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95年版「攻殻」と08年版「攻殻2.0」、何が変わったのか?

最近、「らんま1/2」のリメイク版がスタートしたんだね。
おそらく、これは先の「うる星やつら」リメイクを「成功」と捉えた上での動きだろう。
確かに、「うる星やつら」の出来は想像以上に良かった。
あれを見れば、「現在の最新アニメ技術をもって過去の名作をリニューアルしたい」というモチベが業界に湧くのは当然である。

さて、今回はひとつの名作のリニューアル版について語ってみたいと思う。
それはこの作品、2008年に制作された「GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊」のリニューアル版である↓↓

 「GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊2.0」

監督・押井守(2008年制作)

これ、ぶっちゃけると賛否両論あるんだよね。
というのも、大枠でいうと95年版とほとんど変わってないから。
↑↑に「フルリニューアル」と書いてあるから作画をイチからやり直したかの印象もあるが、そうではない。
私も2作品をきちんと見比べる作業まではしてないけど、パッと見た感じ、原画はほぼイジってないと思う。
いや、厳密にいうと3DCGで新カットを追加したりはしている。
ただそのシーン、正直ちょっと違和感がある気も・・。
あと、全体的に色調を少し明るめに調整したみたいで、これは2004年制作の続編「イノセンス」とのバランスを考慮したんじゃないかと。

「イノセンス」(2004年)

「イノセンス」については「ワケ分からん映画」という世間の評判もあるが、押井監督自身はこの作品をかなり自画自賛してたので、満足してるんだと思う。
むしろ「GHOST IN THE SHELL」のリニューアルって、この「イノセンス」ありきのチューニングだったんじゃないの?
「イノセンス」のクオリティに前作を合わせなきゃバランスが悪い、と。

・・と書くと、まるで95年版がクオリティ低いかのような印象を与えてしまうかもしれんが、いやいや、トンデモない、95年版はほぼ手を加える必要がないほどに完璧ですよ。
ただね、押井さんクラスともなると我々常人の理解を遥かに超えた美意識の次元なわけで、このリニューアルも彼の中では「やらなきゃ気が済まない」モノだったんだと思う。

・・そういや、私の知人で異様なほど服にコダワリがある奴が1人いてさ、そいつはジャケット買う時「袖丈を5mm詰めてください」とか平気で言うのよ。
ちょっと待て、5mmって誤差の範囲内やないか!
そんなムチャな丈詰めはお店も拒否するやろ!と思ったけど、意外とお店はすんなりそれを受けたみたいで、その仕上がったジャケットを着せて見せて「どう?」とか言ってくるものの、私には丈詰め前と何ひとつ変わってないようにしか見えないんだが・・。
ようするに、押井守の「攻殻」2008年版を見た時の印象って、この時の感覚と同じなんだよ。

押井守

あと、音響の方はかなり大きくイジったみたいだね。
押井さんは「映画の完成度は音響の要素が半分を占めている」が持論らしく、相当なコダワリを持っている。
このへん、確か庵野秀明も似たようなことを言ってたっけ・・。
そのくせ、押井さんの映画は毎度セリフが異様なほど聞き取りづらい(笑)。
字幕をつけてほしいくらいさ。
で、アフレコは全部やり直したらしい。
その際、押井さんがひとつの大きな変更を加えている。
それは何かというと、

「人形使い」の声優を、家弓家正から榊原良子に変えたことさ。


この家弓さんという人は、声優界の重鎮だったのよ(既に他界)。
アニメより実写吹き替えメインの人だが、宮崎駿は「カリオストロの城」で家弓さんをカリオストロ伯爵役として名指しオファーしたほどの人物(これは実現せず)。
あと彼は、「未来少年コナン」レプカ役、「ナウシカ」クロトワ役を担っている。

レプカ
クロトワ

で、そんな大物声優にわざわざ断り入れるというムチャをしてまで榊原良子(「パトレイバー」の南雲さん)起用をしたってのも、それなりに押井さんの考えが何かあってのことだろう。
まぁ、ここから先は押井さん自身が語ったことではなく、あくまで私なりの解釈になるんだが、この家弓⇒榊原の狙いというのは、分かりやすくいうと

バトーの「草薙を別のオトコに寝取られた感」を払拭する為


だと思うのよ。
「イノセンス」でバトーというキャラをじっくり描いた押井さんとして、彼に感情移入しちゃったんじゃないかな?
こいつ、何か哀れすぎる・・と。

いや、厳密にいうと「人形使い」は「GHOST IN THE SHELL」の中で「性別は不詳」ときっちり言及されてるんだが、それでもcv家弓という形にしたことでどうしてもオトコ感が拭えず、やっぱりバトー⇒NTRの雰囲気が否定できないかも。
で、「もっと性別不詳感を出そう」というところからの、榊原良子だったんだと思う。

