「空の境界」は、ufotable×梶浦由記×伝奇の出発点
今回は、「空の境界」について書きたいと思う。
これは言わずと知れた、ufotableの初期作品にして、出世作である。
いまやufotableって、ホント凄いことになってるよね。
なんせ日本の歴代映画興行成績ダントツの1位を記録し、果たしてここは「鬼滅の刃」でどれほど儲けたことだろう。
いや、今後も劇場版3部作が予定されているので、まだまだ勢いは衰えないはずだ。
もはや<伝奇+ufotable+梶浦由記>は最強というべき鉄壁トライアングルであり、そして、このトライアングルが初めて披露されたのが「空の境界」だったんだよ。
これは奈須きのこ/武内崇のTYPE-MOON作品で、TYPE-MOONなら「Fate」の方が圧倒的に有名なんだが、しかし「Fate」の初代アニメ「staynight」はufotableじゃなく、スタジオディーン制作だったんだよ。
ちょうど、その「staynight」が放送されてた頃に、ufotableは「空の境界」を作ってたわけさ。
で、「staynight」と「空の境界」を比較して、どっちの方が出来が良かったといえるのか?
それは「Fate」シリーズが「Zero」以降、一貫してufotableの方に託されることになったことが何よりの答えだろう。
それほどに「空の境界」は、やっぱ凄かったのよ。
その凄さの一端として、このAMV↑↑を見てもらうのが早いと思う。
これを00年代で既に実現してたって、凄くない?
今さらいうまでもなく梶浦由記の音楽には独特の魔力があって、「鬼滅」にせよ「Fate」にせよ、梶浦さんヌキでは絶対成功しなかったよね。
その彼女にしても、劇伴でピタッとハマった手応えを掴んだのは本作からだと思う。
作中、彼女の劇伴のエモさには、何度震えたことか・・。
とはいえ、「空の境界」って「Fate」ほどの人気がないのよ。
まぁ、その理由は何となく分からんでもない。
「空の境界」には、他のTYPE-MOON作品に見られるような、萌えの要素が一切ないから。
だって、ヒロイン・両儀式からして、これ↓↓だよ?
和服+赤の革ジャン+刃物というのが、両儀式のトレードマーク。
まず和服+革ジャンというセンスがワケ分からんし、使う武器にしても地味な短刀である。
他のTYPE-MOONヒロインと比較しても、明らかに見劣りするといえよう。
萌え要素、確かに大事だよねぇ・・。
だけど、両儀式の異質ともいえる色気の無さは、彼女が「Fate」シリーズのようにゲーム出身のキャラでなく、奈須先生執筆の小説出身のキャラであるということが一番大きいだろう。
そう、「空の境界」って小説原作なのよ。
よく、名作ゲームを評して
「CLANNAD」は人生
「Fate」は文学
「AIR」は芸術
といわれるけど、いやいや、「Fate」より「空の境界」の方が遥かに文学性高いから。
じゃ、本作をよく知らん人の為に、ざくっと概要を説明しておこうか。
これは
①俯瞰風景(2007年)49分
②殺人考察/前篇(2007年)58分
③痛覚残留(2008年)56分
④伽藍の洞(2008年)50分
⑤矛盾螺旋(2008年)112分
⑥忘却録音(2008年)59分
⑦殺人考察/後篇(2009年)119分
⑧終章/空の境界(2010年)33分
⑨未来福音(2013年)90分
という構成になっていて、①~⑦が本編、⑧~⑨が後日譚といったところかな。
視聴環境にない人でも、ネットで全部無料動画を見つけられると思うので、是非見てください。
内容的には「Fate」より、むしろ「呪術廻戦」に近いですね。
両儀式というヒロインが「魔眼」を持つ特異能力者で、彼女が魔術師たちの陰謀と闘っていく系の物語である。
基本、他のTYPE-MOON作品の世界線と繋がってはいるんだよね。
両儀式の雇用主が蒼崎橙子という魔術師で、彼女は「月姫」に出てくる蒼崎青子の姉である。
この姉妹、果たしてどっちが強いんだろ?
