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もし黒澤明がアニメを作ったら、多分こんな感じだよね
映画「この世界の片隅に」は、皆さんもよくご存じだと思う。
片渕須直監督の名を世に知らしめた名作であり、これについては今さら語るまでもあるまい。
この作品は、その資金調達の経緯についても話題になったよね。
それが、クラウドファンディングというやつさ。
広く一般層に投資を呼びかけるというこの特殊なやり方は、製作委員会方式一辺倒だったアニメ界にひとつの風穴を開けたといっていいかと。
2016年「この世界の片隅に」、また2017年「リトルウィッチアカデミア」と立て続けにヒットが出たわけで・・。
ただね、もうひとつ2016年にクラウドファンディングの名作アニメがあったことを皆さんはご存じだろうか?
それが短編アニメ、「UNDER THE DOG」である。
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これ、結構サブスクでは配信されてるみたいだし、見たことのある人は案外いるかもしれない。
視聴環境にない方でもYouTubeで検索すれば無料動画は見られるので、是非ご覧になってみてください。
いわゆる「ハードボイルドガンアクション」というやつだよ。
あまりにも硬質で、ちょっとイマドキ感からはズレてるかもしれない。
でも私、これが好きでねぇ~。
ちょっとサワリの部分だけでも見てもらおうか↓↓
あかん、この予告編見ただけで泣けてきちゃう・・。
実質30分程度のこの短編アニメ、そのルーツはゲーム作家のイシイジロウが90年代に企画したTVアニメ(全26話)のプロットらしい。
残念ながらその企画は当時ご破算になり、ずっと眠っていたのをここにきて再稼働させた感じだね。
イシイさんはゲーム業界では結構な大御所で、代表作は「428~封鎖された渋谷で~」など。
なお、この「428~封鎖された渋谷で~」のボーナスシナリオ「カナン編」は2009年「CANAAN」としてアニメ化されたので、これは見たことある人もきっと多いはず。
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この作品、制作はあのP.A.WORKS、そして脚本は岡田磨里だけに「ちょっとガラじゃないな~」感はあるんだけど・・(笑)。
でも、ヒロインが沢城みゆき、その敵役が坂本真綾という組み合わせは実にゴージャスで、案外隠れ名作として名高い作品である。
で、この「CANAAN」の監督が安藤真裕さんであり、彼とイシイジロウさんとの出会いはここだったんだね。
やがて、このイシイ&安東コンビで「UNDER THE DOG」制作に動き始めるわけですよ。
なお、「UNDER THE DOG」のクラウドファンディングについてだが、私がこれを面白いと思ったのは、「出資者が制作に参加する」という一種独特のスタンス。
たとえば主演声優は「覆面オーディション」を実施し、出資者の投票でキャストが決められたという。
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また、出資者のみに配信される映像というのもあるようだし、こういう投資にはそれなりのウマミが一応あるわけね。
これは自主制作、俗にいうインディーズという形態になり、製作委員会方式のようにオトナの事情に振り回されないのは利点である。
作りたい人が作りたいモノを作ったという、 実に純粋な作品。
なお、本作は日本国内以上に海外評価がめっちゃ高いみたい。
そりゃそうだろう。
だってこれ、アメリカでカルト的人気を誇る「A KITE」(梅津泰臣監督)のテイストにめっちゃ似てるもん。
アメリカって、妙にこういうハードボイルド系のバイオレンスのウケがいいんだよなぁ・・。
しかも、悲劇的なやつ。
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多分、「UNDER THE DOG」の続編はまた近いうちクラウドファンディングで実現すると思う。
というか、この一作だけじゃ世界観とか設定とか、まだ全然分からないもんね。
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なんでこのオンナノコたちが米軍と闘ってるのか、あの「パンドラ」というモンスターは一体何なのか(オンナノコたちはいずれパンドラ化するみたいだし・・)、何の説明もないまま作品は終わってしまったので、続きがないと全貌が全く見えてこない。
もういっそのこと、次に募集があったら私も投資しようかなぁ・・。
ところで、これの監督の安藤さんについてだが、こういうバイオレンス系で彼の名前が出たことに違和感を覚えた人もいるかもしれない。
