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「THE FIRST SLAM DUNK」以降、アニメは変貌していくと思う
今回は、「THE FIRST SLAM DUNK」について書きたい。
まぁ、これ大成功だったよね。
・日本アカデミー賞最優秀アニメ賞受賞
・ファンタジア国際映画祭最優秀アニメ賞受賞
・東京アニメアワード4冠
・文部科学大臣賞受賞
・FILMARKS AWARDS2023邦画部門1位
・VFX-VFX-JAPANアワード最優秀アニメ映画賞受賞etc
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受賞の数が凄い!
だけど、実をいうとディスってる人は結構いるんだよね。
私は、そういうディスってる人たちの気持ちも分からんではないのよ。
だってこれ、アニメとしてはかなり実験的な作りになってるから。
これの原作はTHE漫画!という感じの正統な漫画なのに、今回のアニメ化はその漫画っぽさを極力抑えた3DCGアニメという形になっている。
そういう意味でいうと、もっと否定的な反応があっても不思議ではなかったとさえ思う。
・・ただねぇ、その3DCGがマジ凄いのよ!
まず、「これはどうやって作ったんだろう?」と率直に思った。
もし近眼の人が眼鏡を外してこれを見たら、おそらく実写映画だと感じるに違いない。
それほどに、キャラの動きが完璧に自然。
多分、ハリウッドなんかがよくやる「モーションキャプチャー」を使ったんだろう。
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こういうVFXにセル調の画を合成した感じ。
だからセル調といってもかなり写実描写寄りで、原作にはあるデフォルメ調のギャグシーンはこの画風にそぐわないという判断か、その多くがカットをされている。
正直、そこが原作ファンにはかなり不満だろうけど・・。
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というか、原作漫画の魅力を100%引き出すのは、もう最初から狙わないというコンセプトだったのでは?
その代わり、バスケのリアルな動きだけは極限まで追求という一点豪華主義の作風。
リアルに寄せる分、試合中の会話等は抑えており、漫画よりスピーディーにことは進んでいく。
言葉でなく、あくまで画で状況説明をしていくというコンセプト。
それだけあって、そのリアルさはマジでヤバかった~。
私も3DCGは色々見てきてるけど、この作品はもう完全に頭ひとつ抜けてるよ。
おそらく、ハリウッドCGアニメの水準をも超えてるかと。
いやはや、東映アニメーション、おそるべし・・。
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ただ、どっちかというと「バガボンド」以降の井上雄彦先生、という感じの画だったね。
今回、先生はこの映画の監督・脚本を務めてくれている。
つまり今の先生の境地で「スラムダンク」描いたら、大体こんな感じになるということなのかも。
なるほど。
それにしても、原作者の漫画家が監督やってここまで成功した例って、大友克洋の「AKIRA」以来じゃない?
漫画家がアニメ作品の監督をする例はあまり多くないと思うが、うまくいく可能性は意外にあると思う。
なぜって、アニメの絵コンテは漫画とよく似てるから。
いや、厳密には似て非なるものなんだろうけど、それでも脳内にまず映像を創る作業はどっちの作家も同じはずだし、案外イケる気がするよ。
よく考えたら、宮崎駿や今敏も元漫画家だったわ。
というか、漫画家だからこそ3DCGじゃなく2Dでいくのかと思いきや、なぜか、その逆の選択をした井上先生。
・・あ、そうそう。
ちゃんと2Dもあったのよ。
それがオープニングで、これは2Dアニメというより井上先生デッサンによるパラパラ漫画?
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色もつけてない画なんだけど、5人がゆっくり歩く動画になってて、しかもそれがちゃんと5人5様に特徴ある歩き方として表現されている。
これ見て、ぶっちゃけ「ああ、やっぱ2Dの方がカッコいいな」と思ったわ。
いやゴメン、3DCGは素晴らしかったし不満は特にないんだが、やっぱ子供の頃から2D見て育ったこともあり、どうしてもリアルなやつより漫画っぽいやつの方が琴線に触れるんですよ。
じゃ、なぜ東映アニメーションは3DCGを選択したのか?
