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「推しの子」は、メディアミックスの究極だね
今回は、「推しの子」2期について書こうと思う。
まず率直に感想を言わせてもらうと、なかなか良かった!
そりゃ1期のほどの衝撃的なインパクトはなかったにせよ、そのクオリティは一定以上の水準をクリア。
皆さんもご存じの通り、この作品は
①ミステリー、サイコサスペンス
②青春ラブコメ
③転生ファンタジー
④業界、お仕事モノ
⑤美少女アイドル、音楽モノ
⑥主人公最強系(頭脳ゲーム系)
などで構成されており、よくもまぁ、これほどびっしりと「売れる要素」を詰め込んだものである。
しかも驚くのは、これほど情報過密なのに、不思議と「詰め込み」感を感じさせないところ。
これは、赤坂アカ/横槍メンゴ両先生の手腕といったところだろう。
主軸は暗く、闇の深い話でありつつも、キャラデザは明るくて、かわいくて、コメディとしてもハイクオリティ(動画工房の制作ゆえ当然ともいえるけど・・)。
あぁ、そうか。
思えば「かぐや様は告らせたい」にしても、あれほどに破天荒なコメディでありつつも、根っこにはかなり闇の深い話があったもんね。
このへんは、赤坂先生の十八番なのかも。
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この2期は、上記の6項目の中では④の要素がめっちゃ面白かった。
漫画家の赤坂/横槍先生が「漫画のメディアミックス」をネタにする、というのが何とも生々しくてイイじゃん(笑)。
これは、P.A.WORKSが「SHIROBAKO」を作った時の感覚に近い。
なんせ、その業界の人が自らの仕事を語ってくれるんだから、その説得力はもうハンパないものである。
赤坂先生の「かぐや様」、そして横槍先生の「クズの本懐」。
どちらの作品もアニメ化は成功したものの、一方、実写化の方は両先生とも思うところが絶対あったはずなのよ。
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確か1期でも漫画のドラマ化というのをネタにしてたが、今回の2期はさらに一歩踏み込み、流行りの「2.5次元化」、すなわち舞台演劇化というのをネタにしていた。
これは、なかなか興味深かったわ~。
というのも、私は漫画のアニメ化作品、および実写化作品、つまり映像作品はこれまでたくさん見てきたけど、2.5次元作品というのは見たことなかったから。
最近は流行ってる、という話はうっすらと聞いてはいたけど。
でもさ、2.5次元の役者さんって聞いたことのない名前ばっかりなんだよね。
というか、舞台劇の役者さんは宝塚だろうが四季だろうが顔も名前もまるで知らないんだけど。
そういうのは「好きな人たちだけの世界」って感じがして、しかもファンは大体が女子なんだろうし、少なくとも男子にとってはいまだ敷居が高い世界である。
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で、この「推しの子」2期では主人公・アクアが舞台劇「東京ブレイド」に出演するくだりがひとつのメインになるんだけど、この舞台がその2.5次元、つまり原作が大ヒット人気漫画(もちろん架空だが)という設定なわけよ。
でさ、ちょっとややこしいことに、その「東京ブレイド」が上の画の通り、ホントに2.5次元化されるっぽい(今年の12月公演予定)。
劇中劇の舞台が、リアルの2.5次元舞台になるのか・・。
付け加えると、ちょうどその公演中に「推しの子」実写映画も封切りになるらしく、このへんの相乗効果を狙ったメディアミックスプロジェクトの周到さにはもはや感服するしかない・・。
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漫画⇔アニメ⇔2.5次元⇔実写映画、しかも原作は漫画の2.5次元化、実写化をネタにした内容。
かつて、これほどまで緻密に練り込まれたメディアミックスプロジェクトがあっただろうか?
さらに映画公開に先駆け、primevideoでドラマ版を11月から先行配信するという念の入れよう。
しかも実写のアイ役は元乃木坂の齋藤飛鳥というビッグネームが抜擢されたらしく、当然彼女は映画公開に合わせて曲をリリースするよね?
なんかさ、「鬼滅」のメガヒット以降、集英社のメディアミックスに対する力の入れようはもう尋常じゃなくなってきてる。
これはもはや、赤坂/横槍先生レベルの話じゃなくなってきてるだろう。
「推しの子」内におけるドタバタ劇は、もはやフィクションの域を超えて、ノンフィクションになってるかも。
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で、「推しの子」には、2人の漫画家が出てくる。
1人目は上の画の吉祥寺先生。
この先生は割とざっくばらんに漫画業界のことを語ってるくれるキャラで、「漫画の編集者に求められること」を次の2つだと断言していた。
①売れる漫画を作ること
②売れた漫画を、終わらせないこと
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で、こういう露骨な話を敢えてアニメでやっておいて、
「推しの子」の原作は、来月で連載終了になるそうです(笑)。
こんなの、オモシロすぎやろ!
