見出し画像

神山健治、遂に元祖サイバーパンクに到達「ブレードランナー」

今回は、「攻殻機動隊SAC」などで著名な、神山健治さんについて書かせてもらいたい。

神山健治(1966年生まれ)

彼は日本でも屈指の人気アニメ作家なのは間違いないんだけど、その一方でこの人を高く評価する人と、正直、それほど評価してない人とに分かれてるかと。
年齢としては、細田守(1967年生まれ)、湯浅政明(1965年生まれ)、幾原邦彦(1964年生まれ)あたりとほぼ同世代。

細田守

湯浅政明

幾原邦彦

う~む、このへん何と言ったらいいのかなぁ、上の同世代3名と比べると、<大物>感みたいなものが神山さんには感じないんだよね。
うわっ、めっちゃ失礼なこと書いとる~(笑)。
ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。
・・いや、でも私の書いたニュアンス、実は皆さんも理解できるんじゃないの?
だってさ、どう考えても細田さんや湯浅さんや幾原さんは<大物>でしょ。
対して神山さんは、この<超大物>↓↓の傍らに控える<子分>キャラというイメージがあるのよ。

超大物・押井守

やっぱ、<超大物>の傍らにいた時期が長い人は辛いよね・・。
この神山さんの気持ちが一番分かるのは、多分この人だろう↓↓

スタジオポノックのエース・米林宏昌

米林さんも本来めっちゃ凄い人であり、自身の監督作が
・日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞
・東京アニメアワード オブザイヤー受賞
・米国アカデミー賞ノミネート

など申し分ない実績がありつつも、どこか<小物>感の拭えない人である。
どうしても、「巨匠の懐刀」というイメージがあるからね・・。

で、神山さんの場合も実際に「押井塾」の<級長>を務めてた立場で、正真正銘の<子分>といえよう。
・・あ、「押井塾」というやつは別に比喩的表現でなくて、実際にそういうセミナーがあったんですよ。

でさ、このセミナーはProduction I.Gが若手育成の為にと主催した企画で、押井さんがその先生みたいな立場だったのね。
しかしなぜ、Production I.Gがわざわざこんなことをしたのかというと、彼らには彼らなりの危機感みたいなものがあったんじゃない?
なぜって、90年代当時、Production I.Gはまだ業界の「傍流」だったから。

というのも、アニメ業界というのはもともと

①東映系
②旧虫プロ系


という2大主流があるわけさ。
①からはジブリという流れができて、②からはサンライズマッドハウス京アニシャフトといったところが台頭してきたわけじゃん?
だけどProduction I.Gは①でも②でもなく、③タツノコプロ系という第3勢力だったということ。

それはそれでいいとしても、90年代から④インディペンデント系新興勢力というのが系列外からいきなり割り込んできて(ガイナックス)、そりゃまぁProduction I.Gとしては当然「・・ヤバい!」となるわな?
・・で、タツノコプロ育ちのOB押井さんに、タツノコ魂注入を若手に対してお願いします、と。

70年代まで、かなり健闘していたタツノコプロ

で、この時に押井さんの若手教育で興味深かったのは、

彼は若手に、ただひたすら企画書を書かせたんですよ。


というか、「押井塾」では結局それしかやらなかったらしい。
若手が押井さんに企画書を出す⇒押井さんがダメ出しする、延々そのループだったんだってさ。

私は、この話を聞いて「あぁ、なるほどな」と。
よく考えたらさ、タツノコプロが70年代に東映や東京ムービー(この会社は旧虫プロから才能をごっそり引き抜いていた)とほぼ互角に戦えてたのってどう考えても「企画力」の賜物なんだよね。
敢えてロボット物にはいかず「ガッチャマン」、敢えてスポ根や魔法少女にいかず「ヤッターマン」、ドロンジョ/トンズラ/ボヤッキーとか、今見てもサイコーじゃん?
で、押井さんは、そういうのをこれからの若手に求めたわけさ。

Production I.Gが生き残るには、企画力で勝負するしかない、と。

「BLOOD THE LAST VAMPIRE」(2000年)

・・で、セミナーでは、神山さんがこの「BLOOD THE LAST VAMPIRE」を企画し、最終的には映画化にまで至ったわけですよ。
これはその後シリーズ化し、海外で実写化までされたことは皆さんもご存じだろう。
いやいや、まさにこれは「企画」の勝利だよね。

・セーラー服の女子高生
・日本刀
・不老不死の吸血鬼

というコンセプト、そりゃ令和の価値観では「ありがちな設定」に見えるのかもしれんが、少なくとも90年代当時としてはかなり画期的な企画だったと思うぞ。

黄瀬和哉、井上俊之、西尾鉄也による作画が超絶に神懸ってるんだよなぁ、これ・・

私が思うに、神山健治最大の武器は、こういう「企画力」だと思う。
・・いや、もっと厳密に表現すると、「コーディネート力」かもしれない。
彼は、同じ押井一門の黄瀬和哉のように凄い画が描けるわけじゃないので、基本はアイデア勝負である。
多分神山さんって、めっちゃ頭の回転速い人だよ。
たとえば、お題を3つ与えられて「その3つを使った物語を作れ」という3題噺とか、神山さんは絶対うまいタイプだと思う。

