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凄い才能が集結!「老人Z」はトキワ荘のごとし

今回は、「老人Z」について書きたい。
これは1991年公開の劇場公開作品である。
何より、これは制作スタッフが凄い。

原作、脚本、デザイン・・大友克洋(「AKIRA」原作、監督)
監督・・北久保弘之(「BLOOD THE LAST VAMPIRE」監督)
キャラクターデザイン・・江口寿史(「ストップ!ひばりくん」原作)
メカニックデザイン・・磯光雄(「電脳コイル」監督)
美術設定・・今敏(「パーフェクトブルー」「パプリカ」監督)
美監補・・神山健治(「攻殻機動隊SAC」「東のエデン」監督)
原画・・黄瀬和哉(「攻殻機動隊ARISE」総監督)etc

いやいや、30年以上前とはいえ、マジで豪華な顔ぶれである。
そりゃ、これだけのメンツが揃えばさぞや面白いアニメができるだろうし、実際にこれは面白い。
大友克洋には珍しく、ギャグ極振りの作品である。
ただ、大友さんのキャラ作画はいまいちギャグ系にフィットしないわけで、ここでは江口寿史を起用したのが大正解だったと思う。
なんせ、「キャラを描かせりゃ日本一の漫画家」だからね。

80年代から「日本一かわいい女の子を描く漫画家」と定評のあった江口寿史
才能は凄いんだけどすぐに仕事を放棄し、史上最も出版社を困らせた漫画家としても有名

この作品の3年前に大友克洋は映画「AKIRA」で一世を風靡してたんだが、さすがに「老人Z」は作風が違いすぎるので、思ったほどには「AKIRA」景気の恩恵に恵まれなかった作品である。
とはいえ、内容は実に大友さんっぽいドラマだ。
まず、主人公が老人というのが彼らしいじゃないか。
私が彼の漫画を初めて読んだのは「童夢」だったんだが、その内容は老人と女の子の超能力バトルだった。

「童夢」の悪役・チョウさん

「AKIRA」では老人みたいな子供が出てきたけど、「童夢」では子供みたいな老人が悪役として出てくるわけよ。
なんか、老人がバトルするってのが当時として凄いインパクトだった。
だけど、最近の「いぬやしき」「亜人」に見る老人vs若者のバトルって、「童夢」が元ネタなんじゃないかな?
ちなみに「老人Z」の主人公・喜十郎は、闘うとはいっても基本は寝たきりなんだけどね(笑)。

「老人Z」主人公・喜十郎

そう、30年以上も前の作品とはいえ、大友克洋は既に老人介護問題をネタにしてたのさ。
上の絵では喜十郎の体に複数のチューブが接続されてるけど、これは病気というわけじゃなく、総合商社・西橋商事が新開発したという、ひとり暮らし老人専用の介護ベッド「Z-001号機」の機能なんですよ。
寝たままで、食事、入浴、排泄の世話まで全部ベッドが自動でやってくれるというハイテクの最新機器なんだが、もともと喜十郎の介護ボランティアをしてたヒロイン・晴子は、チューブに繋がれて苦しんでる喜十郎を見て不憫に思い、彼を助ける為に厚生省や西橋商事と闘うことに・・というのが物語の骨子である。
ここでポイントになるのが、この「Z-001号機」を制御してるコンピュータである。
どうやらこれ、ただのコンピュータではなく、バイオコンピュータらしい。
バイオコンピュータ、つまり有機体、生体を使ってるんだね。

物語終盤に出てきた、バイオコンピュータ本体
妙な汁が垂れてるところからして、中には脳が入ってるのでは?

