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大友克洋、とにかく天才すぎる!

今回は、大友克洋先生のことを書いてみたいと思う。
基本、この先生は漫画家だよね?
なのにアニメ監督もしてるわけで、おまけに監督としてもまた一流というんだからホント恐ろしい人である。
多分、この人は相当な映画マニアだね。
漫画という枠を超えて、画の表現に卓越した人なんだろう。
これ凄いな!と思ったのは、大友先生が総指揮したオムニバス映画「SHORT PEACE」の1編「火要鎮」である↓↓

はっきりいって、「AKIRA」の頃より遥かに表現が進化してるよね。
ちなみに、この作品は文化庁メディア芸術祭で最優秀を獲っている。
何ていうか、短い作品なんだけど映像に色んなアイデアが詰まってるのよ。
特に構図のセンスが抜群なんだけど、こういうのは漫画の構図じゃなくて、ちゃんと映画の構図として成立した上でしっかり秀逸なんだ。
多分、学生時代に映像研とかやってたんじゃない?
また彼は、95年のオムニバス映画「MEMORIES」の中でも、とんでもない表現を見せてくれている。
その中の彼の監督作、「大砲の街」↓↓

これ、びっくりするよね。
最初から最後まで、一度もカット割りなしのワンカット映像じゃないか!
こういうの、普通のアニメ作家の発想ではない。
俗にいう「長回し」ってやつで、完全に映画監督の発想なんだ。
ヒッチコックの「ロープ」とか、ロバートアルトマンの「ザプレイヤー」とか、近年なら邦画の「カメラを止めるな」だね。
大友さんが敢えてアニメでこういうのをやるってことは、彼って相当な映画マニアということ。
言われてみりゃ、「AKIRA」だってリドリースコットっぽいもんなぁ・・。

「AKIRA」で描かれたネオトーキョー
リドリースコットが描いたロサンゼルス

そうそう、「MEMORIES」の中に「彼女の想いで」という大友さん原作漫画のアニメ化があるんだが、これの脚本書いてるのが「パーフェクトブルー」の今敏さんなのよ。
その脚本の内容が女の情念っぽいやつで、めっちゃ「パーフェクトブルー」入ってるのが興味深い。
なるほど、今敏の脚本はこの時から既にこんな感じだったのか・・。
ちなみに彼は元漫画家で、大友さんのアシスタント経験者らしい。

「彼女の想いで」

さて、漫画家だった大友さんのアニメとのファーストコンタクトは、映画「幻魔大戦」のキャラデザからだったという。
ところが彼のデザイン、原作者が「これは違う!」とブチ切れたらしいのよ。
ちなみに「幻魔大戦」は平井和正と石ノ森章太郎の共作で、ブチ切れたのは平井先生の方らしい。
それもかなり尋常じゃない怒り方で、結局平井先生と制作陣との和解は最後までなかったそうだ。
じゃ、彼が一体何を怒ったかというと、大友さんの描く女性キャラのことである。

原作漫画のヒロイン
大友さんが描いたヒロイン

・・うむ、怒った平井先生の気持ちも分からんではない。
しかし、平井先生の怒りに対して監督のりんたろうが一歩も引かず、結局は大友さん続投をゴリ押ししたらしい。
結果として、私はりんたろう監督が正しかったと思うよ。
正直「幻魔大戦」はお世辞にも面白い映画とはいえないけど、それでも大友さんのキャラデザだから、令和の今見ても意外なほどカッコいいのよ。
見たことないという人は、騙されたと思って一回見てみて。
1983年作品と思えないほど、画はホント凄いから。

多分だけどさ、平井先生の怒りは半分大友さんへの嫉妬もあったんじゃないかなぁ?
この当時、大友さんって「漫画界の超新星」だったのよ。
彼の描く画は、当時として既存の漫画を一気に古臭く感じさせてしまうほどのシロモノで、実をいうとあの神様・手塚治虫ですら、彼に「君ぐらいの画は僕にも描けるんだからね」と毒づいたという逸話があるほど。
大友さんは当時まだ新人漫画家なのに、なんか可哀相・・。
しかし、りんたろう氏には才能を見込まれたようで、彼はりんたろう主宰のオムニバス映画「迷宮物語」に誘われ、その中の1編の監督を務めることになった。
えぇっ?いきなり監督?
アニメをまだよく分かってない大友さんに、いくら何でもそれはムチャブリだろ!とツッコむ間もなく、大友さんは易々と1本作っちゃったのよ(笑)。
それが、これ↓↓

