「revisions」このアニメ史上最も不快な主人公に耐えられますか?
今回は、「revisions」について書きたい。
これは2019年、フジテレビの「+Ultra」枠で放送されたアニメである。
監督は、谷口悟朗。
谷口さんといえば代名詞のように毎回「コードギアス」の名が挙げられるが、別に彼はそれだけじゃなくて、「プラネテス」や「ID-0」など、他にもたくさん良作を手掛けてきてるんですよ。
どっちかというとアニメオリジナル企画が多く、原案の段階からがっつりと入っていくタイプの人である。
おそらく、この「revisions」もそうだろう。
私がこの作品を見た時の最初の感想は、
「これ、谷口さんの初監督作『無限のリヴァイアス』にめっちゃ似とるわ」
というものだった。
実際、群像劇の核になってるものは多分「リヴァイアス」だと思う。
つまりこれは、やはり谷口さんがこの原作に深く関わってるということでしょ。
まず最初に、この「+Ultra」という枠そのものについて書いておきたい。
フジテレビのアニメ枠といえば、「ノイタミナ」の方が有名だろう。
「+Ultra」の方は2018年、つまり最近になって立ち上げられた「第2の枠」である。
このふたつの枠の差別化について、フジはこういう説明をしている。
「ノイタミナはドメスティック。
+Ultraはグローバル」
ようするに、ノイタミナが意識するのは主に国内市場、+Ultraが意識するのは主に国際市場、という意味らしい。
なるほど。
ちなみにだが、現在+Ultraは米国のオンデマンド会社Crunchyrollと提携してるらしい。
Crunchyrollとは、例の「Crunchyrollアニメアワード」で有名なところだね。
となると、+Ultra作品は我々の想定以上に、多くの外国人が見ているのかもなぁ。
たまに、国内ではさほど人気なかった作品なのに、やたら海外で人気という不思議現象があるけど、+Ultra作品もあるいはそういった傾向にあるかも。
じゃ、本編の説明に入ろうか。
「revisions」のストーリーを説明するには、楳図かずお先生の「漂流教室」っぽい感じ、といえばご理解いただけると思う。
あるいは、「SonnyBoy」っぽい感じ、と言い換えてもいい。
ある日突然、渋谷区だけがまるごと異空間に転移し、その転移先というのが西暦2388年の日本。
どうやら、未来には大きなパンデミックが起きたらしく、そこにはただ廃墟と荒野があるのみ。
というのがイントロである。
・・ありがちといえばありがちな話かな。
でもね、この際ストーリーなんてどうでもいいのよ。
ぶっちゃけ、この作品のフックはストーリーではなくキャラである。
まぁとにかく、主人公がひたすらエグいから!
この大介という主人公、 「歴代アニメ主人公不快ランキング」があればダントツの1位確定ですよね。
「大介が不快すぎて、途中で見るのをやめた」という視聴者が続出したとも聞く。
いやマジで、それほどに酷いのよ。
もはや性格に難ありというレベルではなく、完全に精神疾患というか、専門の心療内科医じゃないと迂闊に近寄ってはマズイ、というほどの域である。
おそらく、実際に人格障害という設定になってるんだと思う。
この疾患にも理由付けがされており、彼は実をいうと子供の頃に誘拐された経験があるのよ。
で、その時に「未来人ミロ」を名乗る女性になぜか助けられたんだが、さらにそのミロから
「将来、みんなに危機がくる。その時、あなたはみんなを守る存在となる」
と言われ、そこから自分=救世主という病的な厨二スイッチが入ったんだね。
・・まぁ、こういう経験しちゃうと、さすがに普通ではいられないものかもしれないけど。
そこからは自分を救世主と信じ、その「危機」に備えてきた彼。
正直周囲はドン引きで、とにかく見ててイタい・・。
ところがある日、ホントにその「危機」が来ちゃうんだよな~(笑)。
渋谷区が転送された西暦2388年の世界で、突如、バケモノ「シビリアン」に出くわす。
ビビる大介だが、そこに例のミロという女性が再登場し、彼に「パペット」という機動兵器を貸与し、これでシビリアンを倒せ、と言う。
こういう展開に、厨二病MAXの大介はめちゃくちゃテンション上がるのよ。
もうね、ここからが視聴者にとっての真の地獄ですわ・・。
とにかくイキる大介に対して、果たして視聴者のメンタルは耐えうるのか?
