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「機動戦士ガンダム」は、まず劇場版3部作を見よう!

先日、「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」を見たんだが、あれはジオン軍サイドから見た一年戦争(UC0079)だったので、今度は地球連邦サイドからの視点を再確認してみたいと思い、昨夜は久しぶりに劇場版「機動戦士ガンダム」1作目のやつを見たのよ。
いやホント、かなり久しぶりで見たんだが、やっぱ劇場版「ガンダム」ってスゲーよな。
令和の今見ても、ちゃんと面白いんだから。

<劇場版「ガンダム」興収>

監督・富野由悠季

・1作目(1981年)⇒17.6億円
・2作目(1981年)⇒13.8億円
・3作目(1982年)⇒23.1億円

3部作興収計が54.5億円
大ヒットである。
しかし実をいうと、「ガンダム」より以前にも70年代にTVアニメの劇場版が大ヒットを記録した前例というのはあったわけで、それは

・「さらば宇宙戦艦ヤマト」(1978年)監督・舛田利雄/松本零士/石黒昇
⇒興行収入21億円

・「銀河鉄道999」(1979年)監督・りんたろう
⇒興行収入16.5億円

といったところだ。
しかしこの2作品とも、TVアニメ版とは別に
イチから映画として作った作品
なんだよね。
それに対して、劇場版「ガンダム」3部作は多少の手直しがあるとはいえ、あくまで基本コンセプトは「TVアニメの総集編」である。

・・いや、これがとてつもなく凄いことだと思ってさ。
普通、このての総集編はどうしたって「ダイジェスト」感みたいなのが出てきちゃうもんでしょ?
でも、本作にはそういうのが全くない。
事実、今回私が見た劇場版1作目は、TVアニメなら第14話ぐらいまでの内容をまとめたものである。
14話分、つまり約290分の内容を約130分にまとめてるわけで、それは半分以上の尺をごっそり削った、ということ。
クリエイターとして、そんなしんどい作業があるだろうか?
手塩にかけた、「愛しい我が子」を冷酷非情に切り捨てていく作業じゃないか。

確か、映画作家の苦悩を描いた名作「映画大好きポンポさん」では、

「映像を撮る作業までは、ただ夢中で楽しい。
でも、編集でテープを切り捨てていく作業からは、本当に地獄・・」

「映画大好きポンポさん」

という描き方がされていた。

で、この劇場版3部作を編集したのは富野由悠季監督なのよ。
そして、この富野さんという人は、かつてこういう発言をしてるんだ。

「・・こんなこと、本人に言わせるなよ。

俺、編集の名人だから。
(編集にかけては)世界一の人間だから」

カッコいい~‼

いやホント、富野さんのバケモノじみた才能のひとつはその「編集能力」であり、この点に限っては、たとえ宮崎駿高畑勲ですら対抗できないんじゃないかな?
あくまでもジブリは、「映画はイチから作っていく」タイプだからね。

富野さんは編集にあたって「まんべんなく削る」というやり方を絶対しない人なので、その分、彼が「何を残したか、何を削ったか」が明確な劇場版はホント大事なエビデンスなのよ。
彼は、最も優先すべきところは「間」も含めて全く削ってないし、そういうスタンスだからたとえ「総集編」といえど、ちゃんとした作品になってるんだよね。

え~とね、じゃここで、ちょっとだけ視点を変えてみようか。
皆さんは、本田雄というアニメーターを知ってる?

本田雄(ほんだたけし)1968年生まれ

彼は、もともとは庵野秀明のスタジオカラーにいて、あまりに有能すぎたのでジブリに引っ張られてしまい、以降はレジェンド近藤喜文亡き後、宮崎駿に最も愛されているアニメーター(現在進行形)というべき存在である。
もし、どこかに「日本アニメーターランキング(現役のみ対象)」なるものが実在するとすれば、きっと、この本田さんが現状のランキング1位ということになるんだろうなぁ・・。

で、この本田さんに「ジブリ以外でスゴイと思うアニメ映画は?」と聞いてみたところ、まず彼が真っ先に挙げたのが、上記「ガンダム」劇場版3部作だったんだ。
さらに、彼はこうも言っている。

「僕にとって『ガンダム』は劇場版3部作以上のものはなく、シリーズの続編は、もはや蛇足じゃないかとさえ思えてしまう」


・・なるほど。
ちなみに、彼がこの質問に対して挙げた作品は「ガンダム」を含めて4作品ほどあって、それが

・劇場版「ガンダム」3部作(監督・富野由悠季)
・劇場版「イデオン」2部作(監督・富野由悠季)
・劇場版「じゃりン子チエ」(監督・高畑勲)
・劇場版「ゴルゴ13」(監督・出崎統)

だったんですわ。
高畑さんのも出崎さんのも「映画としてイチから作った作品」であることに対し、富野さんの「ガンダム」「イデオン」は両方ともが「総集編」なんだよね。
いかに「総集編」でありつつも映画としてきちんと成立しているか、そしていかに富野さんの「編集」がうまいかを如実に示したエビデンスさ。

