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異世界転移系アニメの元祖「ポールのミラクル大作戦」
皆さんは、かつて「アニメ界の欽ちゃん」と呼ばれた笹川ひろしという演出家を知ってますか?
笹川ひろし(1936年生まれ)
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昭和にタツノコプロが黄金期を築けたのは、確実に笹川さんの力による部分が大きい。
実際、彼が監督を手掛けた作品をざっと挙げてみようか。
「マッハGOGOGO」(1967年)
「おらぁグズラだど」(1967年)
「ハクション大魔王」(1969年)
「いなかっぺ大将」(1970年)
「新造人間キャシャーン」(1973年)
「てんとう虫の歌」(1974年)
「タイムボカン」(1975年)
「ポールのミラクル大作戦」(1976年)
「ヤッターマン」(1977年)
「ガッチャマンⅡ」(1978年)
「一発貫太くん」(1977年)他多数
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「欽ちゃん」と呼ばれるだけのことはあり、やはり彼はお笑いの人である。
上の画のドロンジョ/トンズラー/ボヤッキーなど、令和の今見ても実に秀逸なコメディリリーフだと思う。
ポンコツな悪役、どこか憎めない悪役、爆発に遭っても死なない悪役というのは昭和アニメの良心である。
こういうのに比べると、いまどきの悪役は何とギスギスしてることか・・。
で、笹川さんが作るお笑いの特徴として挙げられることは
①同じことを何度も繰り返す⇒<テンドン>
②オチの伏線を張る⇒<フラグ>
大まかにはこのふたつである。
今となってはお笑いの基礎中の基礎とでもいうべき技巧だが、これを明確にスタイル化したのは笹川さんの大きな功績だろう。
日本人のギャグセンスを培ったのは、欽ちゃんよりむしろ笹川さんの方だといって過言ではあるまい。
あと、彼はビジュアルの演出として<記号化>がとてもうまい人だったんだ。
たとえば、上のドロンジョたち3名のミッション失敗後の逃走パターンは、
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こういう三輪車での移動という形に固定されてたよね。
登場する時はあれほどゴージャスな機体に搭乗してたのに、負けてしまえばもはや帰宅手段は自力で漕ぐ三輪車しかないという、この敗者のミジメさをビジュアルひとつで見事に表現してしまう笹川さんのセンスの良さにはただ感服するしかない。
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あとは、「いなかっぺ大将」におけるこういう<記号>↓↓を皆さんは知ってますか?
「どぼじで・・」
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これはマジで巧いと思う。
涙をただ流すのでなく、粘着性がある液体となって伸縮をしたり、あるいはクラッカー状に揺れたりする画として表現してきたんだ。
つまり、涙そのものに感情を乗せて視覚化してるんだね。
そして、何といってもあの手の動き!
ここでは手もまた感情を視覚で表すツールとなっており、これらをトータルコーディネートした形での<記号化>なのさ。
笹川さん、もう天才としか言いようがない。
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あと、笹川さんは<萌え>の表現にもいち早く着手している。
その最たるものは、1969年のこれだろう↓↓
アクビちゃん
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アクビちゃんは、かわいい!
今でも十分に通用するレベルの実に完成度が高いキャラデザである。
実際、タツノコプロはこのアクビちゃんをその後何度も再利用してて、割と最近では2019年の劇場版「パンドラとアクビ」で起用されていた。
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この映画、実は地味におススメなんですよね。
完璧に笹川ひろしオマージュの内容になってるから。
だって、登場人物が
・アクビちゃん(ハクション大魔王)
・ドロンジョ(ヤッターマン)
・三船剛(マッハGOGOGO)
・ブライキングボス(新造人間キャシャーン)
・グズラ(おらぁグズラだど)
・貫太(一発貫太くん)
・ゲルサドラ(ガッチャマンⅡ)
という顔ぶれになってて、完全に「笹川オールスターキャスト」になってるんだから。
暇があれば、見といてください。
癒されるよ。
あとね、笹川さんを語る上でどうしても触れておかなきゃいけないポイントは、「無駄をがっつり削る」という断捨離ともいうべき演出スタイル。
余計なこと(物語上必要な状況説明のストーリー等)は徹底して端折る。
そういうのに尺を使うと見てる人が退屈する、という判断じゃないだろうか。
その代わり、バトル等の盛り上がるシーン、またギャグシーンにはめっちゃ尺を使う。
そのへんのメリハリがスゴイんだよね。
ある意味、ハリウッド型の志向?
