハマってしまったんだ。
なぜ、そういうことをしたのか?
自分でもよく分からない。
多分、こういうのが「自分だけが知る秘密の使命」っぽくて楽しかったんだと思う。
いわゆる、厨二の初期症状かと。
ただ、この作業によって私はひとつのスキルを得ることになったんだ。
それは、真犯人が分かった上で推理小説を読んでるわけだから、その人物が登場した時点で当然「お、きたきた(笑)」となるわけよ。
普通の読者は「犯人探し」を前提で小説を読んでるというのに、私は「古畑任三郎」っぽくそれを楽しむ、という妙なスキルを獲得したんだ。
すると、そこで見えてくるものは、作者が周到に準備した「伏線」の存在である。
やっぱ、ミステリー作家はちゃんとヒントを書いてるんだよ。
私は真犯人を知ってるからこそ、作家の思惑というものが実に輪郭はっきりと見えてくるんだよね。
ああ、なるほど、推理小説とはこういう構造なのか、推理作家とはこういう感じで物語を組み立てるのか、と私はそこで初めて学んだんだ。
逆にいえば、この「イタズラ書き消去ミッション」がなければこういうのに気付かず普通に本を読んでただろうし、今となってはイタズラの犯人に感謝してるほどである。
いやね、実はミステリーって、真犯人が分かっててもそれなりに面白いのよ。
それは「古畑任三郎」や「刑事コロンボ」が証明している。
うん、ミステリーは「2度楽しむ」のがいいんじゃないかな?
【1回目】
探偵の視点に立ち、真犯人が誰かを考えながら物語に参加する
【2回目】
真犯人の視点に立ち、その葛藤を踏まえながら物語に参加する
私はまだ「烏は主を」の視聴は1回だけなんだけど、そのうち暇を見つけて2回目視聴に入ろうと思っている。
ちょっと楽しみだな・・。