劇場版「イデオン」2部作、確かにこれも名作

うん、私もよっぽどのアニメ好きじゃない限り、「ガンダム」はTVシリーズを見なくとも、案外映画だけで十分こと足りるものだと思うよ。

<ライトファンにお薦めしたい「ガンダム」視聴コース>

①「機動戦士ガンダム」(1981年)
②「機動戦士ガンダムⅡ哀戦士」(1981年)
③「機動戦士ガンダムⅢめぐりあい宇宙」(1982年)
④「機動戦士Zガンダム星を継ぐ者」(2005年)
⑤「機動戦士ZガンダムⅡ恋人たち」(2005年)
⑥「機動戦士ZガンダムⅢ星の鼓動は愛」(2006年)
⑦「機動戦士ガンダム逆襲のシャア」(1988年)

特に⑦「逆襲のシャア」を見ないことには、現代アニメの文法そのものを理解できないと思う

この7本さえ見とけば、十分「ガンダム」語れますよ(注/ただし、マニアを相手にしてはいけませんw)。
映画7本は多すぎる!という人は、最悪④~⑥は削ってもいいです。
逆に、もう少し余力あるけど?という人は、①⇔②の間に「ククルスドアンの島」(2022年/監督・安彦良和)を挿入してみてもいいだろうし、同じく安彦さん原作の「ORIGIN」シリーズ(前日譚)を見てもいいし、あるいは現在進行形の「閃光のハサウェイ」シリーズ(これは原作が富野さんの小説で、後日譚的内容)に繋げていくというのもいい。

「ククルスドアンの島」
「THE ORIGIN」
「閃光のハサウェイ」

まぁ何にせよ、基本は「ガンダム」劇場版3部作で、

ヘタにあちこち手を広げるぐらいなら、3部作を何度もリピートして暗記するぐらいになる方が、私はむしろ好ましいと思うよ。


劇場版3部作は、いわばサッカーでいうところの「インステップキック」に該当する基礎部分と思う。
まだインステップキックすらマトモにできないのに(球をまっすぐ蹴れないのに)、次の段階のアウトフロントキック(カーブをかけたりするやつ)に移行しようとするのは正直好ましくないやろ、と。

じゃ、続けて富野由悠季の「バケモノじみた天才性」のパート2。
それは、彼が

「絵コンテを描くのが異常なほど速い」


ということなんだ。

・・えっ?速さって大事?
と思う人もいるかもしれない。
うん、確かに速けりゃいいってもんでもないさ。
でも、天才って大体は速いもんだよ。
たとえばモーツァルトがなぜ「天才」とされるのかって、彼は曲を作るのが異様なほどに速かったっぽいんだわ。
「映像が残ってないのに速いかどうか分かるわけないだろ」と思うだろうが、彼直筆の楽譜の筆跡を分析すると大体のことは分かるものらしい。
その痕跡を見るに、全く「考えながら音符を書いてる」というものじゃないんだって。
ささーっと自動筆記のように書いてたっぽく、なんと途中で止まった痕跡が全くないという。

「神童」モーツァルト

あぁ、そういや手塚治虫先生も描くのが速かったらしいね。
あと、鳥山明先生も下描きナシでいきなりペンを入れてたとの逸話がある。

で、これと似たニュアンスが富野由悠季にはあるのよ。
彼は、こう言う。

「絵コンテなんて、本読んだらすぐ『自動的』に落とし込めるものだろ?
そこに苦労する意味が分からないんだけど?」

・・これ、めっちゃイキったこと言ってるよね(笑)。
絵コンテでめちゃくちゃ苦労してる人たちなんて、世の中にはゴマンといるだろうに・・。
で、彼は最初「苦労してる人たちがいる」という現実をほとんど認識してはいなかったみたいで、やがてその現実を認識した時、「うっそ~?」と驚愕したんだそうだ。
そして、彼はこう言う。

「この作業を『自動的』にできない人は、ただ才能がないだけなんです。
そういう人は、こういう映像関連の仕事をやっちゃいけない。
教育して、育てればいい?
いやいや、こういうのは人に教えられるものじゃないです。
だって、『自動的』にできることなんだから」


現実に富野さんは、絵コンテをささっと描けないような人材は「適性なし」として「早いうちに業界を辞めた方がいい」と言ってきてるらしく、それで実際辞めた人もたくさんいるらしい。
・・まぁ、このへんのスタンスは必ず賛否両論あるだろう。
私も正直、さすがにこれってどうかな・・と思う。

富野さんは、そんなにも不遜なキャラなのか?


まぁ、「編集させたら俺は世界一」発言は置いとくとして、それ以外では彼は決して自惚れキャラじゃないですよ。
私の知る限りだと、
・高畑勲
・宮崎駿
・出崎統

このあたりを「自分より才能が遥かに上」と認識してることが伺える。
あと、最近ではなぜか三谷幸喜の才能に嫉妬してるらしい(笑)。

最近はよく大河ドラマを手掛けている三谷幸喜

富野さんは、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、合戦のシーンがロクにないのに成立してるドラマに衝撃受けたみたいだね。
ならば、次なる富野さんの新構想は

ガンダムがほとんど闘わない、ひたすら会話劇のNEW「ガンダム」

となる可能性も十分にある。

きっと「君たちはどう生きるか」に対抗して、「俺は、こう生きる」というめっちゃ熱いのを仕上げてくるだろう。


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