富野由悠季の隠れ名作NO.1、「リーンの翼」はサイコー!
今回は、富野由悠季という人物について少し書いてみたい。
富野さんは1941年生まれで、1960年に日本大学に入学している。
1960年って、いわゆる「60年安保」の年だよな?
しかも、激戦地というべき日大。
大学生活というとみんなキャッキャウフフなものをイメージするかもしれんが、多分富野さんのキャンパスライフはそういうのじゃなかったと思うよ。
2回生の時はもう自治会長に就任してたらしいし、どっちかというと爆心地の中で殺伐とした日々を過ごしてたんだと思う。
1941年生まれといえば宮崎駿も実はそうで、彼は当時、学習院大にいた。
世代として宮崎さんもまた当然のごとく反権力志向だったんだろうが、彼の場合は富野さんみたく戦場の最前線に立ったわけでなく、共産党「赤旗」に漫画を連載する、という形でのアプローチだったみたいだね。
このへんの御二人の動きの差が妙に面白いな、と思って。
・怒鳴り散らす富野由悠季
・黙々と描く宮崎駿
富野さんってさ、ホントに生粋の「闘士」だと思うのよ。
皆さんも、今まで学校や職場などで様々な修羅場を見てきてて、「その場の主導権を握る人」のパターンを把握してるでしょ?
私が思うに、そのてのタイプは主に次の2つ。
①理論武装が完璧で、ロジックであらゆる人を論破できちゃうタイプ
②声がデカく、勢いとパワーで押し切ってしまえるタイプ
アニメ界でいうと、①の典型が高畑勲だろう。
この人の理論武装、ロジック構築には誰も敵わなかったらしいし(さすがは東大卒)、一方で宮崎駿は厳密には①タイプじゃないにせよ、でも高畑さんに憧れがあったこともあり、①寄りのスタンスと捉えても構わないと思う。
さて、富野さんはどうか?
これは完璧に②ですよ。
いや、②を馬鹿にしてほしくないんだよね。
皆さんもいまだ「会議」や「ミーティング」という場で、最後の最後は②に全部持っていかれた経験って絶対あるでしょ?
おそらく、富野さんはまさにそのタイプなんだ。
じゃ、彼のキャラクターをよく把握できる動画があるので、ひとつ見ていただきたい。
ぶっちゃけ、ちょっと怖い映像です。
このインタビュアー、可哀相すぎやろww!
もし私がインタビュアーだったら、もう確実に途中で心が折れてるよ。
・・いや~、こういう上司の下にだけはなりたくない!
声優・新井里美が収録の途中で泣き出したというのも、凄く納得の威圧感といえよう。
さて、こういう彼のハラスメント気味のキャラはひとまず置いとくとして、全共闘世代としての彼の「政治思想」はどうなのか、ということについて。
1941年生まれとしては柄谷行人もそうなんだが、ようするにマルクス思想ということなのか?
・・いや、富野さんの場合は、そのへんがよく分からない。
じゃここで、富野さんが珍しく太平洋戦争(日中戦争)について語っている映像があるので、こちらをご覧ください。
相変わらず、めっちゃ怒ってるね・・(笑)。
で、このインタビューの中で私が印象的だったのは
「ガンダムで『戦争』を描くつもりはなかった。
ただ巨大ロボットを活躍させる為に、戦場を舞台にしただけ」
と語った点である。
え?そうなの?と。
そうは言うけど、これまで富野さんはめっちゃ戦争を描いてきてるよね。
で、そのモチベになってると思うのが、このインタビューの中でもハッキリ述べた、「旧日本軍の無能っぷりに対する怒り」だと思う。
富野さんって一般的には「左翼」にカテゴライズされつつも、思想そのものは高畑さんと少し違い、いわゆる「反戦」ではないよね。
闘うこと、そのものは否定していない。
なんせ、ご自身があの性格だから。
「『宇宙戦艦ヤマト』をぶっ潰す!」
「『ナウシカ』をぶっ潰す!」
「『エヴァンゲリオン』をぶっ潰す!」
高畑さんなら絶対に言わなそうなことを常に言う人だわ・・。
で、今回は、こういう「富野イズムの集大成」といえる作品をひとつご紹介したい。
なんせ、
・神風特攻隊
・東京大空襲
・広島の原爆投下
・沖縄の玉砕戦
といった現実にあった戦争をモロに描いた、富野由悠季にしてみれば非常に珍しい作品なんです。
WEBアニメ「リーンの翼」(2005~2006年)
これWEBアニメだから、富野作品としては最も知名度が低いもののひとつだろうね。
だけど、富野作品で最も濃いもののひとつともいえる。
テレビより規制がユルく、好き放題やっちゃいました!はっちゃけました!的な感じ。
