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「わたしの幸せな結婚」異能について考えてみる
今回は、アニメ「わたしの幸せな結婚」について書いてみたい。
これ、異能力系の和風ファンタジーなんだよね。
尚、この作品は物語の舞台が明治~大正期の日本、どっちかというと雰囲気は「はいからさんが通る」っぽいテイスト。
原作は「なろう」小説らしく、それがまためちゃくちゃ売れてるらしいんだわ。
これ、絶対買ってるのは男子じゃなく女子だよな・・。
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この物語の前提となってるのは、圧倒的な「男尊女卑」である。
前述「はいからさんが通る」ではその男尊女卑の社会に猛然と立ち向かっていく「強いヒロイン」だったが、本作の場合は全然違うんだよ。
その真逆、「弱いヒロイン」である。
よくいえば貞淑、悪くいえば卑屈。
常にオドオドしてて、それこそ蚊の鳴くような声で喋るというおとなしい系ヒロイン。
ぶっちゃけ、見てるとイライラしてくるキャラ設定ではある。
しかし意外と、こういう「弱いヒロイン」の在り方に共感を覚えた人はいるということ?
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いや、このヒロイン・美世の卑屈さは、割とこの物語の世界観の設定が深く関係してるところなのよ。
というのも、この舞台は封建時代さながらの「家系」絶対主義という価値観になってて、その「家系」の貴賤を決定付けるものが<異能>であるということになってるのね。
どうも異能というのは、血統に付随するものという設定になってるらしい。
つまり、一般庶民の家と名家(華族?)とを分け隔てるものは、この異能の有無だということ。
高貴な血統=異能のある血統
下賤な血統=異能のない血統
うむ、割とシンプルで分かりやすい階級社会だね。
で、名家の中でも特に最高の異能を有する家系が皇族ということらしくて、つまりはミカド、およびその周辺が国内最強なのかもしれん。
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当然、こういう社会構造である以上は名家同士の政略結婚は常識で、そこには「優生学」っぽい考え方まで根付いている。
競走馬の種付けみたいなもんさ。
仮に劣等因子と交われば家系の異能は衰えるだろうし、とにかく名家は優秀な遺伝子を確保することに心血を注いでるわけだね。
その為なら、犯罪に手を染めることにも何ら躊躇なし。
人を殺すことも厭わない。
で、この物語のヒロイン・美世はこういう前提の中、出自は華族でありつつもなぜか異能が顕現しなかったという劣等因子、つまりは出来損ないの女子ということになっている。
ゆえにこれまでずっと周囲から差別され、一人前扱いされず、なかば下女のような扱いを受けて生きてきたもんで、その性格も「私なんかが生まれてきてスミマセン」的な感じになってるわけよ。
ただでさえ男尊女卑の時代、その中でさらに無能ゆえ存在を全否定されてるという、ホントに可哀相な子・・。
しかも、本人がその境遇を素直に受け入れちゃってるし、物語の序盤はただ彼女がイジメられるのをひたすら見せられ続けるという、もはや苦行としか言いようのない展開なんだわ。
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一部のストレス耐性のない視聴者は、もう序盤の段階で落ちてしまったかもしれない・・。
でもね、この序盤が<底>なわけで、そこから少~しずつ上昇気流に乗っていくんですよ。
その契機になったのが意外にも政略結婚であり、当初は最悪と思われた結婚相手が、実はめっちゃいい人だったという嬉しい誤算。
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このへんの展開は、あぁ女性向けのストーリーだな~という気がする。
旦那の清霞は、めっちゃ愛想悪くて冷たい印象の人だけど、実は優しい、という少女漫画にはよくありがちな王子様設定。
彼が、美世を不幸のどん底から救い出してくれるという、一種のシンデレラストーリーである。
多くの女性から見て、清霞は男子の理想形だろう。
ただね、どうもこの物語を見てると、名家では男性はもちろん女性にも異能のレベルの高さが求められてる一方、その女性が備えた異能を使い、社会で何らかの仕事をする描写が作中全くといっていいほど無いのよ。
男性の方は主に軍に所属しており、その異能を軍人としてフルに活用している。
しかし、女性はその優れた異能をただ素養として備えてるだけで、おそらく彼女らの異能は<将来、出産する子のDNAを良いものとする>というだけの意味、ただそれだけなんじゃないか、と。
このへんは、女性をただの<世継ぎを産む装置>としか捉えてないようにも感じる・・。
実に不愉快な設定だ。
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で、物語は1期中盤以降、美世に「夢見」という異能が顕現し始めたあたりから急に話が面白くなってくる。
これはいわゆる予知夢系、および精神操作系の異能であるらしく、もし制御可能になればかなりのチートになるらしい。
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で、2期はさらに美世の血統のポテンシャルが紐解かれる展開になっていくみたいで、ますます面白くなってきている。
<血統至上主義>
こういう血統を絶対的なものとして家系を存続させるという考え方は、何もファンタジーだけの話でもなく、今はともかくとしても少し前までは普通に現実の世界でもそうだったかと思う。
