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サンライズ作品としての「沈黙の艦隊」を見る

今回は、アニメ「沈黙の艦隊」について書いてみたい。
そういや昨年、これは実写映画化されたんだっけ。
だけど、その四半世紀も前にアニメ化はされちゃってたわけよ。

「沈黙の艦隊」(1995年)

当時、社会現象化したといっても過言ではないと思う。
原作は、週刊モーニングに連載されていたかわぐちかいじ先生の人気漫画であり、これの連載開始は1988年だったという。
88年といえばまだベルリンの壁が崩壊する前であり、ソ連がまだ存在してた時代であり、ちょうど、この翌年あたりから世界は大きく動き始めるんだよね。
なんとまぁ、うまいこと時流に即した連載だったことだろう。

アニメとしては、制作がサンライズ
そして、監督が高橋良輔
この作品は、「かわぐちかいじ原作」というカラーがあまりにも強烈すぎる為に見逃されがちなんだが、ぜひともアニメファン視点としては「高橋良輔作品」という捉え方もしてみてほしい。
代表作「装甲騎兵ボトムズ」を含め、これまで数多くのミリタリーを描いてきた高橋さんである。
太陽の牙ダグラム」からして、そうだったもんなぁ。
そしてその集大成ともとれるのが、「沈黙の艦隊」じゃなかっただろうか。

昔から、高橋さんが意識してきたのは常に富野由悠季だったという。
2人はほぼ同世代であり、虫プロ⇒サンライズという同じキャリアを歩んできた戦友でもある。
ただし、高橋さんとして「富野さんは常に自分の一歩先を行ってる」という劣等感もあったらしいね。
そのせいか、敢えて「富野さんの逆をやる」という、その逆張りの姿勢が彼の個性、ひとつの作家性にもなったんじゃないかな?
ガンダム」シリーズではモビルスーツがどんどんハイスペックになってくのを尻目に、高橋さんは「ボトムズ」で機体をあくまで消耗品として描くという逆張りをしたんだね。
なんというパンク精神・・(笑)。
そして遂には、サンライズ作品でありつつも「ロボットの出てこない戦記物」として、かわぐちかいじという領域にまで辿り着いちゃったわけか。

冨野由悠季監督(左)と高橋良輔監督(右)

富野さんの思想は、割と明確である。

「人類は救いようもなく愚かであり、同じ過ちを何度も繰り返す」


実際、富野さんはアムロvsシャアの時代以降を描いた作品も幾つか手掛けてるが、そのいずれもが「過去の繰り返し」というループ構造になってて、つまり「人類はそう簡単に進歩しない」という悲観論が根底にあるんだよ。
そこに「待った」をかけたのが高橋さんであって、それが「沈黙の艦隊」という作品だろう。
「沈黙の艦隊」の主張は明確である。

「人類は、今後進歩しなくてはいけない。
新たな世界秩序を模索しなくてはならない」

「沈黙の艦隊」海江田四郎
「ガンダム」シャア・アズナブル

もちろん、海江田とシャアは、お互い決して相容れない思想だと思う。
とはいえ、常に富野由悠季を意識する高橋さんが、「沈黙の艦隊」主人公の海江田に「シャア」の幻影を見たことは想像に難くない。
海江田もシャアも共に現状の体制をよしとはせず、変革を求め、それを実行した人物だ。

<シャアの改革案>

地球に小惑星アクシズを落として、地球そのものを人類居住不可能の環境とする。
それにより人類は全てがスペースノイドという同じ立ち位置となり、そこでようやく皆が対等な形で交渉ができる。

<海江田四郎の改革案>

今ある国家の政治と軍事を完全に分離し、軍事力の脅威を背景にした現行の国際政治を根絶しよう。
各国の軍は全て国際連合が一元管理し、世界の警察として治安維持に動く形としたい。

後者の主張は青臭い理想論にすぎんが、これは誰しもが一度は考えたことのある世界政府構想だね。
とはいえ、この理想が現実世界で具体化したことはないし、多分、未来永劫無理だろう。
ちなみにアニメ版(VOYAGE3)では、海江田が上記主張を討論する為、国連本部のあるニューヨークに向かうところでエンディングとなる。
さぁ、これからが本番・・というヒキだったので皆が続編を期待してたんだが、なぜか、いつまで待っても続編は出なかった。

