日本アニメ界にとって「鉄腕アトム」が諸悪の根源だったのか?
今回は、アニメのおカネに関する話を書きたいと思う。
なお、今回書くおカネの額については全て「公式」なものでなく、よく長者番付とかに出てくる「推定」というやつなので、あるいは事実と異なってるかもしれん。
だからこれを明確な事実と受け止めたりせず、「ハナシ半分」程度で捉えてくださいますよう、宜しくお願いします。
さて、皆さんも噂程度でよく聞く話だと思うけど、「日本のアニメーターは薄給だ」という件。
これは事実なのか?
・・多分、事実だと思う。
こういうのは、海外と比較するのが一番話が早い。
<国別アニメーターの年収>
【日本】
250万円(平均)
【アメリカ】
800万円(ディズニー/ピクサー)
【フランス】
350~600万円
【中国】
600万円(平均)
こうして見ると、やはり日本の相場は低い。
低いけど、でも仕事のオーダーはたくさんあるんですよ。
逆に海外では日本ほどのオーダーの量はないかもしれんし、そこは考えようである。
あと、海外のやつはアニメーターといっても3DCG絡みの人も多く含まれていると思うので、日本人がイメージする、机にかじりついて描いてる類いではないかもしれない。
どうあれ、日本のアニメーターがあまり恵まれていないのは事実っぽいし、何でこういうことになってるの?と思うよね。
このことについて、ここでは敢えて名前を伏せておくけど、業界の超大物とされる某人物が、こういう発言をしてるのよ。
「昭和38年に彼(手塚治虫)は、一本50万円という安価で日本初のアニメ『鉄腕アトム』を始めました。
その前例のおかげで、以来、アニメの制作費が常に低いという弊害が生まれました」
なお、この発言の中にある「一本50万円」は事実誤認だったらしく、正しくは「一本155万円」だったらしい。
じゃ仮に155万円だったとして、この額が高いか、低いか、である。
昭和38年は私も生まれる前のことだから相場が分からんし、比較として昭和41年の「ウルトラマン」を調べてみると、これの一本平均は750万円、あと「仮面ライダー」で400万円だった。
ちなみに昭和33年、東宝動画「白蛇伝」という劇場用映画の制作費はどうかというと、これがトータルで約4000万円(78分作品)だったらしく、これは「アトム」1話分に換算すると1200~1300万円。
うむ、これらと比較するなら、確かに「アトム」の制作費は安すぎたといえよう。
ところが、である。
ここで、なんとも摩訶不思議な事実があるんだよ。
実をいうとね、
虫プロのアニメーターは皆、当時のアニメ業界では屈指の高収入だったんだってさ・・
これ理論上、ツジツマが合わないよね?
「一本155万円」の制作費で、アニメーターにマトモな給与なんて出るわけがないじゃん?
なのに、なぜ高収入?
・・そんなの、考えられることはひとつしかないでしょ。
アニメーターの給与は、多分手塚先生が自腹を切ってたんじゃないの?
それしか考えられないよ。
じゃ、自分が損をしてまで手塚先生はなぜアニメを作ったのか、そしてなぜ安い金額で請け負ったのかということだが、彼は決してアホではないので、そこには必ず、それなりの<勝算>があったはずなんだ。
それは、「著作権収入」である。
①安価でもいいから、アニメ「鉄腕アトム」制作を請け負う
②テレビの効果により、「アトム」が日本全国全世帯に普及する
③「アトム」関連グッズ(玩具等)が飛ぶように売れる
④著作権保有者の手塚先生の収入が増える
⑤その収入をアニメーターに還元
これが先生の<勝算>だったんだよ。
なお、この①~⑤は結局、実現しませんでした。
なぜなら、先生が油断してるうちに傍にいた西崎義展が著作権を買い取ってしまい、それを持って虫プロを辞めちゃったから・・。
虫プロにとっては、全てが著作権ありきの計画だったはず。
おそらく先生は④を見込み、先行投資というか、⑤を先にやっちゃってたんだろうなぁ。
だけど、気が付けば肝心の著作権が手元から無くなってるし、あとに残ったのは、収入がないのに給与だけは妙に高いアニメーターたち・・。
結局は
⇒虫プロ、破産
という悲劇で終わってしまった。
だけど昭和30年代って、まだ著作権収入とか皆よく分かってない時代だったと思うのよ。
そこに気付いてた手塚先生は先見の明があったと思うし、さらに深いところにまで気付いてたのが多分西崎義展で、彼は海外に長くいた分、そっち方面の知識が最初からあったんだろう。
で、問題は、こういう著作権とかよく分かってなかったくせに、虫プロの「一本155万円」を基準と解釈してしまった、周囲の人たちの方にあったのかもしれない。
じゃ、その後のアニメ業界、制作費の推移を見てみることにしよう。