蒼崎橙子の方は「Fate」にも出てくるイギリス「時計塔」出身の魔術師で、おそらく世界でも屈指の使い手である。
で、その蒼崎の「時計塔」時代の同窓生で、タチの悪い奴がラスボスっぽい立ち位置にいるのよ。
それが、荒耶宗蓮という男↓↓
このビジュアルで、
しかもcvが中田譲治(笑)。
もはや、最凶である。
両儀式は、常にこういうバケモノ級と闘っていくのよ。
作中、荒耶宗蓮はたくさん人を殺すんだが、TYPE-MOON作品の世界観にて興味深い点は、魔術の研究として人を殺すこと自体、必ずしも「悪」というわけでもないんだよね。
魔術師にとっては研究こそが最優先事項であり、その研究というものの行き着く先は「根源の渦」という全智のアカシックレコード的境地。
そこに至るまでの手続きに人を殺すことが必要な場合、むしろ人を殺すのは「正しい行為」とされる。
魔術師の世界とはそういうものであって、いわれてみれば「呪術廻戦」でも似たようなもんだし、こういう世界観の中で善とか悪とかいっててもしようがないのよ。
両儀式も、ぶっちゃけ「善」ではないんだよなぁ・・。
ただ、作中に唯一、「善」といえる存在がいる。
それが両儀式の友人にして、蒼崎橙子の助手、黒桐幹也である。
こいつ、魔術師ではなく一般人なんだが、めちゃくちゃ頭はよくて、事件の捜査能力は警察をも凌ぐほど。
で、両儀式とこの黒桐の関係がトモダチ以上恋人未満っぽい関係で、今なお両儀式が辛うじて良心を持ち得てるのは、この善なる黒桐との絆があってのこと。
とりあえず、第7章「殺人考察/後篇」まで見てもらえれば、本作が実は彼女と黒桐とのラブストーリーだった、という構造に気付くと思う。
いやホント、このふたりの関係は実に尊い。
実際、両儀式役の坂本真綾と黒桐役の鈴村健一は、その後、結婚しちゃいましたからね(笑)。
この作品、坂本真綾がホントいいのよ。
多分、彼女にとって、この作品との出会いは大きかったと思う。
ぶっちゃけ、この作品の直前までは、彼女はどっちかというと歌手の方向にいこうとしてたからね。
あの菅野よう子に才能を見込まれて、「今井美樹の再来」とまでいわれてたからなぁ・・。
だけど「空の境界」で鈴村さんとも出会い、ここでようやく声優・坂本真綾が確立したといえるんじゃない?
もともと、彼女は子役出身の人。
ゆえに芸歴は長く、声優界でもその演技力には定評のある人だよね。
そのせいか、最近じゃ「複雑な役」専門の声優っぽい立ち位置にいる人だと思う。
制作側も、なんか複雑そうな役に出くわすたび、「とりあえず、こういうのは坂本さんじゃね?」と彼女にオファーしてるっぽい印象・・。
とにかく彼女は謎キャラ、ジェンダーが曖昧なキャラとか、やたら多いんだわ。
分かりやすいテンプレキャラなどはあまりオファーが来ないようで、
別にアンタのことなんか、 全然好きじゃないんだからねっ!
っぽいのもたまに見たい気もするが、まぁ無理だろう(笑)。
それもこれも、ジェンダー曖昧(多重人格者)な両儀式という難役から全てが始まってるような気がするなぁ・・。
・坂本真綾のターニングポイント
・「鬼滅」に繋がる、梶浦由記×伝奇の出発点
・「Fate」に繋がる、ufotable×TYPE-MOONの出発点
という3点において、この「空の境界」は、ある種エポックメイキング的な位置づけの作品だったといえるかもね。
まぁ、まぎれもなく名作である。
特に第5章、第7章あたりはマジで鳥肌立ちましたよ・・。
今をときめくufotableを語るにおいて、絶対に外してはならないのが本作である。
未見の方は、ぜひご覧になってみてください。
ドラマとしての完成度でいえば、ぶっちゃけ、「Fate」よりこっちの方が上ですからね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?