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細田守作品の正しい読み解き方

今年は

「サマーウォーズ」公開15周年


ってことで、なぜか今さら「サマーウォーズ」が全国劇場でリバイバル上映されたという。
普通に考えて、そんなのお客が入るとは思えんわな。
同じ細田守作品でも、まだ「竜とそばかすの姫」なら音楽映画ゆえ劇場公開ならではの強みもあろうが、少なくとも「サマーウォーズ」はそっち系じゃないし・・。
それに、あれは今まで「金曜ロードショー」で繰り返し6回放送しており、アニメファンで見たことない人は皆無なんじゃないの?
ひょっとして、
今年は『金曜ロードショー』で放送しませんので、リピーターのお客様は劇場にてお願いします
という意味なのか?
この作品、そこまで「夏の定番イベント」化してたのか・・。

「サマーウォーズ」(2009年)

この作品が公開された時、一部でこういう声が出てたことを皆さんはご存じだろうか。

「これ、細田さんが東映時代に作っていた、『デジモン』の転用だよな?」


というツッコミ。
皆さんは、「デジモン」を見たことある?
名前は知ってるけど見たことない、という人は案外多いと思う。
今さら見ようにも、これはTVシリーズだけでも10期以上あり、映画になるとさらにそれ以上の数があるらしいし、その量をこれからというのはあまりにキツく、さすがにお薦めしません。
私も序盤のは見てるけど、さすがに途中で落ちましたからね・・。
もともとは、これってバンダイの玩具販促アニメだと思う。
任天堂「ポケモン」人気には及ばないだろうが、東映アニメーションとしては、ひとつの看板作品ですよ。

ところで、「『デジモン』には興味ないけど、細田守には興味ある」という人も一定数いると思うので、そういう人は次の3作品だけ見て下さい。

①劇場版「デジモンアドベンチャー」(1999年)

②TVシリーズ「デジモンアドベンチャー」第21話(1999年)

③劇場版「デジモンアドベンチャーぼくらのウォーゲーム」(2000年)

①は20分程度の短編だし、③も40分程度である。
見るのに、それほど負担はないはず。

で、細田さんが直接関わった「デジモン」は、この3つだけなんですよ。


たったこれだけなのに、「細田守の『デジモン』は凄い」と語り草になってるんだから、どんだけコスパのいい仕事してんのよ。
思えば、「おジャ魔女どれみ」の時もそうだ。
細田さんは、「おジャ魔女」でたった2話分だけ演出しただけなのに、それがマッドハウス丸山正雄の目に留まり、「時をかける少女」監督オファーに繋がったんです。
う~ん、何ていうかな~、この「目に留まる」って部分を、私は凄く分かるのよ。
「デジモン」にせよ、「おジャ魔女」(190話、199話)にせよ、細田回を他のレギュラー回と一度見比べてみて。
細田回だけ、そこには独特の「違和感」「異物感」があるから。

「ぼくらのウォーゲーム」これなんて、完全に「サマーウォーズ」じゃんww

「デジモン」についていえば、これは小学生数名が「デジタルワールド」という異世界に転送されちゃう系の話であって、物語の舞台は常に「デジタルワールド」なのよ。
だけど細田さんが手掛けた3つは、3つとも東京(現実世界)が舞台。
めっちゃ変化球な作風なんだよね。
でもって、3つとも兄⇔妹の話になっている。
レギュラーの「デジモン」は「友情」がメインの物語なのに、なぜか細田回は常に「家族」がメインの物語だということ。
このへん、後の「サマーウォーズ」「おおかみこどもの雨と雪」「バケモノの子」「未来のミライ」「竜とそばかすの姫」に至るまで、しっかり通じるものがあるんです。

「ぼくらのウォーゲーム」

中でも、「ぼくらのウォーゲーム」は超おススメ。
おそらく、東映アニメーションとしては「デジモン」を「ファンタジー」という解釈で作ってるんだけど、細田さんだけはこれを「サイバーパンク」という解釈で作ってるんだよね。
1999年当時、サイバーパンクは日本アニメ界のトレンドだったわけよ。
その火付け役は、もちろん1995年の「GHOST IN THE SHELL」(押井守)さ。
そして2002年、「STAND ALONE COMPLEX」(神山健治)が放送開始。
押井さんも神山さんも近未来でサイバーパンクを表現したのに対して、細田さんのアプローチは現代日本、しかもそのへんにいそうな子供たちにそれをやらせたんですよ。
これはね、当時業界で話題になったというのも納得。
当時、みんな目からウロコだったと思う。
で、この「ぼくらのウォーゲーム」の発展形こそが、みんな大好き「サマーウォーズ」ですわ。

「ぼくらのウォーゲーム」⇒「サマーウォーズ」
「おジャ魔女190話」⇒「時をかける少女」

「おジャ魔女」190話も、めっちゃおススメです

という意味で、やはり細田さんの作家性の原点は東映アニメーション時代にあるというのは間違いないと思う。

「おおかみこどもの雨と雪」(2012年)

