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花田十輝は、ガールズバンドを扱っても「響け!」になる

TVアニメが放送終了した後、「総集編」を劇場公開するパターンってたまにあるでしょ?
そういうのは新作というわけでもないんだし、本来、興行収入とか大きくは望めないものだと思う。
ところが最近驚いたのは、「ぼっちざろっく」の劇場版が興収10億円を突破してたらしいじゃん?
凄いな、と思って。
「ぼっちざろっく」って、想像以上に人気あるんだね。
確かにこの作品は面白かったが、でも当初、原作漫画は決して話題作というわけでもなかったし、どっちかというとダークホース的立ち位置でのアニメデビューだったと思うのよ。
そういうのがTV放送終了後に、「総集編」でここまでの集客力があるというのは近年でもかなり珍しい現象だったと思う。

TVアニメを見てる以上、ストーリーは分かってるし、オチも全部分かってる。
それでもおカネを払って、劇場まで足を運ぶファンの気持ちとは

「劇場の本格的な大音響で結束バンドの演奏を聴きたい!」


そこに尽きる話だったと思う。
どっちかというと、「映画を見に行く」というよりは「ライブに行く」感覚だったのかと。
こういうところ、やっぱり音楽系作品って映画化に強みがあるよね。

で、これは偶然のシンクロかもしれないけど、今年はこの映画↓↓も興収19億を突破するヒットを記録してます。

山田尚子監督作品「きみの色」(2024年)

ひょっとして、今「バンド」がキテる?


・・いや、正直そうでもないと思う。
俗にいう「バンドブーム」というのは80~90年代にあった現象だし、00年代以降はむしろ「バンド」は「アイドル」に押されてるんじゃないか?

ただ、学生時代にこのへんの「洗礼」を受けた世代が今のアニメ界においてちょうどクリエイターの中核にきてるわけで、そういう人たちが「青春」を描こうとすると、どうしても「バンド」が出てきちゃうんだよね。
ひょっとしたら視聴者の世代の感性は
アイドル>バンド
かもしれないけど、制作者の世代の感性は
アイドル<バンド
なんですよ。
だって、そういう青春時代を過ごしてきたわけだから。
山田尚子さんも、実際学生時代はバンドやってたみたいだし。

・・とはいえ、「バンド」をアニメの題材にするのって意外とコスパが悪いと思うんだよね。
だって、作画でいちいち楽器を描かなくちゃならんし、ましてや楽器を弾く指の動きを音源と合わせてくれとか言われたらタマらんでしょ。
その点、「アイドル」の方がまだ作画を振り付けだけに集中できるわけだし、「映え」の点でもこっちの方が絶対コスパはいいはず。

もちろん、制作サイドもそのへんはよく分かった上で、「それでもアニメでバンドをやりたい!」という心意気、私は大好きです。
・・で、今回取り上げてみたい作品は、「ガールズバンドクライ」です。

「ガールズバンドクライ」(2024年)

正直、これほど真っ向から「バンド」を描いた作品は久々じゃない?
「NANA」以来だと思う。
やはり「ぼっちざろっく」にせよ「けいおん」にせよ、これまでの成功例はコメディがベースになってるという「変化球」だったから。
だけど「ガールズバンドクライ」は、かなりストレートど真ん中の剛速球を投げてきた感じである。
その分、メンバーが常にギスギスしてるわけよ。
常に揉めてばっかりいるという、「けいおん」とは全く真逆のスタンス。

どっちかというと、「響け!ユーフォニアム」バンド編といったところだろう。

「うまくなりたい!うまくなりたい!」ってやつだね

というか、この作品は「響け!」脚本家・花田十輝を中心に立ち上げた企画ということらしく、もともとそういうコンセプトが成立してるんだね。

で、見ていてまず気になったのは作画がフル3DCGってところなんだけど、東映の3DCGといえば「FIRST SLAMDUNK」でスゲー!と驚愕した水準だったのに、本作は正直、あの領域までは到達してなかったと思う。
だけど、ライブシーンなんかはCGの強みをフル活用してて、まぁ~カメラの動くこと動くこと!
特に第11話の画の動かし方がちょっとハンパなくて、「こんなの手描きじゃ絶対無理!」って感じだったわ。
なるほど、これをやりたいが為のフルCGということか。
じゃ、そのシーンを見てもらいたい↓↓

まぁ、実際のライブでここまで縦横無尽にカメラ動かせないよね。

で、ボーカルが異様なほど巧い!