そう、安東真裕といえば、その代表作は
花咲くいろは
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赤髪の白雪姫
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荒ぶる季節の乙女どもよ。
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などが知られてて、どっちかというと乙女チックな印象を持ってた人も多いと思うからね。
一応、安東さんは他にも「絶園のテンペスト」や「天狼」などのバトル系も作ってるんだけど、それでも「花咲くいろは」の知名度には及んでない気がする。
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まぁ、確かに私も、いまだイラっとした相手には必ず「ホビロン」って言うもんなぁ・・。
ただ、彼本来の作家性は、そういう乙女チックなものでは断じてないんですよ。
彼の真の意味での代表作は、間違いなくこれである↓↓
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「ストレンヂア無皇刃譚」、もう20年近く昔の作品になるけど、安東さんにとっては初監督作となった劇場用映画である。
これがまた、トンデモない大傑作でねぇ・・。
「ストレンヂア」は、チャンバラ系アニメの 日本最高峰といっていいと思うぞ。
ええっ、「鬼滅の刃」は?と言いたい人もいるだろうけど、ベクトルが少し違うんだよ。
「鬼滅」や「Fate」などufotable系の斬撃アクションは確かに凄いが、あれはエフェクトありきである。
安東さんのは、もっと純粋なアクション作画としての凄さなんだ。
こういうのは、なんて表現したらいいのかなぁ。
・・そう、安東さんのチャンバラに最も近い映像は、多分アニメじゃなくて黒澤映画になると思う。
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黒澤のチャンバラって、テレビの時代劇で見る綺麗な殺陣とは少し違うのよ。
あまり様式美みたいなものがなく、やたら生々しいんだよね。
「ストレンヂア」もまた、そっち系でしょ?
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なんつーか、安東さんの画の見せ方は、良い意味でイマドキ感がない。
良い意味で古いというか、懐かしいというか・・。
聞けば彼って、若い頃ずっと出崎統&杉野昭夫の下についてたらしいじゃん。
あぁ、なるほど、という感じである。
もともと、この「ストレンヂア」の原型は、2003年の東京国際アニメフェアのBONESブースで流す用に安東さんが作った、たった1分30秒のチャンバラのショートフィルムだったらしい。
それが好評を博したこともあり、やがてどんどん尺を伸ばし、遂には100分の長編映画に仕上がったという経緯。
だから、核はあくまで「チャンバラ」なんだよね。
ストーリーや世界観などは、あくまでチャンバラを見せるまでのお膳立てに過ぎない。
実に構造がシンプル。
思えば、「UNDER THE DOG」もそうなんだよなぁ。
核はあくまでガンアクションであり、ストーリーや世界観は全く説明がないままにどんどん人が殺されていくんだけど、それでもガンアクションだけで十分に面白いから不思議なものである。
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こういうシンプル、かつダイナミックなアニメの美学、皆さんにもお分かりいただけるだろうか?
多分、もし全盛期の黒澤明がアニメを作ってたとしたら、きっと「ストレンヂア無皇刃譚」や「UNDER THE DOG」みたいな作品になってたと思うよ。
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晩年の「乱」や「夢」を作った黒澤じゃなく、「七人の侍」や「用心棒」や「椿三十郎」を作ってた頃の黒澤ね。
安東さんの作品って、思いっきりそっち系の匂いがする。
でさ、こういうシンプルなものには国民性もヘッタクレもないもんだから、やっぱ海外に出しても絶対にウケるんだよね。
「ストレンヂア」とか、ブラジルの国際映画祭で最優秀賞受賞したらしいし・・。
まずは、早いこと「UNDER THE DOG」の続編を制作してもらいたいものである。
もし、近いうちにまたクラウドファンディングの告知が合ったら、皆さんも一口、投資をいかがですか?
聞けば、最低ライン5ドルからいけるらしいですよ。
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