出崎統vs杉井ギサブロー「ルパン三世」対決
今回は元虫プロ対決、【出崎統vs杉井ギサブロー】について書いてみたい。
といってもこの御二人、別に不仲というわけでもない。
そもそも、出崎統という才能を見出し、彼に「出崎ファミリー」を作らせたのは他でもなくギサブローさんといわれてるし、また出崎さんもギサブローさんを尊敬してたらしいから。
案外、悪い関係ではなかったと思う。
ただ、ミーハーな我々シロウト衆からすると、「出崎とギサブロー、演出家としてどっちが上なんだ?」というところに興味があるわけですよ。
だけど、こういう比較論というのは難しいものさ。
それこそ、<和の鉄人・道場六三郎>と<中華の鉄人・周富徳>を比較するようなもんで、料理のテリトリーが違えば比較のしようもないだろうに。
せめて使う食材は統一しなければ、比べる意味すらないだろう。
うむ、実は出崎さんとギサブローさんって、二度ほど同じ食材を使ったことがあるんだよね。
ひとつは「源氏物語」、そして、もうひとつは「ルパン三世」である。
で、今回は、「ルパン三世」の方を取り上げてみたいと思う。
「バイバイリバティー危機一髪」(1989年)
「ヘミングウェイペーパーの謎」(1990年)
「ロシアより愛をこめて」(1992年)
「ハリマオの財宝を追え」(1995年)
上記の作品群は「ルパン三世」TVスペシャルシリーズの初期作品で、いずれもがファンの間では名作認定されているものである。
で、これらは全て出崎統監督作品。
そう、少なくとも初期は「TVスペシャル版といえば出崎」というのがお約束だったのよ。
実際、出崎さんはハードボイルドが得意な演出家だし、「ルパン」との相性は悪くなかったと思う。
ところが、1995年の「ハリマオの財宝を追え」を境にして、出崎さんの出番はプツンと途絶えてしまった。
この作品の評判が悪かった?
・・いや、そんなことはなく、むしろこれは不朽の名作認定されてるほどさ。
その証拠に、TVシリーズ第5期最終回「ルパン三世は永遠に」を思い出してみてほしい。
あの回、「ルパンの昔の知り合い」と称して、黄金色の巨大潜水艦に乗ったダイアナという女性がいきなり出てきて、ルパンに協力したでしょ?
あのダイアナって、95年「ハリマオ」のヒロインなんだよ。
そんなのをわざわざ二十数年ぶりに再登場させるって、いかに「ハリマオ」が名作認定されてるかってことさ。
じゃ、なぜ出崎さんは「ハリマオ」を最後に「ルパン三世」の監督から降りたのか?
その理由は、「ハリマオ」から初めてTVスペシャルに入ってきた、日テレの中谷さんというプロデューサーに要因があった様子。
この中谷プロデューサーというのは「ルパン」の改革に着手した人で、彼は日テレに寄せられる投書に「『カリオストロ』みたいなのをもっと見たい」という内容が多いことに気付いたんだという。
・・これ、難しいところだよね。
「カリオストロ」というのは確かに名作だが、ガチの「ルパン」ファンからの評判は正直あまりよくない。
なんか「カリオストロ」って、「ルパン」にしては砂糖とミルクたっぷりの作風だからなぁ・・。
しかし、現実に寄せられてる視聴者からの声を無視することも忍びない。
・・で、そこから先、中谷さんが具体的にどう動いたかは不明である。
ただ、そこでプツンと出崎さんが途切れたことから推測して、私は中谷さんが出崎さんに「次回作は『カリオストロ』っぽい感じのやつにしましょう」と直接言ったんじゃないかと思うのよ。
中谷さん、それって一番言っちゃいけないやつだってば!
次回作を「宮崎駿っぽく」と言われて、明確に宮崎駿を敵視してる出崎さんが監督降りるのはむしろ当たり前じゃないか・・。
で、これをもって出崎さんが降り、その代わりに入ったのがギサブローさんだね。
「トワイライトジェミニの秘密」(1996年)
これは正直、シリーズ屈指の異色作だと思う。
なぜって、ルパンといえば「赤ジャケット」か「緑ジャケット」のイメージしかないのに、この作品では掟破りの「ベージュジャケット」。
そして、キャラデザは前回までのシャープな感じから打って変わり、かなりソフトというか、甘い感じになっている。
・・そう、明らかに「カリオストロ」に寄せてるんだよ。
そして、ギサブローさんがプロデューサーに依頼されたことは、「クラリスを超えるヒロインを作ってくれ」だったという。
でね、ギサブローさんは「職人」ゆえ、割とそういうオーダーに応えちゃうんだ。
このララというヒロイン、かなりマジでかわいいんです。
「ルパン」のヒロインといえば小悪魔/悪女が多いが、ララはそういうのじゃなく、純粋無垢の清純派。
cvの久川綾さんは、ED曲も唄ってましたね。
ただララがクラリスとちょっと違うのは、フルヌードお色気シーンもあったことだな。
ついでにいうと峰不二子もフルヌード(乳首描写あり)が複数回あり、実は「トワイライトジェミニ」って、数あるTVスペシャルの中でもNO.1のエロ度なんです。
意外かもしれんが、ギサブローさんはヌード作画の達人である。
幻想的な「銀河鉄道の夜」ばかりが、杉井ギサブローじゃないからね。
なんせ、虫プロ時代には成人向けアニメ、「哀しみのベラドンナ」の原画をほとんど1人で描いてたというんだから・・。
ギサブローさん、ホントそのキャリアはダテじゃない。
実をいえば、「最も古い、元祖のルパン三世」を描いたのもギサブローさんなんだから。
皆さんは「ルパン三世 パイロットフィルム」を知ってる?