シリーズとしては1983年制作の「聖戦士ダンバイン」、あの作品で描かれた「バイストンウェル」という異世界が舞台のサーガである。
「ダンバイン」はメジャーなので知ってる人も多いと思うが、あれって富野さんが「ナウシカ潰し」の為に創作した作品なんだよね。
ファンタジーには敢えてファンタジーを当てて潰したる、と。
お陰で「異世界召喚」された主人公があっちの世界で闘うという、
なろう系のパイオニアとでもいうべき、時代先取り系アニメ
に仕上がっちゃったわけさ。
で、「リーンの翼」だが、これは別に「ダンバイン」と話が繋がってるわけじゃない。
だから「ダンバイン」未見の方でも全然OKなんだけど、ただ私としては、「リーンの翼」を見るなら同シリーズOVA「ガーゼィの翼」を先に見といた方がいいような気がする。
別に、「ガーゼィの翼」と「リーンの翼」も話が繋がってるわけではない。
ただ、物語として「ガーゼィ」が一番単純で、入門編にはウッテツケなんだ。
全3話で短いし。
「リーンの翼」⇒全6話
「ダンバイン」⇒全49話
となっていて、結局は「ダンバイン」が一番ハードル高い。
でもって、「リーンの翼」も「ダンバイン」も話が入り組んでてややこしいんだよ。
特に「リーン」は、全6話にあらゆる要素を詰め込めるだけ詰め込んでるので、もう初っ端から怒涛の展開で、多分初見ならポカーン・・となると思うんだわ。
なんていうかな、たとえば「Fate/staynight」なら、
セイバールート⇒凛ルート⇒桜ルート
という順で見るのがベストでしょ?
別に各ルートは「続きモノ」でなく、独立してるからどこから見ても一応は大丈夫なんだけど、でも明らかに「応用編」である桜ルートから見始めたら絶対「??」となるはずさ。
やっぱ、一番単純な「セイバールート」で基本構造を知っとく必要があるということ。
その「セイバールート」に該当するのが、バイストンウェルという物語では「ガーゼィの翼」だと私は解釈してるんです。
で、「リーン」の少しややこしい点は、上の画の右、サコミズというキャラだね。
左のエイサップが「ガンダム」でいうアムロ的ポジションで、右のサコミズがシャアアズナブルといったところか。
で、冒頭にエイサップが「異世界転移」をするんだけど、するとその転移先の王は元転移者の日本人で、それがサコミズってこと。
しかもこのサコミズ、実は旧日本軍の元神風特攻隊パイロットで(特攻中にこっちの世界に飛ばされたっぽい)、アメリカに復讐せんと異世界で現世への侵攻の準備をしてるという、ちょっとややこしい設定なんだわ。
でもね、この「リーン」がサイコーなところは、
とにかくサコミズが面白いこと!
もはや旧日本軍の軍人というだけに感覚がズレまくってるし、しかも声優が小山力也(ジャックバウアーの人)だから、セリフの90%以上が怒鳴り声なのよ。
サコミズ「エイサップ鈴木くんっ!
ホウジョウの国を、リュクスと共に継いでくれっ!」
エイサップ「えっ?」
サコミズ「鈴木くんは政治を司る、聖戦士をやってくれ!」
エイサップ「そんなこと言って、隙を作らせるのか⁉」
サコミズ「そ~でもあるがぁぁ~っ‼」
このくだり、大爆笑してしまった。
もうね、富野さんの
旧日本軍の軍人=バカ
という認識を見事なまでに体現してくれてるのよ。
富野史上サイコーに笑わせてくれるラスボスである。
異世界から現世に帰還した彼は、今の天皇陛下が以前のようなものではないと知るや、
「天皇のいない東京など消せばいい」
といって、東京を破壊し始める始末・・。
もうね、ラストは
①異世界軍(サコミズ)
②異世界軍(反サコミズ)
③米軍(反ワシントン勢力)
④自衛隊(ほぼ存在感なし)
⑤今の日本に不満をもつ大学生
が入り乱れ、現代の東京におけるカオスの戦争となり、まさかの⑤が核爆弾スイッチを入れちゃうというオチ(笑)。
あの大学生、「消費文化ってやつをやめさせるんだ!」というワケ分からん理屈で核爆弾を奪っていき、主人公がそいつらに「やめろ!」というと、
「お前だって、差別されてたんだろ(ハーフゆえ?)」とワケ分からんことを言ってたっけ・・。
多分、富野さん的に
いまどきの大学生=バカ
というのも描きたかったんだろう。
あと、相変わらず
女=バカ
という描写も健在だった。
前代未聞の壮大な「バカ祭り」である。
富野さんの悪意、そして怒りの熱量がスゴイ!
とにかく「リーンの翼」の弾けっぷりはマジで富野史上屈指だし、未見の方には是非一度見てもらいたい。
何よりも小山力也、サイコーすぎる・・。