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フルアニメーションとリミテッドアニメーション
今回は、アニメの本質を語る時には絶対避けては通れない問題というべき、<フルアニメーションとリミテッドアニメーション>、これについて書いてみたいと思う。
まずこのふたつを語る前に、我々はちゃんとフルアニメーションを見ておく必要があると思う。
我々が普段接してるアニメのほとんどがリミテッドアニメーションであり、純然たるフルというのはいまどき多くないんだわ。
・・あ、ハリウッドの3DCGアニメはフルだよ?
でも今回はそっち系じゃなく、2Dアニメの話だから。
というわけで、皆さんにはディズニーの初期アニメというものをまずは見てもらいたいのよ。
「そんなのどこで見れるんだ?」「ディズニーチャンネルと契約しとらんぞ?」と思うかもしれないけど、心配ご無用、初期作品は普通にYouTubeで無料視聴できるから。
当然ディズニーは著作権管理が厳しくて、決して無料視聴を許してくれないことは有名だよね。
しかし、そこは「パブリックドメイン」というものがあり、あまりに古くて著作権対象から外れた作品に限って「フリー」なんだ。
たとえば、次に挙げる作品群はYouTubeで普通に無料視聴可能。
「白雪姫」(1937年)
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「ピノキオ」(1940年)
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「ダンボ」(1941年)
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「バンビ」(1942年)
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「シンデレラ」(1950年)
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「不思議の国のアリス」(1951年)
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「ピーターパン」(1955年)
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他にもミッキーマウス関連とか色々ありますので、興味がある方はYouTubeで「ディズニー映画」と入力して検索してみて。
・・あ、特に補足するまでもないと思うけど、上に書いた〇〇年というのはあくまでも「アメリカでの公開年」だよ?
仮に「日本での公開年」だとしたら、太平洋戦争の真っ只中に、
母「あら、赤紙の召集がきたわ。
太郎、あなたは1週間後、出征しなくてならないみたいよ?」
息子「1週間後・・。
その日は僕、友達と『バンビ』見にいく約束があるんだけど?」
母「あらあら、困ったわねえ。
それなら軍に事情を話して、出征を延期してもらうしかないわねぇ」
みたくノンキなやり取りがあったわけないでしょ(笑)。
・・というか、アメリカもアメリカで、第二次世界大戦の真っ只中に何で「ピノキオ」とか「ダンボ」とか劇場公開してるんだ?
これが日本なら「国民の戦意高揚を阻害する!」とかいって即刻上映禁止にされてただろうに、そもそもこれを劇場で見てた人たちって、今が戦争中だということをちゃんと理解してたの?
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で、私もちょっとだけこれらを見てみたんだが、うむ、やっぱフルアニメはいいね~。
日本の黎明期アニメーターたちが、これを目標にしてたというのも分からんではない。
そして、これらを見てると、
<なぜディズニーがフルアニメーションを志向してたのか>
が分かる気がするのよ。
・・あ、ひとつ誤解がないように言っとくけど、この当時のアメリカには、ちゃんとリミテッドアニメというものも並行して存在していたんだからね。
じゃ、なぜそっちを選択しなかったのか?
そこは、やっぱりディズニーさんの哲学でしょ。
そもそもアメリカは合衆国で色んな人種がいるし、その全てに対し通用する<普遍性>は言語じゃなく、むしろアクションや音楽なんです。
それは、ディズニーランド見てると分かるでしょ?
ミッキーマウスは基本、喋らない。
だけど、その代わりめっちゃ動く!
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ようは、こういうのをやりたいんでしょ。
彼らがやりたいことは「ハリウッド的」というより、「ブロードウェイ的」といった方が正しい。
早い話が、ミュージカルっぽいやつさ。
で、そういうものに対しては、リミテッドの動きよりフルの動きの方が相性がいい(だって、踊りでカクカクした動きは普通にマズいでしょ?)。
ちなみに、リミテッドの方の動きとは、こんな動きのこと↓↓
<リミテッドの動き=日本アニメの動き>
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全然「ブロードウェイ的」じゃない・・
逆にブロードウェイでこんな動きしてる演者がいるなら、ぜひお会いしたいものである(笑)。
つまり、今となっては日本アニメとディズニーは、目指すところが根本的に違ってきちゃったということさ。
だから今さら、<どっちがいいか?>という議論はほぼ無意味である。
それにしても、1930年代からこんなトンデモないフルアニメーションを実現してたディズニーの技術って、本当に素晴らしいと思う。
・・だというのに、いまどきのディズニーアニメはほとんどがコンピュータをフル活用した3DCGだろ?
もはや、「白雪姫」の頃の面影はほとんど残っていない、といっていい。
じゃディズニーは、かつて日本人アニメーターが皆憧れた、あの超絶な2D作画スキルを全て捨ててしまったというのか?