これは1期のTVアニメ化前に作られたプレゼン用ムービーで、これで各方面にプレゼンをし、最初はアニメ化を渋ってたモンキーパンチ先生もこれ見て許可を出したらしいぞ。
<ルパン三世 パイロットフィルム>
・監督/おおすみ正秋
・アクションシーン作画監督/大塚康生
・キャラデザ、作画監督/芝山努
・原画/杉井ギサブロー、小林治、大塚康生、芝山努
どんだけ豪華な制作スタッフやねん!
まさにドリームチームである。
時間としては僅か12分程度のものだが、あまりにもデキがいいので部分的にTVシリーズのOPやEDに使用されたりもしてたっけ。
フルで見たい人は、確かフル動画がニコニコにアーカイブされてたはずなので、興味あれば見てみて下さい。
ルパンの声が広川太一郎なもんで、ちょっと違和感あるけど・・。
でさ、このパイロットフィルムにはTVアニメ化の際にボツにされた銭形警部の相棒、明智小五郎というキャラがいて、それがこの人物↓↓
なぜか、お爺ちゃんなんだよね(笑)。
・・で、ギサブローさんは「トワイライトジェミニ」の中で、明らかに明智小五郎をオマージュしたかのような老人キャラを銭形の相棒に据えてたわ。
こういうのを含めて、ギサブローさんは「ルパン」を楽しみながら作ってる感があった。
正直いうと、彼は「ルパン」みたいな作品が得意というわけでもないと思うのよ。
彼の持ち味は「間」のとり方だし、こういうドタバタした作劇に適している作家とも思えない。
なのに、さすがは「職人」。
ちゃんと帳尻は合わせてくるんだよね。
じゃ、話を一旦、一番最初のネタに戻すとして、「ルパン」の【出崎統vs杉井ギサブロー】対決は、果たしてどっちに軍配が上がったのか?という件について。
うむ、私の見た感じ、
勝敗はつけられないというか、ドローだね。
皆さんも、ぜひ両巨匠の「ルパン」を実際に見比べてみて、そのへんを確認してみて下さいよ。
ジャッジは、皆さんにお任せします。
ちなみにね、私は出崎さんとギサブローさんの作家性の決定的な差が何かというと、
<出崎統>
アニメ業界で最初のキャリアが虫プロ
<杉井ギサブロー>
アニメ業界にはまず東映動画から入り、その後で虫プロに移籍
このキャリアの違いに尽きると思うんだよね。
つまり出崎さんの「原体験」が虫プロなのに対し、ギサブローさんの場合はそれが東映。
で、そういう違いがあるもんで、実はギサブローさんの場合、虫プロの仕事に最初「あれ?」と疑問を感じたらしいのよ。
東映に比べて、画が動いてないじゃん!と。
一方、出崎さんはこれが初めての仕事だし、そういうところには疑問を持たなかった。
つまり、後の出崎演出が生まれた最大の理由というのは、彼は画が動かないことに「疑問を持たなかった」ことにあると思う。
だからこそ、まず最初に画が動かないこと前提の、ああいう特殊スタイルに行き着けたのよ。
一方のギサブローさんには、そこまでの「前提」はなかったかと。
ぶっちゃけ、彼は「もっと動くアニメがいい」と思ってたと思う。
もっと作画枚数を増やしたい、でも虫プロにはおカネがないからそれができない、というジレンマ。
そんなジレンマの中でやがて到達したのが、後のギサブロースタイルだな。
彼は、画をよりむしろ、「間」のとり方で「空気」を作る術を会得。
たとえば「トワイライトジェミニ」の劇中だと、ルパンとララが2人、砂漠でラクダに乗って彷徨ってるシーンとか、妙に印象に残ったよね。
あそこでの過剰とも思える「間」のとり方、あれなんてまさに彼ならではの演出だろう。
そう、たとえ「ルパン」であろうとも、やはりその作家性は如実に出るものだよ。
実は最近、私は「見比べ」にハマっててね。
皆さんも、たまにはそういう楽しみ方をどうです?