出た、大友克洋お得意の「保存された脳」。
思えば、「AKIRA」でもそうだったもんなぁ・・。

AKIRAの実体は保存された脳でした

このバイオコンピュータは、やがて「喜十郎の奥さん」という自我、模擬の人格を獲得してしまう。
つまり、実質「Z-001号機」は介護ベッドであると同時に、奥さんになったわけね。
さらに、「Z-001号機」は喜十郎の「鎌倉の海(奥さんとの思い出の場所)に行きたい」という想いを読み取り、彼を乗せて施設を破壊→脱走をするという超展開に。
当然、その暴走を食い止めようとする機動隊とのバトルになった。
しかし、「Z-001号機」はなぜか周囲の色々なものを取り込み、どんどんと巨大化してめっちゃ強くなっていく。

重機を取り込み、モビルスーツみたいになった「Z-001号機」

ここで面白いのが、「Z-001号機」を迎え撃つ機動隊サイドの機体である。
これが思いっきり、「攻殻機動隊」に出てくるタチコマなんだよ。

よく考えたら「老人Z」は1991年公開だから、「攻殻機動隊」がアニメ化されるよりずっと前である。
なのに、こっちで既にタチコマが出ちゃってるんだ?
まあ、神山健治や黄瀬和哉など、後に「攻殻」の監督になる人たちがここのスタッフにいるから不思議ではないのかもしれないけど、まさかタチコマのアニメデビューが草薙素子やバトーより早かったとはね・・。
一方で、「Z-001号機」が周囲の金属等を吸収して巨大化していく流れは、もちろん「AKIRA」由来のアイデアだろう。

色々取り込んで、腕がデカくなってる鉄雄
鉄雄と関係あるか知らんが、89年の「鉄男」(塚本晋也監督作)というカルト映画
これも色々取り込んで巨大化していく感じだったと記憶する

で、「Z-001号機」は予想以上に強いのよ。
介護ベッドなのに軍用機を相手にしても一歩も引かないって、どんなベッドやねん?
最後はヒロイン・晴子や老人ハッカー軍団の協力を得たこともあり、見事に軍用機を倒す。
主人公の喜十郎は、最後まで特に何もしてないのが笑える(操縦してないと思う)。
しかし「Z-001号機」の良妻っぷりには泣けるし、喜十郎もまた痴呆になっても奥さんへの想いは決して忘れてないという、両者の絆の強さには感動した。
そして、晴子の「お爺ちゃんを鎌倉に行かせてあげたい」という強い信念。
ボランティアの彼女がなぜここまで体を張るのかというと、彼女にはかつて実の祖母を老人ホームで孤独に死なせてしまったという後悔があり、これは彼女なりに自らに科した贖罪なのかも・・。

喜十郎支援の為なら、めっちゃ体を張る晴子

最後、喜十郎には「お迎え」が来るんだが、想定してた「お迎え」の意味と全然違う!

さらに巨大化して、お迎えにきた「Z-001号機」
思わず合掌する一同と、喜ぶ喜十郎

そうか~、クライマックスで「また、すぐ会えますよ」と「Z-001号機」が言い残したのは、こっちの方の意味だったのか・・。
まあ、喜劇らしいオチですな。

とにかく、完成度の高さには驚かされる作品である。
91年制作なのに、この作画のレベルの高さは一体何なの?
今と全く遜色ない。
それにキャラの着てる服も細かいところまで描写できてるし、この時代ってまだそういうところはテキトーなのが主流だったのに、この作品はきっちりしてる。
サボリで有名な江口寿史のクセに、いい仕事してるじゃないか。
メカの描写も、めちゃくちゃいい感じ。
このクオリティの高さは、やはり映画だからだろう。
ぶっちゃけ、80~90年代のテレビアニメは作画が酷くて見るに耐えない
ものが多いんだけど、それは純粋にテレビならではのタイトなスケジュールの弊害だったのかも。
アニメーターも、今ほど多くなかった時代だ。
その点、映画やOVAならばテレビほど締め切りがきつくはないだろうから、ある程度こだわりの仕事もできるんだろう。
宮崎駿が、ある時期からテレビと縁を切ったのもそれがあるだろうし。
つまり80~90年代のアニメを見るなら、テレビよりむしろ映画やOVAを見るべきなのさ。
その代表的なところを挙げれば、宮崎駿、高畑勲、押井守、そして大友克洋だろう。
「AKIRA」なんて、作画が80年代とは思えないクオリティだよ。
そして、今回取り上げた「老人Z」もまた、できればそれら名作の中に加えておいてほしいです。

なんか、浦沢直樹っぽさもあるキャラデザだよね
晴子さんは、本当に可愛いキャラだった

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