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富野由悠季<皆殺し>の原点「ザンボット3」

今回は、名作「無敵超人ザンボット3」について書いてみたいと思う。
これは制作が1977年、つまり富野由悠季が「ガンダム」以前に手掛けた作品である。
とはいえ、「リアルロボット」路線だった「ガンダム」と違って、こっちは明確に「スーパーロボット」路線だね。
「リアル」と「スーパー」の違いについては、次の通り。

【リアルロボット】
現生人類の重工業により製造された人型機動兵器

動力源は明確になっている

【スーパーロボット】
古代兵器であるなどのパターンで、出自に未知の要素が多い人型機動兵器

動力源を含め、その多くは人智が及ばないブラックボックス

「無敵超人ザンボット3」(1977年)

見ての通り、「ガンダム」に比べれば明るい画風でしょ?
実際、作風は結構明るい。
なんせ、主人公の勝平(上の画の中央)のcvは、大山のぶ代さんだから。
大山さんもプロだし、「このての作品では、ドラえもんとは違う声色を出すんだろう」と思いきや、案外ドラえもんの声そのまんまである(笑)。
ちょっと早口なドラえもん、といったテイスト。

まぁそういったところ含めて、「ザンボット3」はとにかくツッコミどころ満載の作品なんですよ。
だから1人で視聴するよりは、大勢で見てツッコミながらの視聴スタイルがベストだと思う。
一応SFっぽくあるけど、どう見ても科学考証とかハチャメチャだし・・。

そもそもアニメとは、次の2つのパターンに大別されているものである。

①頭を使い、考えながら見るアニメ(頭イイ系)
②敢えて頭を使わず、ハートで見るアニメ(頭悪い系)


「ザンボット3」は、明らかに②のカテゴリー(頭悪い系)。
このての②のアニメを①のスタンスで見て「くだらん」とか言ったり、逆に①のアニメを②のスタンスで見て「・・はぁ?」とか言うのは極めて野暮だし、アニメファンとしてやっちゃいけないことだぞ。
だから「ザンボット3」は、これが富野由悠季の作品というのを一旦忘れ、ただ心ゆくまでツッコめばいい作品である。
そのスタンスでいけば、安定しない作画もやがて楽しくなってきますから。

ただ、まず最初に押さえておくべきは、富野さんが本作の制作に至るまでに数々の苦難があったことなんだよ。
まず、デビュー作「海のトリトン」にてプロデューサーと衝突し、その次の「勇者ライディーン」でも同様にして衝突の末、今度は途中降板させられてしまったわけで・・。
で、さすがに彼も少し学んだのか、「ザンボット3」では制作の前段階にてプロデューサー、およびスポンサー(タカラトミー)に要求を全て箇条書きさせ、とりあえずそれらを全部受け入れる、というスタンスだったんだわ。
まぁようするに、「要求は全部飲むから、あとは好きにやっていいよね?」というニュアンスであり、そのせいもあってか、この作品は「明るい作風でありながら残酷/猟奇的」「コミカルなのに鬱展開」という奇妙なチグハグさがあるんだよなぁ。

敵のボスキャラ/キラー・ザ・ブッチャー

この敵のボスからして、どっちかというタツノコプロの「タイムボカン」や「ヤッターマン」に出てきそうなキャラでしょ?

モデルになったプロレスラー自体が、悪役なのに笑いがとれる類いの人気者だったんだよ。
・・だけど「ザンボット」のブッチャーは、愛嬌はあるけど残虐で猟奇的、またザコ臭がすごいのになぜか司令官というポジション、そのへんがかなりアンバランスである。
特に、彼が実行した作戦の中でも「人間爆弾」の施術とか、あれを見た当時の子供たち、トラウマになってるんじゃないのかなぁ・・。

この子、勝平にとってかけがえのないGFだったんだけど・・

で、このブッチャー率いる軍勢に対抗するのが主人公たちなんだけど、この勢力が「ガンダム」みたく軍という単位じゃなく、

・神家(家業は漁業)
・神江家(家業は病院)
・神北家(家業は牧場経営)

という、親戚の寄り合いなんだよね(笑)。
作中、この御三家は「神ファミリー」と称されており、どうも彼らのご先祖が百数十年前に地球に避難してきた宇宙人だったらしく、彼らが所持してた宇宙戦艦、および戦闘ロボットを代々受け継いできたという設定なんだわ。

ザンボット3
勝平(中央)、宇宙太(右)、恵子(左)、3人はイトコ同士

で、今回ブッチャー軍団が地球に襲来してきたもんで、その代々受け継いできた装備を解禁し、地球を守る為に闘うことになったわけだね。
ちなみに、神家からは勝平、神江家からは宇宙太、神北家からは恵子という中学生3名が合体ロボ・ザンボット3のパイロットに選抜されている。
これまで訓練を受けてもいない彼らがなぜザンボットを自在に操縦できるのかというと、それはファミリーの長老・兵左衛門の計らいにより、彼ら3人は、これまでずっと「睡眠学習」で戦闘訓練を受けてきたのだという(当人たちは全く無自覚)。

・・出た!「睡眠学習」(笑)!