ある意味、これは大介vs視聴者の耐久デスマッチである。
イキる大介
イキる大介
イキる大介
もう彼は完全に救世主モードに入ってて(周りは正直そう思ってないが)、やることなすこと全てが我々の神経を逆なでするのよ。
「俺がお前らを救ってやったんじゃないか!」
彼は不遜にそう言い放ち、とにかく周りの言うことを聞こうとしない。
というか、救うとかいいつつも、自分のやりたいようにしか動かない。
彼は自分が特別な存在でいられるこの世界に陶酔し(モトの世界では周囲にずっと軽蔑されてきたもんで・・)、もはや自分=救世主という存在証明が楽しくてしようがないんだろう。
この幼稚な精神性、こいつ中学生じゃなく一応高校生なんだけどな・・。
もうね、敵が主人公を殺してくれること願ったのは、この作品が初めてかも・・。
冒頭、+Ultraは海外市場を意識したアニメを志向している、と書いたけど、この大介というキャラの設定についても、案外そこが関係してるんじゃないかな、と思ってね。
ちなみに、日本人と外国人の価値観を分ける大きなポイントは
「聖書を読んでいるか、否か」
だと言われている。
で、聖書を読んでる側の人たちは、大介というキャラの捉え方が我々とまた少し違うと思うのよ。
我々からすると、大介って極度の「厨二」、もしくは「電波」でしょ?
だけど聖書ではそういう人種のことを何と呼ぶかというと
「預言者」
と呼ぶのね。
いやホント、嘘だと思うなら、旧約聖書を一回読んでみて(新約まではいいですから)。
それこそ大介みたいな奴がたくさん出てきて、それぞれ「神の声」を聞き、彼らがその声を信じて行動することにより周囲に笑われ、蔑まれ、でも最後には今までの行動が報われる、というオチが聖書のお約束なんだわ。
一番有名なところでは、「ノアの方舟」のノア。
彼は最も有名な預言者のひとりであり、何の確証もないのに神の声を信じ、みんなに馬鹿にされながらもせっせと方舟を作った人である。
まぁ、聖書は小説とはまた違うから、余計な描写がない分、ぶっちゃけノアを含む預言者たちの細やかなキャラクター性まではよく分からんのですよ。
だけど実際は、それこそ大介みたいな感じだったかもしれないよね・・。
子供の頃に神の声(というか、未来人の予言)を聞いた5人の中、大介だけがそれを頑なに信じ続けた、という流れ。
そしてその結果、周囲からずっと変人扱いされ続けてきた、という流れ。
うむ、まさにこれは預言者そのもの。
ある意味、旧約聖書的な世界観をSFっぽく描いてみたらこうなりました、という作品である。
まぁ、聖書を前提にしない限りは、大介はただのキチ〇〇にしか見えないんだけどね(笑)。
でもって、2388年に転移させられた渋谷区民たちがそこで一体どういう目に遭ったのかというと、「リヴィジョンズ」を名乗る得体の知れない奴らから区民全体をリストアップされ、助ける人と助けない人に選別をされちゃうのよ。
これは、聖書でいうところの「最後の審判」だね。
このあたりで、ようやく日本人視聴者もこれが聖書モチーフの話だと理解をできる仕組みになっている。
でも外国人なら、もっと早い段階で物語の根本構造を理解できていたことだろう。
この作品の面白さのキモは
・神の声=未来から時代転移してきた未来人からのアドバイス
・救世主=対リヴィジョンズ組織アーヴの未来予測に基づき選抜された人員
・ハルマゲドン=RVウイルスによるパンデミック
・最後の審判=リヴィジョンズの祖先だけ残し、あとは抹殺する振るい分け
といった感じで、聖書に出てくる事象を、全てSF的に説明をつけてるところなのよ。
というか、こういった聖書との紐づけを理解しない限り、この物語の構造的な面白さなど全く分からないと思う。
牟田=ユダ、とかね。
と考えると、やっぱりこれ、外国人(キリスト教徒)向けの作品といえるのかもしれない。
ということは、日本人にとってはあまり面白くない作品?
う~ん、どうだろ。
そうとも言えるし、そうでないとも言えるし。
まぁ面白さでいうと、まだ「無限のリヴァイアス」の方が日本人好みだったかもしれない。
「revisions」は一見単純な物語に思えて、かなり知的水準を試されるアニメですよ。
これの配信状況はよく知らんが、たとえ視聴環境が厳しい人でも、おそらくYouTubeで探せば無料動画が見つかるはずなので、是非一度ご視聴下さい。
・・あ、くれぐれも、大介から食らう精神的負荷には要注意ね。