「攻殻機動隊」の百年後、「アップルシード」の世界
今回は、「アップルシード」について書こうと思う。
これは言わずと知れた、「攻殻機動隊」と並ぶ士郎正宗先生の代表作。
よって今まで何度となくアニメ化されており、それらをざっと挙げれば以下の通り。
①OVA版アニメ「アップルシード」(1988年制作)
⇒2Dアニメ
②劇場版アニメ「APPLESEED」(2004年制作)
⇒3DCGアニメ
③劇場版アニメ「EX MACHINA APPLESEED SAGA」(2007年制作)
⇒3DCGアニメ
④ネット配信アニメ「APPLESEED XⅢ」(2011年制作)
⇒3DCGアニメ
⑤劇場版アニメ「Appleseed Alpha」(2014年制作)
⇒3DCGアニメ
結構多いでしょ。
でもこれらの作品、実はシリーズとして成立してないんだ。
一応②と③は繋がっているが、あとの①、④、⑤は各々独立したもので設定も微妙に違っていたりする。
だから、①から順に見ていく必要は全くない。
もし「お薦めは?」と聞かれれば、私なら②と③のセットか、あるいは単体で⑤か、その二択だと思う。
ぶっちゃけ、①と④は画の感じがあまりよくないから。
じゃ、①と④に見る価値がないといえばそういうわけでもなく、たとえば①は悪役として若本規夫さんが出てるんだが、あの若本さんが普通に演技してるんだよ!
この人、実は普通に喋れたんだね。
あと、④はヒロインのデュナン役を坂本真綾が演じてる(他のは違う声優)というプレミア感がある。
そういう意味じゃ、①も④もそれなりに見る価値はあるのよ。
ただ画のクオリティを見る限り、②③⑤との間に大きな開きがある。
②と③はセルアニメ風に加工した3DCG、⑤は実写風に見える3DCG。
どっちがいいかは、好みの問題である。
「日本で実写風はウケない」といわれてる一方、逆に「欧米では実写風の方がウケる」という説もあり、あるいは⑤って海外市場狙いだったのかもね。
ちなみに、②③⑤全てが荒巻伸志監督作品である(①と④は違う)。
個人的には、作品の完成度でいえば⑤が一番だったかと。
事実、これをジェームズ・キャメロンが絶賛してたし。
あと、VFX-JAPANアワードで最優秀賞を受賞したらしい。
実際に見て、「これホントにアニメか?」と思うはずだよ。
見てくれ、このオッパイの質感!
このオッパイだけでも、荒巻監督がワールドクラスのCGクリエイターだと納得できる。
ただし、彼は最近「攻殻機動隊2045」を作ったんだけど、こっちの方はまた「セルアニメ風に加工した3DCG」に戻してるんだよね。
さすがに「攻殻」は、国内アニメファン市場を捨てきれないってこと?
うん、彼の中で使い分けがあるということだろう。
そもそも、「アップルシード」は国内より海外での方が人気が高いという話すらあるんだ。
間違いなく日本での人気は、【攻殻>>>アップルシード】だろ?
でも、海外では必ずしもそうとは言い切れないらしい。
いやもちろん、総合的には海外でも攻殻の方が上だと思うよ。
とはいえ、「攻殻は難しくてよく分かんない」という声が海外では多いんだそうだ。
その点、「アップルシード」はシンプルなアクション作品で、頭からっぽにして楽しめる構造である。
ひたすら弾丸ぶち込んで爆破して、シンプルにドツキまくるバイオレンス系のやつだから。
原作は読んでないからどうなのかは知らんが、少なくともアニメの両作品は系統が全く違う。
ターゲット層が違うのかも?
アメリカは、かなり「アップルシード」の評判がいいよね。
日本に比べ、DVDがめっちゃ売れてるし。
あそこは合衆国だから色々な民族がいて、極めて賢い人たちがいる一方で、知的水準の低い人たちもまた大勢いる国である。
そういう人たちをひっくるめてビッグな商売をするのが米国流であり、そこは日本と少し違うといえる。
日本だと、オタク市場に小難しいオタク向けコンテンツを発信するのが普通でしょ?
そこでは「難しくてよく分かんない」なんてクレームはきっと出ないはずで、むしろオタクは喜々として小難しいのを研究・考察したりするもんですよ。
実際、私もそのクチだし・・。
だけどアメリカは、そういうニッチな市場より「全米に見てもらおう」的なアメリカンドリームっぽいマーケティングをする癖があり、どちらかというと全市民に通じるほどの分かりやすさ優先で、敢えてコンテンツの知的水準を下げてきたりもするのさ。
ひとつの例として、皆さんはこの「アフロサムライ」を見たことある?