「工事中止命令」

これは傑作なので、見たことない人は是非見てみて。
本社の工事中止命令を伝えにきた社員vs工事完遂をプログラミングされたロボットの攻防を描いたブラックコメディで、ロボットにしてみりゃ社員は「工事完遂を妨げる阻害要因」ゆえ排除(抹殺?)しようとするわけだ。
このやり取りが、実に面白い。
よくもまぁ、いきなりここまでものを作れたもんだね。
多分だけど大友さんは漫画を描く際、まずイメージを映画っぽいもので頭に浮かべてるんじゃないかな?
その映画を2次元のコマ割りに変換する手間を一回挟んで、そこから漫画を描く作業に入る、と。
だとすりゃ、逆に漫画よりアニメの方が彼にしてみれば手っ取り早かったのかも。
事実、彼は「工事中止命令」の僅か2年後に「AKIRA」を作っちゃったからね。

ホント、この人は未曾有の天才ですよ。
「AKIRA」の後はすぐに今敏の原案で実写映画の監督やってるし、この人は漫画という枠に留めておけない類いの表現者なんだと思う。
そうそう、彼は1998年に「ガンダム」も作ってるって知ってる?

この時点での3DCGにはやや粗さもあるが、今はもっと進歩してるだろうね。
数年前、彼は「AKIRA」の再アニメ化を公式発表しており、敢えて今やるということは、きっとバリバリに3DCGやると思うぞ。
ちょっと楽しみ。
最近の彼のアニメ作品は「SHORT PIECE」以来見てないが、このオムニバスがまた全作品とも面白かったのよ。
冒頭で述べた「火要鎮」のクオリティの高さはいうまでもないんだが、あとは大友さんの1981年の傑作短編、「武器よさらば」のアニメ化がここで実現してることも忘れてはならない。

この作品は大友さんが81年に考案した「プロテクションスーツ」がキモで、このスーツのアイデアはその後のアニメにも大きな影響を与えたという。
そして何より、オチがいい。
「工事中止命令」ともほとんど変わらんオチで、最後はブラックジョークである。
物語もまた、「工事中止命令」と同じくロボvs人間。
80年代って、りんたろう監督の「銀河鉄道999」を筆頭に、ロボvs人間というネタが多かったんだ。
「ターミネーター」もそうか。
でも、大友さんが描くロボは人間を殺戮するけどそこに悪意は全くなくて、ただプログラミングされた命令を忠実に遂行してるだけ、というのがひとつの特徴。
というか、こういうのが一番リアルで怖いわ。
「2001年宇宙の旅」のHALもそうだけど、人間なら「矛盾したふたつの命題」に遭遇しても「テキトーにやり過ごす」ことができるのに対し、0か1かの二進法的思考をするロボはそこでバグっちゃうんだよね。
大友さんは、こういうところの描写が天才的に巧い。

さて、ここまで大友克洋の実績を振り返ってきたけど、実は彼の監督作品の中でひとつだけワケ分からんものがあって、それが↑↑の「なかの綾」という歌手のミュージックビデオなんだよ。
実際映像を見てみると、特に大友さんらしさがあるわけでもない昭和歌謡の古臭い内容で、「何でこのMVの監督したの?」と思ってしまう。
聞けば、大友さんがなかの綾のファンなんだそうだ。
というか、なかの綾って誰?
こういうところを見ると、ああ、そういや大友さんって、今年70歳になるお爺ちゃんだったな、と痛感してしまう(笑)。
こういうタイプの女性が好みだったのね・・。
いやいや、大友さんは絵が上手いくせに描く女性が正直可愛くないし、実際どんな女性がタイプか全然分からなかったんだわ。

ちなみこれ↑↑、大友さんが描いた、なかの綾のアルバムのジャケット画。
つーか、彼女に対して尋常じゃない熱の入れ方じゃないか!
これ、明らかに服を買ってあげた時の絵だよね?
服にタグついてるし。
・・ま、まさか、そういう関係なの?
ちょっと嫌な予感がするんだが、まさか「AKIRA」新作のエンディング曲、なかの綾が唄うんじゃないだろうね?


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