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サトジュン×岡田麿里、天才×天才の怪奇SF「M3-ソノ黒キ鋼-」
今回は、脚本家・岡田麿里、その暗黒面について少し書いてみたいと思う。
彼女がもつドス黒さを語るにおいて、敢えて「M3-ソノ黒キ鋼-」という怪作を取り上げてみたいと思う。
これ、彼女にしては珍しい、ロボット系のSF作品なんだよね。
制作は2014年。
この翌年、彼女は「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」脚本を書くことになるわけで、いわば「M3」は、それを控えての習作だったといえるのかもしれん。
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そこそこの大型企画だったアニメなので、これ見たことある人は意外と多いと思う。
ぶっちゃけ、ヘンテコな作品だったでしょ?
それも当然なのよ。
これは一応アニメオリジナル作品なんだけど、問題は「原作者」の在り方である。
この作品の原作者は、公式には以下の通り。
【「M3-ソノ黒キ鋼-」原作者】
・佐藤順一
・岡田麿里
・サテライト(制作会社)
・創通(代理店)
・バンダイナムコゲームス(ゲーム会社)
・マックガーデン(出版社)
・・おいおい、一体何人が原作者に名を連ねてるのよ?
こんだけたくさんの原作者がいると、もはや誰がイニシアティブをとってるのかも分からない。
作品の売りとしては、
佐藤順一×岡田麿里×河森正治
という「夢の競演」。
ただ、出来上がったものを見ると、なぜかホラー風味の厨二系アニメだったんですわ。
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これ、あまりに不快すぎて、前半で離脱した人が非常に多いと聞く。
じゃ、ここから先、ネタバレするね。
まず物語の前提として、今から10年前、突如東京に謎の異空間「無明領域」が出現したことから全てが始まるんだ。
その領域内では、あらゆるものが金属結晶化(シバガネ化)してしまうのよ。
人間もまた、例外ではない。
というか、そこはあらゆる生命体が生き残れない環境。
で、その領域は現在どんどん拡大の傾向にあって、このままいくとセカイがヤバい、という状況なのね。
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しかも、その領域には「ムクロ」と称されるヌシっぽいモンスターがいて、自衛隊もそれを倒そうとしてるようなんだが、しかし全く歯が立たない。
ただ唯一、それに対抗できる見込みのある切り札というのが実はあるのね。
それがアージェント(別名・死神)という人型兵器で、この物語の主人公はそれに搭乗する操縦者・アカシである。
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で、このアージェントという機体が、思いっきり「エヴァ」モドキなんだわ。
これの動力源となるコアが、シバガネ化した(肉体的には金属結晶化した)人間なのよ。
基本、操縦者がコアのシバガネと精神をシンクロさせ、機体を動かしていくという形態。
で、割と序盤のうちから主要女性キャラがひとりシバガネ化しちゃうんだが、その子はさっそく新機体のコア部分にされちゃうんだよねぇ・・。
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残酷な展開やなぁと思ってたら、やがてメインヒロインの子までシバガネ化しちゃうという残酷な展開に・・。
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もはや、救いようのない展開でしょ?
とはいえ、メインヒロインだから何らかのご都合主義展開で危機を脱するのかと思いきや、そういうのも特になく、この子もまた普通に機体のコア部分に埋め込まれてしまいます。
残酷すぎる・・。
まぁ、でもさ、よく考えたら「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」もメインヒロインは幽霊(既に死亡済)だったわけだし、この「M3」の展開もまた、岡田麿里らしいといえば確かにそうなんだよね。
事実、このメインヒロインは肉体的には死んでるようなもんだけど、霊体はちょくちょく、その後も出てきます。
やがて後半になると、「子供の頃に一緒に遊んだメンバーが一堂に会する」という「あの花」的メンバー構造が明確になり、あぁ、やっぱりこれ、岡田脚本だわ、と納得できる展開となっていく。
で、あとはセカイ系のお約束というか、メンバーの中には碇ゲンドウっぽい考え方をする奴が出てきて
「みんな肉体を捨てて(シバガネになって)、ひとつの意識になろう! みんなで、ひとつに繋がろう!」
とか言い出すわけよ。
無明領域を全世界に拡大すれば、みんなひとつに繋がれるというロジック。
つまり、サードインパクトを起こそうとするメンバーと、それを止めようとするメンバーとの間で、もうグッチャグチャのカオスですわ・・。
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この「みんなで、ひとつに繋がろう」というやつは、「エヴァンゲリオン」以降のセカイ系鉄板、とでもいうべきスタンダードだよね。
確か「コードギアス」も、このパターンじゃなかったっけ?