このアニメの為にオーディションで選んだ16歳の子らしいんだが、その子が主人公・仁菜のcvも務めてるわけです。
いや、彼女に限らず、ギターもベースもキーボードもドラムもみんな演奏兼その役のcvを務めてるわけで、つまり全員が声優としてはシロウト。
まぁ、言われてみれば、確かに皆あまり演技巧くはなかったとは思う。
でもボーカルはともかく、楽器を弾く人たちもそのまま役の声を担当させる必要ってあったのかな?
よく分からん。
とにかく「演奏うまくて、声優もこなせる人材」を探すオーディションは超難航したらしく、1年以上の歳月がかかったらしい。
これ、よっぽど曲が売れないと採算とれないぞ。
一応、↑↑の曲はオリコン6位になったみたいだけど・・。

ヒロイン・仁菜

さて、ストーリーの方の説明に入ろう。
この作品のキモは、やはりヒロインのキャラクターの濃さにある。
彼女は「人とコミュニケーションをとるのが苦手なタイプ」で、その意味では「ぼっちざろっく」の後藤ひとりとカブってるんだけど、ひとりちゃんの場合はコジらせててもそれがネタとして笑いになってるのに対し、仁菜の方は全然笑えない類いである。
コミュ障でありながらすぐにキレる激情タイプで、一度思い込んだら融通が全くきかず、とにかく人付き合いにおいて極端に不器用である。
でも一度打ち解けると、今度は結構ウザいほど距離を詰めてくるし、これはこれでメンドくさい。
で、こんな最悪な性格の仁菜のことを、ギタリスト・桃香は

「お前のややこしい性格はROCKだ」


といって肯定してくれるわけです。

バンドの最年長・桃香

「ROCK」って、なんと便利な言葉だろう。
どんなダメなことでも、「それはROCKだ」といえば何か全てOKな気がしてしまう。

イジメられました⇒ROCKだ!

高校中退しました⇒ROCKだ!

友達いません⇒ROCKだ!


とりあえず「ROCKだ!」と言っとけば、大体のことは肯定できると思うよ。
「ぼっちざろっく」のひとりちゃんも、当然「ROCK」なわけです。
逆に、器用に生きてる人たち、本音と建て前をうまいこと使い分けて、周りに迎合し、社会に折り合いをつけながら生きてる人たちは「ROCK」じゃないんだろう。
・・まぁ、「サラリーマン」や「官僚」ってやつは、「ROCK」から最も遠い生き方だろうね。
あと「リア充」ってのも、「ROCK」からは程遠いよ。

トゲナシトゲアリ
ダイヤモンドダスト

で、この物語は、上の画の「トゲナシトゲアリ」と「ダイヤモンドダスト」という2つのバンドの対決がひとつの見どころ。

で、オチをいえば、オトナたちのマーケティングに根差した「非ROCK」系ダイヤモンドダストの方が圧勝だったんですよ。
なんていうかな、ようするにこれ

アニメでいえば、新海誠は「君の名は。」で  作家性(ROCK)を抑え、プロデューサーに従ったからこそ、あそこまで売れたんでしょ?


というロジックに近いと思う。
ぶっちゃけ新海さんも、「秒速5センチメートル」のままの作風でやってたら、いまだ「一部で大人気」という作家のままだったかもしれないわけさ。

で、トゲナシトゲアリが一番こだわっていたものって、分かりやすくいえば「作家性」なんだよね。
自分たちは、そこを譲るつもりはない、と。
そこを譲って仮に売れたところで、それじゃ意味がない、と。
なるほど、スゲー分かるわ。

①作家性を犠牲にしてでも、売れることが大事(器用な生き方)
②作家性を犠牲にしたら、売れても意味がない(不器用な生き方)

多くの人が①を選択する中、②を選択しちゃう奴はやはり「ROCK」である。

・・そうそう、この「ガールズバンドクライ」、「ぼっちざろっく」同様に総集編の劇場版(前後編2部作)公開が決定したらしいね。

果たして「ぼっちざろっく」の10億という大台を超えられるのか?


正直いうとキツいハードルだと思うが、是非頑張ってほしい。
今の時代にここまで「バンド」を真正面から描いたコンセプトはマジで凄いと思うし、トゲナシトゲアリはホントにいいバンドだと思うよ。

声優も務めたトゲナシトゲアリの皆さん

個人的には「ラブライブ」とかより、こっちの方が好きだなぁ。
私、アイドル<バンド派の人間なんで。

「バンドリ」は、う~ん、あれはちょっとなぁ・・。


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