正直いうと、私は細田さんのアニメオリジナル第1作の「サマーウォーズ」より、第2作の「おおかみこどもの雨と雪」の方を高く評価してるのよ。
こっちはマジで鳥肌立ったからね。
この作品から細田さんは「スタジオ地図」という自分の制作会社を立ち上げたわけで、本作は「スタジオ地図」第1回作品に該当する。
ここで初めて川村元気プロデューサーと邂逅し(コイツ、絶妙のタイミングで近寄ってくるよな・・)、本作で主演に宮崎あおいをブッキングできたのは川村さんのお陰だろう。
この作品の宮崎さんはよかったわ~。
「精神を病みそうなほどの状況に追い込まれつつ、笑顔を絶やさない母」という難役は、宮崎さんあってのものだったと思う。
できることなら、宮崎さん主演で「おおかみこども」の実写化してくれないだろうか?
私、宮崎あおいって日本で最も巧い女優だと思うんだよね。
「ユリイカ」は、いまだ私の邦画マイフェイバリットである。

「ユリイカ」(青山真治監督)

で、本作から細田さんは脚本も自分で書くようになったわけよ。
ここで出してきた「人間×異形」というアイデアは、次作「バケモノの子」や最新作「竜とそばかすの姫」にも転用されることになるわけで、そもそもこの「人間×異形」という新しいテーマは一体何だったのか?

アニメ史上類を見ない、人間×異形のベッドシーン

これはあくまで私の想像だが、このアイデアは細田さんが本来手掛けるはずだった「ハウルの動く城」由来だと思うんだよね(このへんの経緯については、こちら↓↓をご覧ください)。

結局あの時の「ハウル」は細田案がボツにされ、宮崎駿が全部イチから作り直す形で世に出たわけなんだけど、普通に考えて細田さんほどの人がそれを簡単に捨てるわけないのさ。
だって、東映時代の「デジモン」や「おジャ魔女」の時のアイデアですら後に再利用したほどの細田さんだよ?
どう考えたって

おおかみこども=ハウルの動く城(細田案)


でしょ。
細田さんにとって、「ハウル」は屈辱だったはず。
ちなみに、宮崎駿は後にこの降板騒動に対して、こういうコメントを残している。

『ハウル』の場合は、心情をもって恋愛を描ける人間がやらなければいけないから、(監督は)若い人間がいいと僕は最初に思ったんです。
そうじゃないのがやったら話がややこしくなってね、何かわけがわからない映画になってしまうから

別にこのコメント自体は細田さんをディスってるものではないんだが、ただこのコメントを聞き、

「よし、『心情をもって恋愛を描く』をやってみせてやろう!」


と細田さんが決意したであろうことは想像に難くない。
「おおかみこども」=細田さんが心情もって恋愛を描いたラブストーリー、といえよう。

ただ、私は「おおかみこども」見て、「あれ?」という違和感を少し感じた点がある。
ぶっちゃけ、思ったほど子供が可愛く描けてない・・。
当時、「ああ、これはキャラデザ貞本義行さんが、あまり子供描くのを得意にしてないのかもしれんな」と思ってたんだが、その貞本さんがキャラデザを外れても、子供メインにした「未来のミライ」を見たら、また同様に子供があまり可愛く描けてない。
そこで、初めて気付いたんだよ。
ああ、これはワザと可愛くないように計算して描いてるんだ!」と。

「未来のミライ」

ていうかさ、よく考えたら細田さんって東映アニメーション出身だよ?
どこよりも子供たくさん描いてきた東映出身の人が、子供を可愛く描けないはずがないじゃん。
宮崎駿がなぜあれほど子供を可愛く描けるのかというと、それもやはり彼が東映アニメーション出身だからこそ、なんだから。

宮崎駿の描く子供は常に可愛い

じゃ、細田さんがなぜ、ワザと可愛さ成分を抑え目で子供を描いたのか?というと、まさにそこがキモだね。
「おおかみこども」にせよ「ミライ」にせよ、子供が可愛すぎるとドラマの文脈(子供の理不尽によって苦しむオトナの苦悩等)がボヤけちゃうのさ。
ちなみにだが、細田さんと一緒に仕事をした人たちのコメント等をチェックしてみると、皆が口を揃えて「理論派」だというんだ。
全てが理論武装されてて、画のひとつひとつに実は意味がある、と。

うっわ~、高畑勲系かよ?

「高畑勲展」の時の細田守

なお、細田さんは「時をかける少女」の時、高畑さんにダメ出しを食らったらしい(笑)。
もうね、高畑さんってダメ出しばっかりで、この人は人を褒めるということを知らないのかな?
でも、これで細田さんは奮起したというから、これはこれでよかったんだろう。

なんていうかな、細田作品は意外と「読み解き系」なんだよね。
そして、ほぼ全部の作品が何らかの形で繋がっている。
皆さんには、まず「デジモン」あたりからの再視聴をおススメしたい。


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