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フジテレビの集大成アニメ「PSYCHO-PASS」

今回は、「PSYCHO-PASS」について書きたい。
この作品は「攻殻機動隊」を手掛けたProduction I.G制作であり、その世界観も何となく似ている。
とはいえ、これに士郎正宗は全く無関係で、原作なしの完全オリジナル企画である。
オリジナルで、ここまで世界観を徹底して突き詰めたSFは他にあまりないと思う。
もともとは、フジテレビ本広克行の企画だったらしい。
本広さんといえば「踊る大捜査線」を当てたヒットメーカーで、おそらく彼のイメージは「踊る」の近未来版だったんじゃないかな?
事実、彼は「踊る」劇場版第2弾「レインボーブリッジを封鎖せよ」で国家主導による監視社会の到来を描いており、これはまさに「PSYCHO-PASS」の原点だったといっていいだろう。

「踊る大捜査線」劇場版2作目 
邦画実写部門で観客動員歴代1位の座をいまだキープしている

「PSYCHO-PASS」は、色々な意味でフジテレビっぽさが強く出た作品なんだよ。
放送枠は「ノイタミナ」なんだが、この「ノイタミナ」ってのはアニメ枠でありつつもコンセプトが他局と少し違っていて、訴求ターゲットを若い女性層、主にOL層などに設定していたりする。
アニメをOL層に訴求なんて少しズレてるだろ?と思うだろうが、これはフジ独特のマーケティングといっていい。
彼らの考え方として、全世代の中で最もテレビを見るのはOL層だという信念みたいなものがあるのよ。
そこで「ノイタミナ」はOL層が嫌う萌えなどのアニメ的表現を極力排除し、敢えてスタイリッシュな路線でいこうとしたわけさ。
まあ、深夜アニメでオタク層をターゲットにしないというのはある意味斬新なコンセプトであり、それもあって「ノイタミナ」はアニメ界でも異彩を放ってる存在。
結果をいえば「PSYCHO-PASS」はSFオタク(主に男)にウケたんだが、でも制作サイド本来の狙いはそっちより「セクシーなイケメンをたくさん見せること」だったと思うよ。
もともとOL狙いだし。
どちらかというと女性キャラを可愛く見せる意思は希薄で、確かにヒロイン常守朱はもっさり系だよな・・。

この地味なもっさり感が逆に萌えるという男も多いだろうけどね

ところがこの「PSYCHO-PASS」、2期目から路線を変えてきたんだよ。
これもマーケティング重視のフジテレビらしい判断とでもいうべきか、率直にいえば本広克行の「踊る大捜査線」的色が薄まり、厨二色が強まった。
おそらく1期の視聴層を分析し、この作品がSFとしてウケたことを理解したんだろう。
少なくとも本広さんはSF畑の人じゃないので、2期からはSF作家の冲方丁に任されることとなった。
すると急に色々と初期にはなかった設定が増えてきてストーリーが複雑化し、【刑事vs天才犯罪者】という非常にシンプルなドラマだった1期とは若干違う路線に走り始めたんだよね。
よって初期のファンは「1期が一番良かった」と言ってるんだが、私は2期以降の展開も決して悪くないと思うよ。
個人的に、冲方丁の「マルドゥック・スクランブル」は大好きだし。「PSYCHO-PASS」2期以降は、冲方さんがそっち側の世界観に敢えて寄せたということだろう。

冲方丁の代表作「マルドゥック・スクランブル」

「PSYCHO-PASS」1期と2期の最も大きな違いは、ヒロイン常守の描き方である。
1期の主人公はあくまでも咬噛であり、常守の役割は咬噛の人物像を紐解くストーリーテラーにすぎなかったと思う。
ところがその常守が2期では完全に主人公となり、しかも作中の最高知能として闘うヒロインになってるんだ。
このへんが実に冲方丁っぽいというか、常に彼が描くヒロイン像とは闘う女なんだよね。
「マルドゥック・スクランブル」しかり、「蒼穹のファフナー」しかり。
さらに常守のキャラを深掘りする為か、敢えて対比キャラとして1期に出てた生意気そうな女子高生・霜月美佳を新米監視官として再登板させている。
この霜月の俗っぽさが、またいいんだよなぁ(笑)。