元不登校児の作家・岡田麿里として、こういう【皆で繋がる⇔繋がらない】ネタはひとつのライフワーク。
やはり「M3」のテーマそのものは、岡田さんの作家性から大きくズレてないのよ。
・人型兵器
・オカルト現象
・精神シンクロ
上記3つが「M3」を構成する物語の3本柱。
この3つは、「M3」以降の岡田麿里作品を紐解く上で、意外と重要だったりもするんだ。
<「M3」以降(2015~16年)岡田麿里作品>
・人型兵器⇒「鉄血のオルフェンズ」(2015~2016年)
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・オカルト現象⇒「迷家-マヨイガ-」(2016年)
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・精神シンクロ⇒「キズナイーバー」(2016年)
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どう?
「人型兵器」「オカルト現象」「精神シンクロ」
この3つのバラバラな作風、これら3作品ともが、「M3」の解体・再構築に思えてこないか?
つまり、岡田麿里という作家性を語るにおいて、意外と「M3」はキャリアの中で重要な位置づけを占める作品だったじゃないか、と。
岡田さんにしてみりゃ、佐藤順一さんや河森正治さんとの仕事だし、かなり力を入れてたのも事実だろう。
事実、今になって改めて見ると、話は意外とよくできてることにも気付くんだわ。
ちなみにだけど、上記3作品の中で私は特に「キズナイーバー」をめっちゃ高く評価してて、実はこれこそ、岡田さんが「M3」で本来やりたかったことそのまんまという気がするのね。
「M3」に盛られてた過剰な要素をスパッと削ぎ落とし、その分、主題だった【繋がる⇔繋がらない】論を、ここでは思う存分やってくれてるから。
・幼少期の記憶がない主人公
・謎のヒロイン(実は幼少期の主人公を知っている存在)
・みんなをひとつに繋げる派vs繋げない派、という最後の争い
プロットからして、基本「キズナイーバー」は、まんま「M3」の踏襲なんですよ。
これって、岡田さんなりの「M3」の焼き直しというか、いうなれば一種のリメイクだったんじゃないかなぁ・・。
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ちなみに、監督の佐藤順一さんは「M3」について
「最後まで、岡田麿里の作り上げた世界の中で、右往左往した」
と言っている。
一方、岡田さんは岡田さんで
「どんなに私が足掻いても、結局は佐藤さんの世界になっていく。
これは、河森さんに対しても持ったことのある感情なんですけど、悔しいなぁって思いながらも燃えますね」
と言っている。
結局、どっちがイニシアティブをとっていたのかは、よく分からんのだ。
ただ、佐藤さんは岡田さんの脚本に対して何ら制約を入れなかったようなので、どっちかというと岡田さんが好き勝手にやったらこうなった、と捉えるのが自然だろう。
初のロボット系作品ということもあって結構荒唐無稽になりはしたものの、でも、この経験があったからこその、後の「鉄血のオルフェンズ」の完成度、という気もするし。
ちなみに、「暗い作風にしよう」と言い出したのは、意外にも佐藤さんの側からだったらしい。
もともと「岡田磨里の持ち味を出す」がこの作品の狙いだったらしく、彼女に書かせるなら明るいのより暗い方がより持ち味出せる、という判断だったんだろう。
なるほど。
よく分かってらっしゃる。
確かに並の脚本家なら、全24話中の第13話でメインヒロインが早くも退場して、ロボットの部品になったりはせんわな(笑)。
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なんかさ、佐藤さんの制作スタッフの中から、かつて幾原邦彦がブレイクしたり、五十嵐卓哉がブレイクしたのって、分かる気がするんだよね。
基本佐藤さんって、組む相手の持ち味を出させることに貪欲なのさ。
「M3」は、佐藤順一成分がゼロじゃないか!
と感じる人もいるだろうけど、敢えてこうして作風を岡田さんに譲ったからこそ、逆にこれは佐藤成分100%といえるのかもしれんよ。
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