そして海江田の代わりに、ニューヨークにやってきたのはこれですよ↓↓

ニューヨーク9.11テロ

2011年9月11日の出来事、ニューヨークをテロが襲った。

この光景を見て、これ↓↓を思い出した人もきっと多いだろう。

コロニー落とし

はい、コロニー落としですわ。
ぶっちゃけ、現実世界は海江田の主張に耳を傾けることはなく、どっちかというとシャアの主張に耳を傾けたみたいだね。
というか、富野さんの読みの方が正しかったのか・・。

もともとアニメ「沈黙の艦隊」は、TBSの2時間特番(多分ゴールデンタイムの放送だったんじゃないかと)で流すことを前提で制作されたものらしい。
ところが、急遽その放送予定が中止となり、やむなくOVAとして発売ということになったらしい。
なぜ放送中止になったのか、その詳細は不明。
きっとスポンサー絡みだろう。
遅ればせながら1年後の96年、ひっそりと深夜枠での地上波放送が実現したらしいんだけど、ちょっとばかりタイミングを逸した感が強い。
というのも、本来なら「沈黙の艦隊」が放送されるはずだった95年、その年に話題をかっさらったアニメがこれなんですよ↓↓

はい、皆さんよくご存じ、「エヴァ」ですね。

思えば碇ゲンドウも一種の改革者だったといえようが、その思想は海江田のそれとは全く違う。
どっちかというと、ややシャア寄り?
いや、あのサードインパクトは、コロニー落としより、もっとタチが悪い。

サードインパクト

こういうのは、インパクト大小の問題である。

・シャアのアクシズ落とし
・碇ゲンドウのサードインパクト
・海江田四郎の独立国家やまと


この3パターンのカリスマを並べてみると、やっぱ海江田だけインパクトが弱いんですよ。
シャアとゲンドウに挟まれてしまうと、どうしたって彼だけは小粒に見えてしまう。
それは、富野由悠季と庵野秀明に挟まれると、高橋良輔だけが小粒に見えてしまうと言い換えることもできよう(笑)。
「エヴァ」以降、日本アニメはセカイ系がひとつのムーブメントとなった。
じゃ、「沈黙の艦隊」はセカイ系だったのか?
・・いや、あれは世界系ではあっても、セカイ系ではないだろうよ。

「ジパング」(2004年)

ところで、同じかわぐちかいじ先生の原作アニメなら、「ジパング」もまた有名かと。
だけど、これはめっちゃ中途半端なところで終わるんだよねぇ・・。
一説には、内容の問題として打ち切りに近かったという話すらある。
物語としてはめちゃくちゃ面白いんだが、私はオチのない作品にあまり価値を感じない。
よって、同じかわぐち先生原作アニメなら、お薦めしておきたいのはむしろこっちの作品の方だね↓↓

「太陽の黙示録」(2006年)

WOWOWアニメ「太陽の黙示録」である。
監督は「メイドインアビス」「SPY×FAMILY」「ガンダムUC」等で知られる古橋一浩さん。
なかなかの傑作ですよ。
未見の方は、「the spirit of the sun」で無料動画を検索してみてください。
これも原作4巻ぐらいまでのアニメ化にすぎないんだが(全26巻)、キリのいいところで締めてる分、「ジパング」よりは全然マシさ。
物語の内容は「大震災により壊滅した日本とそれを取り巻く国際社会」という感じになってて、これの原作連載は2010年に終了したんだが、奇しくもその翌年に東日本大震災が起きたのは何とも皮肉である・・。
思えば「沈黙の艦隊」も連載中に湾岸戦争が起きてしまったわけで、どうもかわぐち先生の作品は何かを引き寄せちゃう傾向にあるっぽい。

まぁ、「沈黙の艦隊」がひとつの時代を象徴した作品というのは間違いないことだろう。
日本人として、やはり見ておくべき必修アニメのひとつだね。
VOYAGE2の中、海江田四郎は米大統領に対して、こう言っていた。

「あらゆる政治思想は、軍事力をもつべきではなく、あるゆる軍事力は、宗教に左右されてはならない」


・・至言だよね。
この後、現実に米国はイスラム過激派のテロ攻撃を本土に食らったことで、海江田の言葉の重要性をようやく理解できたと思うんだが。
今だからこそ、改めて見ておくべき作品かもしれない。


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