聖女っぽい常守と異なり、何とも人間臭い霜月

そして第3期、驚いたことに2期の主人公・常守が殺人罪で拘束中の身となっており、代わりに慎導灼と炯ミハイルイグナトフというニューフェイス2人が主人公になった。
そして、あれほど常守を敵視していた霜月が刑事課長に出世しつつも常守の身を案じていたり、一体何があったのかが伏せられたまま3期は終わったので、こっちは気になってしようがないわ。
なのに、3期は実にフジテレビっぽい商法というべきか、テレビシリーズを中途半端なところで終わらせ、「完結編は映画館で」という例のパターンで締めやがった。
商魂逞しいフジは、いまやテレビ視聴率以上に映画の興行収入に力を入れている感じ。
なんせ「踊る大捜査線」の興行収入はいまだ実写部門歴代1位らしく、映画は儲かるという事実をどこよりも熟知した局である。
ちなみに「踊る」の興行収入を超えたのは「鬼滅の刃」、ジブリ、「ワンピース」だけであり、この3つのうち「鬼滅」「ワンピース」をフジが押さえ、ジブリを日テレが押さえてるという構図だな。
いまやテレビ局も視聴者離れの時代、率直にいうと劇場収入がないと厳しいのよ。
日テレがかなりのリスクを張って、ジブリを子会社化したことでも分かるでしょ。
で、「PSYCHO-PASS」はこれまで6作品を劇場公開している。

【劇場版PSYCHO-PASS(2015年)】
これは時系列でいうと、1期のラストで公安から失踪した後の咬噛の顛末を描いた作品。
彼はしばらく、海外で傭兵をやってたようだ。

【劇場版PSYCHO-PASS Sinners of the System①(2019年)】
これは時系列でいうと、テレビ2期の少し前ぐらいだろうか。
主人公は霜月と宜野座。

【劇場版PSYCHO-PASS Sinners of the System②(2019年)】
これは時系列でいうと、テレビ1期より前の話。
最も古い時代を描いたエピソードである。
主人公は須藤徹平と征陸智己(宜野座の父)。

【劇場版PSYCHO-PASS Sinners of the System③(2019年)】
これは時系列でいうと劇場版1作目よりも後で、テレビ2期より前の話。
主人公は咬噛で、彼が外務省に入るまでの経緯が描かれている。

【劇場版PSYCHO-PASS3 FIRST INSPECTOR(2020年)】
これは時系列でいうと、テレビ3期からそのまま繋がった続編。
今のところ、最も新しいエピソードである。
主人公は慎導灼と炯ミハイルイグナトフ。
そしてこの作品のエンディングをもって、遂に常守が現場復帰した。

【劇場版PSYCHO-PASS PROVIDENCE(2023年)】
これは時系列でいうと、テレビ3期より少し前といったところだろうか。
主人公は常守。
彼女が殺人罪を犯し、拘束されることになった経緯がここで描かれている。
そして、常守と慎導灼の出会いもここで描かれている。
これを見て、ようやく「なるほど」と分かるミッシングリンクだったね。

というわけで、劇場版はやたら時系列がシャッフルされており、それを少しずつ小出しにする嫌らしい商法だ。
だけど、PSYCHO-PASSファンは絶対見ちゃうよね。
恐るべし、フジテレビ。
ところで4期制作の発表がないんだが、これは原作なしのオリジナルだし、やろうと思えばいつでもできるんだろ?
ようやく本来の主人公・常守が現場復帰したんだし、むしろこれからが本番だと思うんだけど。

それにしても、この作品のイケメン充実度は凄いね

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