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異色サイバーパンク「ひるね姫」読解には少しコツが要る
今回は、神山健治監督作品「ひるね姫」について書いてみたいと思う。
え~と、今回はがっつりネタバレしちゃうし、そもそも見てなかったら何のことか意味も分からない内容だと思うので、そこはあしからず。
なお本作を未見の方は、YouTubeで「hirune hime」、もしくは「napping princess」と検索すれば無料フル動画を見れると思うので、まずはそちらをどうぞ。
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日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞受賞
VFX-JAPANアワードアニメーション部門優秀映画賞受賞
ファンタジア国際映画祭観客賞 アニメーション部門金賞受賞
まぁ、そこそこ賞は獲ったものの、どっちかというと評価がいまいちの作品といっていいだろう。
それも致し方ない部分もある。
・・と言うのもね、これ見た目と内容のギャップがエグいのよ。
だって↑↑のイメージビジュアルを見て、これがサイバーパンクだなんて誰も思わないでしょ?
というより、全部見終えた人ですら、これをファンタジー作品だと解釈してたりするぐらいなんだから。
それほどに誤解されやすい作品だということ。
いわば、「羊の皮を被ったオオカミ」である。
もっと分かりやすい表現をするなら、優しそうなオーラを放つ草食系男子だと思って近づいてみたら、実はめっちゃギンギンに勃起してた、という印象の映画である。
うむ、簡単に騙されてはいけない。
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これと同類のカテゴリーの作品を敢えてひとつ挙げるなら、最もイメージが近いのは「ペンギンハイウェイ」だと思う↓↓
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この作品もペンギンがかわいいもんでついつい騙されてしまうんだが、実は「ホログラフィー原理」という、めっちゃ難しい物理を理解してないと物語の本当の意味が理解できない作りなのよ。
で、大体の人がそこを理解できずに見ちゃったもんで、これをファンタジー作品だと誤解してるし。
・・そう、人間というもの、理解が及ばない作品に出くわすと、とりあえずファンタジーという引き出しに片付けちゃうのさ(笑)。
で、それと全く同じ現象が、「ひるね姫」でも起きちゃったわけです。
今度のモチーフは「ペンギン」ではなく、「夢の世界」なんだけど。
ヒロイン・ココネ(現実世界)
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もう1人のヒロイン・エンシェン王女(ココネが見てる夢の世界)
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ココネが眠ると夢の世界でエンシェンという王女になって、そこでの彼女はタブレットを使って「魔法」を使えたりするのよ。
機械に意思を与えたりできる系のやつね。
まぁ、こういうのも「夢の世界」の話だから、いいとしようか。
そこではヌイグルミが釘宮ボイスで喋るし、またサイドカーで空を飛べたりもするんです。
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はい、ここまでは誰でもついてこれるよね。
・・ただ問題は、ここから先の展開。
ある日、ココネは気付いちゃうのよ。
自分が見た夢の中で起きた出来事と、現実で起きる出来事とがなぜか微妙にシンクロしてるよなぁ、と。
いや、単にシンクロだけならまだしも、付け加えて、この夢の世界をココネ以外の人も共有する現象まで起きてしまい(つまり、その人もココネと同じ夢を見てる)、その記憶まで共有できてしまったりする摩訶不思議。
うむ、このへんワケ分からんよね。
ましてや、夢の世界にはこんなのまで出てくるし↓↓
「鬼」と呼ばれる謎の巨大ロボット(?)出現
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しまいには、エンシェンでなくココネがロボット操縦して空を飛ぶ始末・・
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これ見た瞬間、「あれ?」と思うはず↑↑
エンシェン王女じゃなく、ココネ自身がロボット操縦して空を飛んだ世界は夢なの?現実なの?って。
もう、このへんになると頭ごちゃごちゃになって、混乱してくるんだよね(ヌイグルミが喋ってる時点で夢なのは確定だけどさ・・)。
・・でも、まさにこの物語のポイントはそこ。
敢えて、構成で視聴者を「夢?現実?」と混乱させることにより、神山さんはひとつの問いかけをしてるんです。
「我々が<現実>と認識してる世界って、本当にリアルな現実なの?