もはやどこまでが狙いで、どこからが単なる偶然なのかもよく分からんようになってきた。
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そして、上の画が2人目の漫画家、鮫島先生。
彼女はもとは吉祥寺先生のアシスタントだったんだが、今は独立し、なんと5000万部の大ヒットを飛ばす超売れっ子になっている。
どうも妥協を許さない孤高の天才キャラっぽく、この人が自分の作品「東京ブレイド」2.5次元化に伴い、その脚本を見て「全部書き直して」とクレーム入れたことから騒動が始まる。
これは、作家のワガママ?
それとも、制作スタッフの怠慢?
この物語を描いてるのはもちろん漫画家ゆえ、当然「制作スタッフの怠慢」というベクトルで話は進むんだと想定してたのよ。
・・ところが、そうじゃなかった。
これがビックリしたんだよねぇ。
「推しの子」は、作家を悪者にするでなく、また舞台脚本家を悪者にするでなく、
「自分の担当する作品を悪くしようなんてクリエイターは存在しない。
互いがベストを尽くそうとする上での齟齬や、それをうまく翻訳できない
仲介者、様々な要因で今日も原作者と脚本家はどこかでモメている・・」
と、かなり俯瞰してこの事態を語っている。
さすが、赤坂/横槍先生はオトナだなぁ。
・・ただ、作中の鮫島先生は
「キャラを変えるのは、無礼だと思いませんか?
ウチの子たちは、こんなに馬鹿じゃないんですけどっ!」
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と超激怒してたわけで、これはcv佐倉綾音のうまさもあり、なかなかいいシーンだったと思う。
キャラを「ウチの子たち」というのはいいね。
この鮫島先生、もともとコミュ障で人とのコミュニケーションが大の苦手で(漫画家には多いタイプらしい)、あと売れてるもんだから周りからずっとチヤホヤされてきた経緯もあり、そのへんがコジれて、ちょっとややこしい人になっちゃったっぽい。
とはいえ、彼女は何度も修正を申し入れてたらしく、その怒りはゴモットモである。
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私は今回このアニメで初めて知ったんだが、「著作者人格権」「同一性保持権」というのが原作者にあるらしいね。
こんなのがあるなら、例の「セクシー田中さん」原作者の自殺という悲劇はなぜ起きたんだろう?
「セクシー田中さん」の件は脚本家が一方的に悪者にされたようだが、それを「推しの子」は一部擁護してるようにも感じたわ。
原作者の修正の本来の意図が、複数の仲介者の伝言ゲームで脚本家にうまく伝わらなかったんじゃないか、と。
確かに、そういうのはあるかもしれないね。
「推しの子」では、鮫島先生の「キャラさえブレなければ最悪ストーリーを変えてもいい」という肝心な妥協点が脚本家に伝わっておらず、でもそれが伝わった途端、みるみる問題は解決したわけよ。
原作者⇔脚本家の和解。
この落としどころは、よかったと思うわ~。
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なんていうかさ、「推しの子」はこうして「旬のネタ」をブッ込んでくるという、「ライブ型コンテンツ」なのかもしれないね。
1期にあった、リアリティショーがキッカケのネット炎上⇒自殺(未遂)というくだりにしても、ある意味では「旬のネタ」だったわけで・・。
フィクション+時事という、一種のジャーナリズム、情報バラエティに近いスタイルかと。
ニュース系コンテンツ?
ならば、こういうのは当然アニメ化もタイミング、機を逃さない鮮度こそが重要ということ。
もはや、今後アニメも更新スピードが命になるのかもしれない。
新聞よりもテレビ、テレビよりもネット、そうやって時代を経るごとに情報の更新はどんどんスピードアップしてきたわけよね。
アニメだって、どんどんそうなっていくのかも?
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ちなみに、「推しの子」は早くも3期制作が決定したらしいんだが、ならば私の予想として、3期でくるだろう「映画編」はメディアミックスしやすい章だし、ひとつ可能性として劇中劇をまるごと実写映画としてリリースする気じゃないか?
今回の「東京ブレイド」みたいな感じで。
いまや「推しの子」はメディアミックスの最前線基地だし、その程度朝飯前だろう。
必ずや、何かを仕掛けてくるはず。
何にせよ、今後も目の離せない作品であるということは間違いないね。
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