これは日本のGONZOという制作会社が北米市場向けに作ったものなんだが、めっちゃシンプルなアニメなのよ。
主人公のアフロは黒人のサムライで、親の仇を討つ為に旅をしており、その旅の道中、刺客たちが次々襲ってくるという設定。
ストーリーは、刺客が来る⇒撃退⇒刺客がくる⇒撃退、延々とそのループ。
ひたすら、バトル、バトル、バトル。
アメリカって、結構刺激的なバイオレンス描写が好きよね。
何といっても、こういうのが一番分かりやすいからだろう。
結果的に、この作品は円盤・ゲームともに40万本以上を売り上げ、劇場版はエミー賞受賞という成功をおさめた。
日本には逆輸入という形で公開されたんだが、さほど話題にもなっていないよなぁ。
いかに、日本とアメリカの求めるものが違うか、だ。
というか、GONZOも日本で売る時はせめて日本語吹き替え版を作っとけよ。
そりゃまぁ、サミュエルLジャクソンやルーシーリューみたいな大物を声優に使った以上、それをヘタに日本語吹き替えで潰したくない気持ちも分かるけどさ・・。
なんていうか、日本よりアメリカでやたら売れるアニメというのは確かにあって、川尻善昭作品もそうだし、あと梅津泰臣の作品も忘れちゃいかん。
アメリカで売れてる梅津泰臣の作品は、上のふたつである。
どっちもエロ&バイオレンスで、R指定なんだわ。
興味ある人は、ネットで海外サイトを検索してみて。
普通に無料で見れるはずだから。
ようは、エロ&バイオレンスって人間の本能に訴求する系のやつだし、そこに国境線は全く関係ないってことさ。
川尻さんも梅津さんもそこを分かってるようで、日本のアニメがアメリカで成功するコツは次の3つ。
・構成が分かりやすくシンプルであること
・バイオレンス描写があること
・エロ描写があること
なるほど。
「Appleseed Alpha」でデュナンの戦闘服の胸の開きが気になってしようがなかったが、あれはアメリカ市場仕様ってことね?
さて、「アップルシード」に話を戻そう。
なんか上記の内容だと「アップルシード」が頭悪い系のアニメと誤解させてしまったかもしれんが、そうではない。
やはり士郎先生の作品だけあって、一応この物語の世界設定は「攻殻の時代の約100年後」なのよ。
そうそう、「SAC2ndGIG」に出てきたゴーダという男、覚えてる?
こいつが仕切ってた「ポセイドン」という企業があったんだけど、草薙はゴーダを倒したものの、どうやらポセイドンはその後も健在だったようで、「アップルシード」の時代にはここが日本を実質支配下に置き、世界最大の企業国家にまで肥大化してしまってるのよ。
おいおい、22世紀には日本がポセイドンに合併吸収されちゃったのか?
でもって、「攻殻」でもお馴染みの多脚式ロボ(タチコマ)が、「アップルシード」の時代にはめちゃくちゃ巨大になってるのよ。
それにしても、「攻殻」では草薙らがあれほど日本の治安維持に頑張ってたのに、その百年後には日本という国すらなくなってるなんて(しかもゴーダのところに支配されるなんて・・)、ちょっと胸クソ悪い。
・・というわけで、「攻殻」の延長線上の物語として「アップルシード」を楽しみたいなら、
①攻殻機動隊SAC2ndGIG
②APPLESEED(2004年)
③EXMACHINA APPLESEED SAGA(2007年)
以上の順番で、3点セット視聴するのがいいかもしれない。
①でゴーダ(ポセイドン)の闇を知り、②でデュナンの目を通して「攻殻」から百年後の世界情勢を知り、③ではポセイドンの闇と対峙するデュナンの活躍を見る、という流れのイメージだ。
すると、「アップルシード」がただの頭悪い系アニメじゃないことが分かるはずだよ。
そんなのメンドクセーという人は、最新の「Appleseed Alpha」だけでいいかも。
出来は一番いいし、これはそのうち続編ありそうな終わり方だったから。
何にせよ、あの天才・士郎正宗がシミュレーションした22世紀の世界情勢というだけで、「アップルシード」は絶対見ておかなくちゃいけないアニメだと思う。
海外向けのコンテンツと割り切るには、あまりにも惜しい作品である。