<夢(仮想世界)>と、一体何が違うの?」
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そう、この作品のベースにあるのは
<シミュレーション仮説>
なんです。
ようは、今我々がいる世界はあくまで「プログラム」にすぎず、案外本当は実体のないバーチャルリアリティなんじゃないの?というイマドキの考え方だね。
・我々が現実と認識してる世界=意識のデータの認識によって成立
・我々が夢と認識してる世界=同じく意識のデータの認識によって成立
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つまり<現実>もまた、案外その本質は<夢>と大差ないものなんじゃないのか、と。
さらにいうと、この作品の中では<夢の世界>を他人と共有できてるところを見るに、その構造としては<夢の世界>=<集合的無意識>という形状だと解釈できる。
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・現実世界=顕在意識世界
・夢の世界=集合的無意識世界
どっちにせよ、データで構成されたプログラムという意味では同じ。
バカバカしい認識だ、と呆れる人も結構多いと思うが、「プログラマー」という職種の人はこういう思考に至る人が実際多いのよ。
この現実世界もまた、結局は式で成り立つプログラム、つまりデータの集積だわ、と。
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・・で、そういうのを踏まえた上で、本作における最大のキーマンがこの人なんです↑↑
既に故人だが、ココネの母・イクミだね。
どうやら、彼女は天才プログラマーだったらしい。
・・いや、ここでは天才プログラマーというふわっとした表現を使うより、神山作品である以上、「ウィザード級ハッカー」という表現をした方がピンとくるかもしれん。
そう、勘のいい人なら、もうお分かりのはず。
亡くなったイクミ
イコール
あっちの世界に行った草薙素子
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・・いや、もっと正確に表現すると、「あっちの世界に行ってしまった後の草薙」である以上、こっちの草薙↓↓ですよね。
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というか、もっと率直に言っちゃいましょうか。
ぶっちゃけ「ひるね姫」のコンセプトというのは、「イノセンス」をかわいくしたバージョンなんですよ(笑)
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かわいいココネ⇔かわいくないバトー、この2人を繋げて考えたくない人の気持ちも分からんではないが、でも彼女らは共に「ハッキングされている」という点において全く同じ状況なんだわ。
「イノセンス」は、仮想現実⇔現実の混濁を描いたドラマだったよね。
そして「ひるね姫」は、夢⇔現実の混濁を描いたドラマである。
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・・えっ、ココネは別にハッキングされてないじゃん?と言いたい人も当然いるだろうよ。
いいえ、ちゃんと彼女はハッキングされてます。
逆にいうなら、ハッキングされたからこそ<現実⇔夢>がシンクロしたわけじゃないですか。
別に、彼女は夢を司る超能力者という設定じゃないんだからね?
じゃ、そのハッキングを仕掛けた人は誰なのかということだが、そんなの、1人しかできそうな人はいないでしょ。
そう、天才プログラマー(ウィザード級ハッカー)のイクミですわ。
実際、彼女は死ぬ前、こういう言葉を旦那に残してますから。
「ごめんね、最後まで一緒にいられなくて。
でもあなたが困った時、私は必ず戻ってくる。
だから、それまでココネをお願いね」
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死ぬ前の人間が、「困った時、必ず戻ってくる」なんて普通言わんでしょ?
でも、彼女は「戻ってくる」と断言してこの世を去った。
・・なぜか?
それは、彼女が天才プログラマーであるがゆえ、シミュレーション仮説上の<世界のプログラム>を既に何らかの形で把握してた、ということに他ならないのよ。
つまり、あっちの世界からこっちの世界をハッキングできる根拠があったんだろうね。
で、そのチャンネルとしてチョイスされたのが、結局「ココネの夢」だったということさ。
でも死んだ人間がこっちの世界にハッキングするとか、それもうオカルトじゃん?
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と言いたい人もいるだろう。
・・そう、実は私もそこは「う~む」と悩むところなのよ。
だけどさ、ここで神山さんがなかなか狡猾なのは、この作品の中に
イクミが現実世界で死亡した時の場面を敢えて全く入れてないんだよねぇ・・
普通、死亡時の状況はプロット上重要だから絶対挿入するはずである。
なのに、それが無かったことに違和感を覚えた人も多いだろう。
もちろん、これは「ワザと」だと思う。
敢えてそのシーンを省くことにより、「死亡」という動かしがたい現実より「あっちの世界に行った」という、印象の余白みたいなものを残したかったんじゃないかな?
やっぱ、私としてはどうしても「イノセンス」のこの場面を思い出しちゃうのよ。
草薙「バトー、忘れないで。
貴方がネットにアクセスする時、私は必ずそばにいる」
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当然「攻殻」ファンの人なら、すぐに「あ、これ『イノセンス』のセカンドラインだ」と「ひるね姫」の構造に気付いたと思うが、「攻殻」ファンでも何でもない人たちにとっては、ひたすら「??」だったと思うんだよね。
あるいは、これがサイバーパンクであること自体に気付かなかった人もいるかも。
いやいや、ゴリゴリのSFだってば。
神山さん的には、「東のエデン」がケータイを軸にしたサイバーパンク。
そして「ひるね姫」では、タブレットを軸にしたサイバーパンク。
さらにいうと、夢=集合的無意識=ネット、という一歩踏み込んだ世界観だね。
まぁ、こういう設定にすることによって、かわいいオンナノコをヒロインに据えられるのは利点だったと思う。
実際にココネ、めっちゃかわいかったし。
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ちょっと天然な感じのほんわか系方言女子という、もうこれを嫌いな男子は絶対おらんやろ、という実にあざといキャラ設定。
とにかく、この「ひるね姫」を見ることによって「イノセンス」のバトーが今後めっちゃかわいく見えることは間違いないので、この作品の真の価値はそういうところかもしれないね。
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