そもそもモーションキャプチャー使うアニメなんて、かなりおカネかかると思うんだが。
普通に作った方が安上がりだったのでは?
・・いや、私が推測するに、作業的にそれが無理だったんじゃないだろうか。
私の知る限りだと、井上先生って尋常じゃないほど画にこだわりがある人だという。
多分、ポイントは「人物の動き」だったんだろう。
普通、アニメでは1~2名を大きく描き、他の選手をフレーム外にして作画負担を減らすのがセオリーだが、ひょっとして井上先生、そういうのをよしとしなかったのでは?
そういうリミテッドでなく、フルコートの全景が見える形で描こう、と。
で、色々検討した結果、モーションキャプチャー付きの3DCGに落ち着いたんだろう。
ちなみに、下の画は昔のテレビアニメ「スラムダンク」のものだ。
見ただけで作画負担を極力抑えてるのが分かるし、これは別に手抜きというわけじゃなく、この時代のアニメは大体こんなもんですよ。
いわゆる「出崎統演出」というやつで、スポーツ系作品といえば「あしたのジョー」や「エースをねらえ」あたりが不動のテキストだからね。
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多分、今後は「THE FIRST SLAM DUNK」に倣ったアニメが増えるだろうよ。
とはいえ、技術的に一番謎なのが、3DCGにあそこまで違和感なく井上先生の画をハメ込むことがどうやって実現できたのか?である。
「セルルック調3DCG」ってたくさんあるけど、今回みたく、完全に違和感なくハマってる例は初めて見たぞ。
3DCGの強みは、「カメラ」を縦横無尽にグウィングウィンと動かすことが可能なこと。
上の画も、これを2Dで描こうと思ったらめっちゃ手間かかると思うんだよね。
3DCGって、こういうスポーツ系アニメには適してるかもしれない。
ただ、気になるのがこれにかかる費用と時間である。
「THE FIRST SLAM DUNK」は、制作にまる4年を費やしたと聞く。
結構大変そうじゃないか。
聞けば、この制作に携わったのは東映と共に「ダンデライオン」という会社があって、どうやらこのダンデライオンの方が3DC分野を仕切ったらしい。
ここは東映のCGディレクターが2013年に独立して立ち上げた会社らしく、初めて作った劇場作品が「THE FIRST SLAM DUNK」のようだ。
なるほど、気合も入ってたわけか。
日本で最も古い老舗・東映ですら、こうして3DCに本腰入れてきてる現状。
今後、時代は確実にこっちへ向かうだろう。
で、これはジブリが制作したフル3DCG作品、「アーヤと魔女」である。
見た人は少ないだろうが、私はジブリの今後をチェックする意味で見ておきました。
もともと、ジブリもまた東映から独立したところなんだよね。
そのジブリが、今は「駿」部と「吾郎」部というふたつの部門に分かれている。
「アーヤと魔女」は、「吾郎」部の最新作。
見ての通り、いまどきの「セルルック調3DCG」でなく、人形アニメっぽいテイスト。
古臭い・・。
吾郎氏はセルルックができないのかといえばそうじゃなく、これの前には「山賊の娘ローニャ」というのをやってて、こっちはセルルックなんだ。
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「アーヤ」も「ローニャ」もNHKががっつりと絡んでおり、意外と「吾郎」部は順調なのかも。
そう、手描きの最高権威・ジブリですら、明らかに3DCGへと舵を切ってるというのが現状。
ちなみに、巨匠は「アーヤ」の試写会後「面白かった」とだけ言い、珍しく何もディスらなかったという(一応「アーヤ」は駿の企画だったらしい)。
こういう系統はあまりにもジャンルが違いすぎて、巨匠は何もツッコめないのかも?
まだ、正統後継の「ポノック」の方になら、嬉々としてツッコめるんだろうけど・・。
何にせよ、時代の分岐点が遂に来たな・・という感じがする。
おそらく「THE FIRST SLAM DUNK」は、後世の人たちがアニメ史を語る際に最大のエポックメイキングと定義付ける作品だと思う。
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