絵がヘタなのに、作画が超一流の傑作アニメ「モブサイコ100」
YouTubeで「プロ漫画家100人が選ぶ、絵がうまい漫画家ランキング」という動画が目につき、何となく見てみた。
そのランキングの結果は、以下の通り。
【1位】村田雄介
【2位】三浦建太郎
【3位】大暮維人
【4位】大友克洋
【5位】小畑健
よく素人アンケートでは鳥山明や尾田栄一郎が1位になってたりするもんだが、プロ漫画家が選ぶとこんな感じになるのか・・。
1位の村田雄介先生は、「ワンパンマン」の作画の人だね。
5位の小畑健先生といい、絵のうまい漫画家はストーリーを作る人とコンビを組んで仕事をするタイプも多いようだ。
その方が絵に専念できる、ということかもしれん。
ああ、そういや4位の大友克洋先生は「老人Z」で江口寿史先生とコンビを組んでたよな?
異色の組み合わせだが、このストーリーを作った大友先生は「俺の絵じゃ、この作品は確実にコケる」と自覚していたんだろう。
なぜなら、大友先生はめちゃくちゃ絵がうまいんだけど、なぜか可愛い女の子を描けないのよ。
うん、「老人Z」のキャラは江口先生に任せて正解だったわ。
絵がうまいことと魅力的キャラを描けることは、必ずしもイコールじゃないということ。
ちなみに江口先生は賛否の分かれる漫画家であり、めちゃめちゃ人気あったんだけど遅筆というかヤル気がないというか、締め切りを守らないことなど日常茶飯事で、未完のまま終わらせた連載が8本にも及ぶという、漫画家の風上にも置けない人物である。
ただし、その画力の高さは誰もが認めるところで、こういうのを天才というんだろうなぁ・・。
結局、彼は漫画家からイラストレーターに転身するんだが、でも私、彼の「漫画」が結構好きだったのよ。
少女漫画ばっかり読んでた私の姉が唯一、少年漫画で単行本買い揃えてたのが「ストップ!ひばりくん」だったからね。
多分、女子をも惹きつける魅力が江口先生の画力にあったんだと思う。
もし時間があったら、「ストップ!ひばりくん」のアニメ見てみて。
1983年という古いアニメなんだが、キャラデザは全く古さを感じさせないから。
正直いって、当時のアニメーターの技量では完全には原作の画を再現できてないものの、それでも健闘してる方だと思う。
当時、江口先生のセンスは最先端だったのよ。
だって「ニューハーフ」なんて言葉すらない時代に男の娘をヒロインに据えてるし、「萌え」なんて言葉もない時代に萌えキャラを続々と出してるんだもん。
ヤクザの親分の一家が舞台になる設定は、平成の名作ラブコメ「ニセコイ」のテキストになってるだろうね。
江口寿史、彼に連載を継続できるだけの精神力さえあれば、きっと漫画史を塗り変えるほどの名作を作れただろうになぁ・・。
さて、ランキングに話を戻そう。
このランキング1位の村田先生が描く、「ワンパンマン」について。
「絵がうまい漫画家ランキングNO1」という村田先生の割には、この作品の主人公・サイタマのキャラデザは酷くないか?と思う人もいるだろう。
・・うん、確かに酷い(笑)。
でもこれ、おそらく村田先生の絵じゃないよ。
多分、コンビ組んでるストーリー担当の原作者・ONE先生の絵でしょ?
ONE先生は「ワンパンマン」で村田先生とコンビ組む前に「モブサイコ100」を単独で描いてたわけで、その画がこれである↓↓
主人公の顔の造形、「ワンパンマン」と一緒・・(笑)。
ONE先生って、多分こういう絵しか描けないんだろうね。
ヘタというより、ヘタウマ、というやつか。
デッサンは、かなりしっかりしてるんだよなぁ。
ちなみに、「ワンパンマン」サイタマをONE先生じゃなく、絵がうまい村田先生が描くとこうなっちゃうのよ↓↓
いやいや、これはサイタマのキャラじゃないでしょ、ということになって、結局サイタマの顔だけはONE先生が描くということに落ち着いたんじゃないだろうか。
つまり、今の
【原作・ONE/作画・村田雄介】
という表記は厳密には正しいといえず、ホントなら
【原作および主人公の顔の作画・ONE/主人公の顔を除く作画・村田雄介】と表記すべきだろう。
ところで、皆さんはアニメ「モブサイコ100」を見たことある?