たとえばね、彼は後に「東のエデン」というアニメを作ったんだが、この時にフジテレビから、次のようなお題↓↓を出されてたんだ。

①「攻殻機動隊」のようなサイバーパンクを作ってください
②ただし、視聴層に女性が多いので、それを考慮した上で作ってください(ノイタミナの視聴層は、多分サイバーパンクなんて理解できませんよ)

・・どう考えても、この①と②はお題として矛盾してるじゃん?
辛くない激辛カレーを作ってね、と言ってるようなもんだし・・。

でもさ、このムチャブリに対し、神山さんはこれ以上ないぐらいの「正解」を出したと思わない?

「東のエデン」(2009年)

きっちりサイバーパンクでありつつも、ちゃんと「月9」を意識した作風になってて、これはおそらく女性層にも好評だったはず。

こんな仕事、絶対押井守にはできないって!


神山さんだからこそ作れたアニメである。
彼のずば抜けて高い「コーディネート力」がなせるワザ、としか言いようがない。

そして、こういう彼の「コーディネート力」の真価が発揮されたのは、後の映画「009 RE:CYBORG」だよ。

「009 RE:CYBORG」(2012年)

これ、本来は押井守が監督する予定だったのに、彼が立てた企画は

・物語開始時点で、001と003と009以外のサイボーグは全員死亡済み
・001は犬という設定
・003は58歳のおばさんという設定
・009は引きこもりという設定

001
003
009

というメチャクチャな内容になってて、結局のところプロデューサーに降板させられちゃったんだよね。

・・おいおい、「押井塾」で偉そうに企画書の指導してたアンタが、こういう頭おかしい企画を立てとるんか~い(笑)!

というのはさておき、この時に押井さんの後釜に入ったのが、他ならぬ神山さんなんだわ。
ここで彼は、

①押井守の立てた企画を全てご破算にする(プロデューサーの意向)
②押井守のやりたかったことを表現する(だって、師匠だから・・)

という矛盾する2つのお題を抱え、それでも何とかカタチを整え、ひとつの映画を仕上げたんですよ。
これって、めっちゃ難しい仕事だったと思うわ~。
それこそ「コーディネート力」のある神山さんじゃなきゃ、多分この映画、お蔵入りになってたんじゃない?

ちゃんと、押井守立案の「天使の化石」というアイデアを映画の中で出してきたんだよね

思うに、こうやってムチャブリにうまいこと応えてくれる監督というのは、プロデューサー目線で見ると、めっちゃありがたい人材なんじゃないかな?
使い勝手がいいし・・。
そして皆さんも実社会の経験でお分かりだと思うが、こういうタイプって、

確実に出世するんですわ!


ちなみに今、神山さんがどんな仕事してるかというと、こういうのをやっています↓↓

神山健治、遂にアメリカでピータージャクソンとのタッグを組んで映画作っちゃいましたよ!

ハリウッドの巨匠・ピータージャクソン

いや~、出世したよなぁ。

あと、この「ロードオブザリング」に先駆けて神山さんがアメリカで作ったアニメというのが、これですよ↓↓

「ブレードランナー/ブラックロータス」

これ、日本でまだ配信されてないっぽいけど、ぶっちゃけ、ネットで全13話見れますからね?
Google等のネットで「BLADERUNNER BLACKLOTUS」と検索かければ、なぜか海外サイトに日本語吹替版がアップされてます。
アラビア語の字幕ついてるけど・・(笑)。
ちなみに、これは

プロデューサー/渡辺信一郎(「カウボーイビバップ」)
監督/神山健治・荒巻伸志(「APPLE SEED」)


というトリオでやってくれてるんだわ。
資本は、全部アメリカが出してくれてるっぽい。

あぁ、こうやってオンナノコに日本刀を持たせちゃうあたりは、神山さん、アメリカ人のムチャブリにきっちり応えたんだろうなぁ・・(笑)。

で、内容は、リアルフォト系3DCGなんだよね。

今回は予算が結構あったのか、なかなかの映像だった。
ストーリーは「・・うん、まさしく海外ドラマだなぁ」という感じだけど、ひとつ「攻殻」ファンにはめっちゃ嬉しいサービスショットがあって、確かそれが第9話だったかな?
直接のネタバレは避けるけど、そのシーンはマジで鳥肌立ったわ~。

これ、ヒントね

・・よく考えりゃ、「ブレードランナー」ってサイバーパンクの本家だもんな?

「攻殻SAC」から約20年を経て、いよいよ彼はサイバーパンクの本丸に辿り着けたということか・・

ビジュアルがほぼ「BLOOD」だねw

それも全て、かつて「押井塾」で培った「企画力」「コーディネート力」の賜物だろう。
そういうのを持った人が最後に生き残るってのも、やはりひとつの真理なのかもしれない。


いいなと思ったら応援しよう!