特に私が見ててビックリしたのが、「タイムボカン」の第1回である。
これは開始早々、こういうナレーションから入るのよ。
ナレーション「世界的科学者・キエタ博士は、遂にタイムマシン『タイムボカン』を完成した」
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いきなり、そういう入り方かよ(笑)。
で、物語開始5分で、早くもキエタ博士が消息不明になる事件が発生。
さらにいうと開始7分で、博士の助手グロッキーの正体が女悪党マージョが送り込んだスパイだということが判明。
もうね、とにかく展開が早いのなんのって・・。
その後は主人公たちがタイムボカンでタイムワープし、マージョ一味と一戦まじえて勝利するところまでを全部1話の中で済ませちゃうんだから、油断してたら置いてかれちゃうほどのスピード感である。
この疾走感こそ、笹川演出の真髄なんだね。
なるほど。
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あと、個人的に「これスゲーな!」とビックリしたのが「ポールのミラクル大作戦」である。
「ポールのミラクル大作戦」(1976年)
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この作品は「タイムボカン」の翌年にスタートしたものなんだが、ちょっとテイストが変わってるのさ。
「タイムボカン」がタイムワープ系SFであるのに対し、「ミラクル大作戦」は「不思議の国のアリス」系のファンタジーである。
どうやら海外輸出を前提に作られたものらしくて、笹川さんともあろう人が割と真面目に作ってるんだ。
で、めっちゃクオリティが高い。
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で、悪役もポンコツ系ではなく、ちゃんとしてる。
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このベルトサタンの部下がキノッピーという奴で、こいつはちょっとヌケてるんだけどね。
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で、この作品で何といっても秀逸なのが、ヒロイン・ニーナのキャラデザ。
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このニーナが、第1話からいきなりベルトサタンに拉致されてしまう展開になり、主人公ポールがその救出にいくという感じのプロットである。
ただ、毎話いいところまでいくけど救出には失敗という展開が続く。
で、ニーナはそのビジュアルからして、「囚われの姫」という役にピッタリなのよ(笑)。
じゃ、彼女が一体どこに囚われてるのかというと、これが「異世界」なんだよね。
そう、つまり「ポールのミラクル大作戦」とは
日本で最も古い「異世界転移系ファンタジー」
のひとつといえるんだ。
そういう意味でも、これは一回見といた方がいいと思う。
お薦めのご紹介として、第1話を貼っておきますね。
主人公のポールがガキのクセに、小粋なロングブーツ履いてるところがいいんだよなぁ。
ちなみにポールの戦闘武器はヨーヨーであり、このへんは「ヤッターマン」ガンちゃんの武器・ケン玉にも通じるものがある。
さて、こうしてほとんど「ハズレがない」といってもいいほどの笹川アニメだったんだけど、タツノコプロの企画室は何を考えたのか、しばらくするとこの笹川スタイルを「笹川さん抜き」でやっちゃうという暴挙に出たのよ。
それが、この作品である↓↓
「アニメ親子劇場」(1981年)
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これ、知ってる人いる?
実はこれ、「タツノコプロ聖書シリーズ」と銘打たれていて、
第2弾「トンデラハウスの大冒険」(1982年)
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第3弾「パソコントラベル探偵団」(1983年)
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これらと合わせた3部作構成となってるのね。
で、タイムワープで過去に遡り、旧約聖書/新約聖書の中にある出来事に遭遇するプロットになっている。
つまり、アダムとイブに会ったり、ノアの方舟に乗ったり、十戒のモーセに会ったり、マリアやイエスに会ったりすることで、視聴者である子供たちに聖書の教養をつけてもらおうという実に高尚な企画である。
どう考えても、この高尚なノリに笹川さんは合わないだろうし、実際、彼はこの企画に噛んでない。
ただ、設定だけは「タイムボカン」からそのまま丸パクリしてる感じなのよ。
なんせ、少年+少女+ロボがタイムワープする的な内容だから。
ただね、ハッキリ言おうか。
この「聖書シリーズ」3つとも、真面目すぎてめっちゃつまらん!
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・・いや、全否定したいわけではない。
めっちゃつまらんけど、めっちゃ勉強になるから。
逆に笹川さんのアニメは面白いけど、全く勉強にならんし(笑)。
子供にアニメを見せる親御さんとしては、どっちを優先するかだよね~。
なお、私はあまり好きじゃない「アニメ親子劇場」だが、アメリカがこれを3DCGアニメとしてリメイクしてるのよ。
「SUPER BOOK」というタイトルでシーズン4まで制作してるらしい。
まぁ、あそこはキリスト教の国だからな。
「親子劇場」みたいなアニメは、教材にウッテツケなんだろう。
この「SUPER BOOK」は見たことない人も多いと思うので、第1話と第13話を貼っておきます。
勉強になりますよ。
特に第13話の「ハルマゲドン」なんて、言葉では知ってても聖書でどう表現されてるか日本人はほとんど知らんでしょ?
これ見て興味湧いたという人は、YouTubeで「SUPER BOOK JAPAN」と検索してみてください。
個人的には、さほどお薦めというわけではないですけど・・。
子供にはいい教材だと思う。
さて、タツノコプロに話を戻すが、私は個人的に「アニメは勉強にならなくても面白い方がイイ!」という考え方なので、推しとしてはどうしても笹川さんのアニメの方になりますね。
これはこれで、笹川さんのアニメは「お笑い」の勉強にはなるんだよ。
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