「鉄人28号」(1963年)
1話当たり120万円
「サスケ」(1968年)
1話当たり600万円
「超時空要塞マクロス」(1982年)
1話当たり550万円
「ドラゴンボールZ」(1989年)
1話当たり1200万円
「新世紀エヴァンゲリオン」(1995年)
1話当たり625万円
「機動戦士ガンダムSEED」(2002年)
1話当たり2500万円
一応、制作費はそれなりに高騰してるみたいだね。
やはり、東映、サンライズといった大きなところはバジェットが大きい。
逆にちょっと気になるのは、「マクロス」の異様な低さか。
1960年代の「サスケ」より低いって・・。
おそらく、これはスタジオぬえが主体で作ったはずなんだが、ここは会社というより、もともとが有志のサークルみたいなものだったし、会社としてはタツノコプロが制作ということになっている。
で、この当時のタツノコプロは経営がジリ貧だったし、そういう事情が予算に関係しているかもしれん。
なお、タツノコプロとスタジオぬえはその後「マクロス」著作権を巡っての裁判になり、確か権利は分割されてややこしいことになったはず・・。
ここが一本化されてれば、「マクロス」の展開もその後大きく変わったんだろうけどねぇ。
あと、「エヴァンゲリオン」の制作費の低さも気になるところである。
あのクオリティで1話625万は、さすがにあり得んやろ、と。
しかし、ガイナックスもまたスタジオぬえ同様、もともとは会社というよりオタクの有志が集まったサークルである。
多分だが、「儲けたい!」という意思よりも、「アニメ作りたい!」という意思の方が圧倒的に強かったんだと思う。
スタジオぬえ河森さんが「マクロス」の時は22歳、ガイナックス庵野さんは「エヴァ」の時は35歳。
みんな若かったし、若い頃は皆、おカネより夢、ロマンですよ。
いわば、部活みたいなノリ?
・・あぁ、それを言ったら、アニメ「鉄腕アトム」を作ろうとした時の手塚先生だって、当時はまだ35歳。
先生もまた、「おカネより夢、ロマン」だったんじゃないだろうか?
思えば、制作費ってのもその多くは人件費に回るものだし、アニメーターが「おカネはいいから、とにかく作らせてくれ」というスタンスの場合、多分その予算以上のものができあがっちゃう。
もちろん、そういうのはビジネスとしてイビツだということは分かってるさ。
でも実際、そういう若さゆえに生み出された名作って、結構あると思うんだよなぁ。
・・で、最後はオトナたち(ロマンよりおカネという人たち)が割り込んできて、甘い汁を吸う、と(笑)。
思えば、あの庵野さんだってガイナックスを去る時、確か「エヴァ」の権利まで一緒に持っていっちゃったんだよな?
あれ?と思うよね。
確か、最初は「エヴァ」の権利はガイナックスのものだったのに、いつの間にやら庵野さん個人に書き換えられてたんですよ。
・・あぁ、庵野さんも遂にオトナになったなぁ、これじゃまるで、西崎義展みたいやなぁ、と思った(笑)。
昔は、ただの純粋なオタクだったのに・・。
なお、最後に補足として、海外のテレビアニメの話もしておきたい。
アメリカの例になるが、「ザ・シンプソンズ」というアニメの話ね。
これ、私は見たことないけど、アメリカでめっちゃ人気あるらしいよ。
アメリカ版「サザエさん」「ちびまる子ちゃん」といったところ?
多分、それより毒のきつい系だろう。
で、問題はこれの制作費なんだ。
これの制作費は、なんと
1話当たり1億6000万円だという
おいおい、今の日本のテレビアニメの制作費って大体、1話1000万~3000万ぐらいだろ?
桁が違うじゃないか!
で、また何でそんな金額になってるのかというと、どうやら声優のギャラが高いっぽい。
ある声優が、この「ザ・シンプソンズ」と4000万で契約したと報じられてたんだってさ。
どう考えても、日本と相場が違う。
日本なんて、声優アワードMVP5年連続受賞⇒殿堂入りの神谷浩史ですら、全部コミコミの年収で2000万だぞ?
それを番組1本だけで4000万って、アメリカは少し太っ腹すぎる。
ただ、それでも番組が今なお続いてるってことは、
ちゃんと<ペイ>できてるってことだよね?
これは、明らかに「ビジネスモデル」としての問題である。
日本のアニメ市場だって、確か今は3兆3000億ほどあるわけで、それほどに小さい市場でもないはず。
問題はその富の配分なんだが、なんか変なところにばかりおカネが回って、肝心のところにまで回ってない、という可能性もあるよね?
聞いた話だと、宮崎駿は自らの意思で年収を8000万程度にまで抑えて、余剰分をジブリの制作費等に回してるとやら?
そういうのも、よく考えるとイビツだよなぁ・・。