絵がヘタなONE先生の漫画をわざわざアニメ化してどうすんのよ、と思う人もいるかもしれんが、いやいや、とんでもない。
アニメ「モブサイコ100」は名作だよ。
そもそも絵がヘタといいつつ、原作は小学館漫画賞を受賞してるし、アニメも文化庁メディア芸術祭で審査委員会推薦作品に選抜されたほどである。
というか、このアニメはむしろ作画が凄いんだよ。
もともとBONESは作画に定評のある制作会社だけど、「モブサイコ100」はその中でも最高峰のひとつといえるかもしれん。
ちょっと見たことない映像表現だもんなぁ・・。
そう、これは原作がああいう画風だからこそ、アニメーターとしては格好の表現の余地がそこにあるということなんだ。
逆に原作があまりにも作画の完成度が高すぎると、アニメーターはその再現にばかり執着してしまい、一定の枠を超えられないものだろう。
誰だって、井上雄彦先生が描いた「スラムダンク」山王戦ラストシーンとかアニメ化するのはプレッシャーが重すぎるって。
そういう意味じゃ、「モブサイコ100」なんてアニメーターにとってみりゃサイコーの素材だったかもしれないね。
さて、こういうONE先生っぽいヘタクソ風の画を売りにした漫画といえば、ガモウひろし先生の「とってもラッキーマン」を思い出す人も多いだろう。
これ、「努力・友情・勝利」の少年ジャンプにおいて、ラッキーだけで勝利を拾うという異端のヒーローだった。
アニメは、OP曲もED曲も八代亜紀というワケ分からん世界観。
で、このガモウ先生は自身の画力に限界を感じたのか、やがてペンネームを大場つぐみと変え、あの「デスノート」の原作者になったとされている。
その時に作画担当のパートナーとして組んだのが小畑健先生で、つまり冒頭の「絵がうまい漫画家ランキング」5位の先生ね。
ある意味、「ワンパンマン」のONE先生+村田先生と同じ流れということか。
ちなみに、ガモウ先生は「デスノート」台本をネームにして小畑先生に渡してたらしいんだが、それというのがこれである↓↓
これ見て思うけど、「デスノート」はガモウ先生が作画をしなくてホントによかったな、と(笑)。
つくづく思うこととして、漫画家はストーリー寄りの先生と作画寄りの先生に分かれるよね。
もちろん、尾田栄一郎先生のようにバランスよく才能を併せ持つ人もいるにはいるんだが、その尾田先生にしてもどちらかといえばストーリー寄りだと思う。
「進撃の巨人」の諌山創先生も同じく。
いや、諌山先生に画力がないとはいうわけじゃなく、ただアニメで見る立体機動装置の疾走感と比較すると、原作のそれはどうしても見劣りしてしまうということ。
いや~、やっぱアニメの表現力って凄いよな~。
WIT STUDIO、凄い!
やはり漫画というのは静止画で構成されてるものであり、それゆえの表現の限界もあるわけよ。
「余白は皆さんの想像力で埋めて下さい」という性格のコンテンツだから。
そしてアニメーターが闘ってるのは、その「想像力」に対してである。
なんと難易度の高い仕事であることか・・。
さて、「モブサイコ100」に話を戻すが、私はこれの3期を見て、正直号泣してしまったんだよね・・。
何これ?
こんな絵で、何でこんなに感動できるの?
ごめん、私、少しONE先生のこと侮ってたわ。
ONE先生って、やっぱりストーリー作りの天才かも。
「モブサイコ」を1期や2期で切ってしまった人は、是非3期まで見て下さい。
泣き要素テンコ盛りですよ。
そもそも絵がヘンテコだから見たことないという人は、見た目に騙されずに見て下さい。
オトコは見た目じゃないんだ。
中身なんだ。
ということを、ONE先生は敢えてヘンテコな作画の主人公を据えることで
私たちに教えてくれてるんだわ。