事実、天皇家なんて千年以上もその家系を高貴なる血統で繋いできてるじゃないか・・。
ちなみに、天皇家は<父系>だよね。
継承者を男子とする考え方。
男性<XY>女性<XX>、Y染色体の方を保存/継承していきたい考え方なんだろう。
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ただね、私は個人的な趣味が古代史研究なもんで、ちょうど天皇家発祥の頃の時代背景などを調べたことがあるんだけど、古代というのは
・父系=武に優れた者の遺伝子を保存する家系
・母系=霊媒能力に優れた者の遺伝子を保存する家系
という2種類の系統が並行して存在してたらしいのよ。
ようするに、「嫁取り」と「婿取り」の両方が並行してあったみたいなのね。
それこそ卑弥呼の例を挙げるまでもなく、霊媒能力、いってしまえばこれは<異能>ということになるんだが、そっちは父系でなく母系の方の専売特許だったらしいのよ。
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結局、古代の家同士の抗争は総じて<父系vs母系>だったともいえるわけで、たとえば天孫族vs出雲族、近畿vs九州、中大兄皇子vs蘇我氏などそれこそ色々とあったわけで、しかし最終的には今の天皇家に繋がる父系が勝ち残ったわけだね。
その際、「いやいや、日本はもともと昔から父系の系譜一本でしたよ?」とツジツマ合わせる意味で古事記/日本書紀の編纂があったんだろうが、そこで欠史八代のほとんどが百歳以上というムチャな矛盾が見えることからして、多分そのあたりは正統倭王=母系だった可能性が結構高いと私は思うのよ。
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そもそも卑弥呼って、どう考えても<異能>を備えた女王だよね?
まぁ、彼女の場合は生涯独身で子供がいなかったというし、母系の祖としてはノーカウントの存在にせよ、でも彼女の後の台与あたりは後継者を産んでいた可能性も否定できない。
じゃ、仮に台与ルーツの母系の皇統がかつてあったとして、その血統が一体どこで歴史の闇に消えたのか?
そりゃ、分かりませんよ。
でも、崇神天皇が「神器・八咫鏡に祟りがある」と怖れて、それを皇居から遠ざけ、ご丁寧にもその祟りを鎮める為わざわざ伊勢神宮を建立したという有名なくだり、どう考えてもめっちゃ不自然なエピソードでしょ?
何でアマテラスゆかりの神器・八咫鏡が、天孫の末裔であるはずの崇神を呪うの?
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いやいや、これは天皇自身に何か祟られるほどやましいことがあったとしか考えられないのよ。
そう、一番考えられるのはホンモノの王(皇居のもともとの主)、これまで代々異能を継いできた正統血統の当主を殺し、その王の座を簒奪したというパターンさ。
で、崇神天皇はその祟りを怖れて八咫鏡を遠ざけた後には、代替に大物主という三輪山の神様を祀るようになったという。
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八咫鏡を神器とした一族=おそらく母系(巫女?)
大物主(蛇)を祀る一族=おそらく父系(武人?)
で、そこからも父系vs母系で色々あったんだろうが、とにかく今の天皇家ってのは、「父系でありつつ武を担わず、祭祀を司る家系」という不思議な皇統なんだよねぇ・・。
普通、祭祀ってのは<異能>を備えた巫女、すなわち母系の領分じゃないの?
・・いや、彼らは自らを天孫の末裔(実際は違うと思うんだが)、すなわち古来から<異能>を受け継いできた血統ってことに便宜上しておきたかったんだと思う。
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というか、これは意外と大事なポイントだったと思うのよ。
だってさ、なぜ平氏や源氏や足利や豊臣や徳川など、時の権力者たちは皆、天皇家を潰そうとしなかったのか?
ホントなら潰して彼らが日本唯一のKINGになった方が権力基盤は盤石になるはずだろうに、敢えて誰もそうしようとはしなかった。
そこは何のかんの言いつつ、皆、天皇家という<神に繋がる血統>を畏れてたんだと思う。
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それこそ万が一殺害でもしようもんなら、どんな祟りがあるか分からん、と。
ゆえに、どの時代だろうがアンタッチャブルだったんだと思うよ。
そこを突き詰めると、やはり
高貴な血統=神に繋がる血統=<異能>をもつ血統
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ということで、「わたしの幸せな結婚」における世界観と何ら違いはないのよ。
この物語の設定は、非常によくできてる。
個人的には、おそらく倭王の血統って本来母系だったと思うし、それこそ「夢見」の<異能>を有する美世みたいなのが正統なる我が国の君主だったんじゃないのかな・・?
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この作品の裏テーマはフェミニズムだろう。
作者は、今後女性のポテンシャルの高さをどんどん作中に出現させていくと思う。
いやホント、私は<異能>のポテンシャルは【男子<女子】が日本史的にも絶対的な構図だと思うからね。
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