実際に70~80年代には、こんな嘘がバレバレの商品が販売されていたらしいんだわ・・。
眠ってるだけで学習ができるなんて、そんな都合のいい勉強法があるなら、私も是非試してみたいもんである。

で、勝平/宇宙太/恵子以外の家族は何をしてるのかというと、彼らは母艦のオペレーター的役割。

全然オペレーターに見えない・・
こんなメンバーで大丈夫かよ・・?
個人的に最もお気に入りだったのが、恵子の妹・公子
キャラデザ、秀逸すぎるやろ

まぁね、こういうところにいちいちツッコんでいくのが、「ザンボット」の正しい楽しみ方なのさ。

あと、作画は基本的にクオリティが低いんだけど、ひとつ注目すべきは天才アニメーター・金田伊功の作画回である。

金田さんといえば、「金田パース」「金田ビーム」等でずっとオタクたちを魅了してきたレジェンドであって、私として特に見てほしいのが、第22話の作画だね。

「ザンボット3」第22話

こういう作画を見て、「なんかTRIGGERっぽい!」と思うでしょ?
というかね、TRIGGERの中核・今石洋之さんは「ザンボット」信奉者なのよ。
だから「グレンラガン」「キルラキル」など頭悪い系アニメのルーツは全て「ザンボット」だと捉えてもらっても構わない。

そういう意味で、この作品は<古典>なんですよ。
<ビートルズ>ではないし、<ボブディラン>でもないし、敢えて言うなら<セックスピストルズ>みたいなものだね。
後のガイナックスのメンバー(今石さん含む)に与えた影響は計り知れないだろう。
やっぱアニメファンたるもの、こういう<古典>視聴は必須である。
ブルーハーツ好きなのに、ピストルズ聴いたことないなんて絶対あり得ないでしょ?

お馴染みの「金田パース」も「ザンボット」が起源だね

天才・金田さんの詳細に興味ある人は、こちらの記事をどうぞ↓↓

で、この第22話を含めて、物語はその前話ぐらいから激しく鬱展開になっていくんだよなぁ・・。
なんか急に、富野色がめっちゃ強くなっていくのよ。
これ、「海のトリトン」方式だね。
ここまで来たら、もはや降板の心配はない。よし、エンジンかけよう」といったところだろう。

次々に死んでいく神ファミリー。

「皆殺しの富野」という異名は、      この「ザンボット」から始まったものである。


何より、作中NO.1の美女キャラ・恵子にだけは死んでほしくはなかったんだが・・。

あぁ・・(涙)

前半までコミカルで明るい雰囲気でやってきた分、終盤の展開はホント心にズシッとくるんだよな。

ただ「皆殺し」といっても、「イデオン」や「ダンバイン」みたく、マジで全員死亡というわけじゃありません。

かわいい女子が死亡する一方で、大穴のブスが生き残り、最終回一番おいしいところを持っていくんだよ。

「GANTZ」最終話は、これのオマージュになっているらしい

このへんの視聴者を見事に裏切る展開、富野さん、さすがである。
・・そういや、私のお気に入りキャラも、ちゃっかり生き残ってました。

みんな正直、お前の生存に無関心だったけど、ちゃんと私は気になってたよ?


おそらく富野さんが一番描きたかった部分は、神ファミリーと市民らの軋轢だったと思う。
ブッチャーの襲来で被害を受けた市民たちは、闘う勝平らに対して

「お前らがいるからアイツらは攻めてくるんだ。
神ファミリーは地球から出ていけ!」


といって迫害するんだよね。
守るべき市民たちに、石を投げられる勝平たち。

神ファミリーが守っている市民たちは、ホントに守るべき価値のある存在なのか?

神ファミリーに石を投げる市民たち

このテーマはくどいほどループして描写されており、終盤、敵サイドからも「お前たちの命を懸けた闘いに感謝をする地球人はいるのか?」と問われている。
これは、元全共闘の闘士だった富野さんとして、実感のこもった描写なんだと思う。
かつて自分たちは日本をよくする意味で社会改革を志向してたというのに、なぜか周囲からはむしろ白い目で見られてきたということの不条理・・。
そういう富野さん自身の怒りが、実はこの作品には込められている。

そういう彼の<富野イズム>と、スポンサー/プロデューサーのリクエストによる<エンタメ性>と、天才アニメーター金田伊功の<画期的な作画>と、その3つが<合体>することで「ザンボット3」は見事に成立してるのよ。

<ザンボット3の合体>

この3つが合体する合体ロボという設定も、多分タカラトミーのリクエストだったんだろうなぁ。
ちなみに、関連玩具はかなり売れたらしい。

この時代は<プラモ>より<超合金>が人気で、その為にも合体という仕様は必須だったんだと思う。

昭和だなぁ・・。


・・いやホント、これ昭和の名作だから、未見の方はぜひ一度ご覧ください。
全23話、富野作品にしては短い方なので、お気軽に見られるし。
あ、できれば前述の通り、1人で見るよりも仲間をたくさん集めて、みんなでツッコミ入れながら見るのが一番いいと思う。


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