榊原良子

皆さんもイメージしてみてくれ。

①家弓家正と融合した田中敦子
②榊原良子と融合した田中敦子


これを大塚明夫の気持ちになって、考えてみてほしい。

大塚明夫

うん、断然救われるのは②ですよね。

多分、このへんの流れを誰よりも理解していたのが、作画監督・黄瀬和哉だと思う。
黄瀬さんはこの「攻殻2.0」の5年後、「攻殻機動隊ARISE」を作っている。
それも「SAC」シリーズの神山健治さんとは全く別の流れで、だ。

ちなみにだが、

①押井守⇔神山健治
②押井守⇔黄瀬和哉


この2つのライン、皆さんはどう考えてる?
「最も厚い師弟の絆」と見られてるのは①の方だと思うが、でも押井さんは以前、「出崎統にとっての杉野昭夫」の重要性を語った際、
僕がようやく見つけた(杉野昭夫的)天才
として黄瀬さんの名を挙げてたのよ。
あくまで片想いっぽいことを補足してはいたけど。
・・で、私としては②の線がかなり本命だと見てるんだよね。

黄瀬和哉(右)と坂本真綾(左)

その黄瀬さんが作った「ARISE」だが、興味深かったのは草薙のcvを田中敦子でなく、坂本真綾にしたことである。
ちなみに、坂本さんは原典「GHOST IN THE SHELL」にもちゃんと出てますからね。

「GHOST IN THE SHELL」ラストシーン

そう、この画↑↑のシーン、いつもの義体を破壊された草薙が少女型の義体で目覚めた時、ほんの短い時間にせよ、なぜかその時の声が田中敦子じゃなく坂本真綾。
よく考えたら、95年版の時点で既に坂本さんが草薙を演ってるってことは、

この頃の坂本真綾って、多分まだ15歳だよな?

        (;゚∀゚)=3ハァハァ


この「義体が変わると声も変わる」という原典の設定をモトにして、敢えて黄瀬さんは「ARISE」草薙cvを坂本さんにしたんだと思う。

でさ、これはあくまでも私なりの独自解釈にすぎないんだけど、黄瀬さんが「ARISE」で一番やろうとしてたことって、「人形使い」の正体を匂わせることだったと思うのね。
この「ARISE」は2027~2029年が舞台で、一方「GHOST IN THE SHELL」の「人形使い」事件は2029年の出来事。
で、「ARISE」のオチを含めて注意深く見てもらえばお分かりいただけると思うが、おそらく黄瀬さんとしては

・最後、あっちの世界へと行ったファイアスターター=「人形使い」の原型
・最後、あっちの世界へと行った双子の姉妹=「人形使い」の原型

・ファイアスターター、双子の姉妹=ともに、草薙にとっては「家族」

という前提で描いてると思う。

ファイアスターター
双子の姉妹

つまり、黄瀬さんは原典「GHOST IN THE SHELL」の「人形使い」事件を

「草薙が家族と再会し、そして融合という道を選択した物語」


という新解釈にしたかったわけよ。
「草薙がオトコに寝取られた」とか、そういう下世話な次元の話じゃなく、もっと崇高な意味をもつ融合だったんだよ、と。

で、こういう美しい物語に転換できたというのも、全ては

「人形使い」家弓家正⇒榊原良子


という2008年「攻殻2.0」の変革から始まった話なのさ。
多分、これがなければ、「ARISE」のアイデアは生まれなかったはず。
このへんの新解釈は、押井⇔黄瀬ラインで共有されてるものだと思う。

「攻殻SAC」シリーズ

ていうか、もともと「GHOST IN THE SHELL」の世界観に近いといえるのは、「SAC」シリーズではなく「ARISE」シリーズの方なのよ。
その論拠は、草薙と荒巻課長との関係性。
「SAC」における草薙⇔荒巻は、めっちゃ固い絆で結ばれてるよね。
だけど「ARISE」における草薙⇔荒巻は、かなり微妙な空気感・・。

で、原典「GHOST IN THE SHELL」における草薙⇔荒巻はどうかというと、これは皆さんもよく存じだろう、最後、草薙(とバトー)は荒巻を裏切っている。
そう、この線だけはどうしても「SAC」と結びつかないのよ。

まぁ、そんなわけで、押井守⇔神山健治より、押井守⇔黄瀬和哉の方が「本命」?


といっても、「ARISE」は「ARISE」で別の側面で原典とは矛盾があり、微妙なところである。
ぶっちゃけ、これは脚本家・冲方丁のオリジナリティが強めに出たシリーズでもあるし・・。


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