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・・よく分からんけど、おそらく2Dというところに限って捨てたんじゃないでしょうか。
なぜ、そんなモッタイナイことを?とも思うけど、企業として2Dに固執してたらコストが割に合わない、という判断だと思う。
基本、2Dというのは基本が人海戦術であり、コスト削減が難しい仕組みである。
その点でいうと、まだ3DCGの方が投資として効率いいと判断したのかと。
まぁ、そういうロジックは一応納得するさ。
でも、この<切り替え>をした当時、古き良き時代を知るアニメーターさんたちとモメたりしなかったの?
・・いやいや、そんなの普通にモメたでしょ。
だって、我々日本人でも
「さ~て、来週からの『サザエさん』は、3DCGになりま~す!」
とかアナウンスされたら、めっちゃイヤだよ。
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つまりディズニーがした決断は、そういうことに近いんですよ?
でも、そこはさすが資本主義大国・アメリカ。
ロマンよりビジネスとしてのロジックの方が優先された、ということなんだろう。
ただね、これはあくまでアメリカの話であり、これが欧州になると話がまた変わってくるんです。
欧州は、意外と2Dアニメ文化がそこそこ残ってるから。
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さらに興味深いのは、「どう考えてもこれ3DCGでやった方が楽だろ?」という類いのものも、わざわざ「ストップモーションアニメ」とメンドくさい方の手段をとってるのさ。
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これは、「バンドデシネ」文化というやつだね。
<バンドデシネ>
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見ての通り、欧州の「バンドデシネ」は日本と違って装丁がハードカバー、扱いもどっちかというとアート寄りである。
仮にそれがアートだというなら、コンピュータでどうこうするんじゃなく、人の手で作るべきでしょ、というのが基本思想なんだと思う。
その考え方は、日本の<マンガ>とも少し違うんだよなぁ・・。
実際<マンガ>は、誰もアートとして捉えてないでしょ?
必然、<アニメ>もまたアートとしては捉えていない。
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まぁ、私なんかは欧州「バンドデシネ」文化とか、逆に憧れるけどね。
・・ただ、こういうのって資金繰りが難しいのよ。
「バンドデシネ」の本って、出版が1年にせいぜい1~2回というペースだという。
そんな商売、一体どうやってペイできるの?
そこが不思議。
アートならば、もはやビジネスの治外法権?
いや、マジでそういう感覚かも。
それはアニメも同様、ビジネスとしての効率より制作することがまずありきで、結局、彼らは自国の単独製作にはこだわらず、「合作」という形をよくとってるよね。
なんなら、バンドデシネ系映画の製作国をチェックしてみてほしい。
ほとんどの場合、2~3ヶ国の共同出資なんだよ。
多分、ひとつの国では資金調達すら無理なんだろう。
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でもね、「バンドデシネ」は欧州でもフランス語圏の文化なのよ。
じゃ、英語圏ではどうなのか?ということだが、最近では「カートゥーン・サルーン」という制作会社が特に注目を集めてると思う。
「ブレンダンとケルズの秘密」「ソングオブザシー」「生きのびるために」などが、米アカデミー賞で立て続けにノミネート。
で、これはどこの会社かというと、アイルランドである。
・・なぜアイルランドが?と思うでしょ。
実は、アイルランドには「アイルランド アニメ界の父」なる大物がいたわけで、それがこの人↓↓
ジミー・テルアキ・ムラカミ(2014年没)
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彼は日系二世のアメリカ人だが、ある時期から拠点をアイルランドに移したアニメ作家である。
1950年代終盤、短い期間だが日本の東映動画で働いてたとも聞く。
で、そんな彼の作品で有名なのは、これです↓↓
「風が吹くとき」(1986年)
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これは傑作にせよ、イヤな内容のアニメだったよなぁ。
正直、あまりお薦めしたくない。
私は「スノーマン」の方が好き。
これはなかなかいいので、本編をご覧ください↓↓
「スノーマン」(1982年)
このムラカミさんがアイルランドで長年アニメーターを育成してたらしく、彼の名を冠した「ムラカミ賞」というのまであるらしい。
前述の「カートゥーン・サルーン」もまた、それを受賞したクチである。
で、そのカートゥーン・サルーン、今じゃ「ポストジブリ」と呼ばれるほどの存在。
私も前述の「ソングオブザシー」を見たけど、確かにこれ、めっちゃいいわ。
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多分これ、フルアニメーションじゃない?
あるいは2コマ打ちか?
とにかく一般的な日本アニメより、よっぽど作画に手間かけている。
この作品で原作/監督を務めたトム・ムーアという人は宮崎駿のファンであることを公言してるが、一方でムラカミさんの影響もまた強く見て取れるね。
アイルランド系アニメは、バンドデシネ系とはまた少し違った趣きのものとして、非常にいいですよ。
さて、これまでの話を少しまとめると
<アメリカ>
3DCGを導入することでフルアニメーションを維持
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<欧州>
国をまたいだ合作という形をとり、資金や人材を確保することで2Dのフルアニメーションを(アートとして)維持
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と解釈できると思う。
と考えると、2Dアニメをリミテッドにすることで自国だけで維持できてるという我が国のカタチは、世界でも稀少な例だろうね。
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