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実家を抵当に入れてでも作りたかった「赤い光弾ジリオン」
今回は、タツノコプロについて書いてみたい。
タツノコプロといえば、アニメ黎明期の東映動画、虫プロ、東京ムービーと並ぶ、四強の一角である。
これらは、東映が<先駆者としてのノウハウと人材>、虫プロが<手塚治虫(漫画家)>、東京ムービーが<藤岡豊(プロデューサー)>など、各々の強みを持ってたわけだが、じゃタツノコプロの強みは何だったかというと、それは<吉田竜夫(漫画家)>だね。
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<吉田竜夫の原作アニメ>
・マッハGOGOGO
・ハクション大魔王
・みなしごハッチ
・科学忍者隊ガッチャマン
・新造人間キャシャーン
・破裏拳ポリマーなど多数
結構、会社として吉田竜夫という個人の才能に依存をしてたと思う。
だけど不幸なことに、彼は45歳で早逝してしまうのよ・・。
それが1977年のことだから、「ヤッターマン」をやってた頃の話。
で、ここは基本、ひとりの天才に依存する会社の構造だったゆえ、彼の逝去に伴って、その後アニメーターたちが続々とタツノコプロを離れていくことに・・。
なお、初代社長は吉田さんだったんだが、実は彼にはふたりの弟がいたわけで、その弟たちが彼のあとを継いだ2代目社長、3代目社長である。
ようするに、同族会社だね。
でも、この弟たちは、アニメーターたちの離反を止めることはできなかったのよ。
その離れていったメンバーが、後に「ガンダム」等で名を馳せることになる大河内邦男だったり、後に天才イラストレーターとしての名を馳せることになる天野喜孝だったり、とにかく「ヤッターマン」が
メカデザイン/大河内邦男
キャラクターデザイン/天野喜孝
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となってるのは、なんか今考えるとスゲーよなぁ、と思う。
・・あ、もちろん押井守もタツノコプロだよ。
彼の場合は、タツノコプロを去った後にスタジオぴえろに行ったんだけど、このぴえろというのはタツノコプロ離反組の一角である。
そういう系譜を、まず頭に入れておいてください。
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でもね、私としてはタツノコプロから出て行った押井守、大河内邦男、天野喜孝、鳥海永行、西久保瑞穂、真下耕一といった多くの才能の流出よりも、最も会社としてダメージ大きかったのは
石川光久(Production I.G創設者)の独立
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いやマジで、これが一番効いたダメージだったと思うのよ。
なんせ、「竜の子制作分室」メンバーをごっそり連れての大量離脱だったんだし。
この分室というのが、後のProduction I.Gだね。
石川さんは元々この分室の責任者だったわけで、彼はそこで一体何してたのかというと、ひとつの新作アニメを作ってたんだよ。
そのアニメというのが、この作品である↓↓
「赤い光弾ジリオン」(1987年)
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石川光久、タツノコプロにおける唯一にして初めてのプロデュース作品ね。
これ、めっちゃ名作なのに、なぜか意外と話題にされることの少ない作品である。
とはいえ、1987年の「日本アニメ大賞」(アニメ5誌共同主催)ファン投票で作品賞/男性キャラ賞/女性キャラ賞の三冠を獲ったとのことで、当時としても人気あったんじゃないのかな?
タツノコプロ的に、かなり成功した作品といっていい。
噂では、あのマイケルジャクソンが本作のファンだったらしいぞ。
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ただ、吉田家としては当初、石川さんにこれの制作を任せるつもりとか全然なかったらしいのよ。
そりゃ、そうだろうな。
まだ何の実績もない28歳の若僧だし、一応大卒だけど明星大学とかいうよく分からん私立出身だし、そして何より
見た目が少しアホっぽいし・・
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私は彼って、ちょっとアホかも?と思ってるのね。
そもそも、彼はタツノコプロに入った時の経緯からして、
この会社は劇団関係の仕事をするところなんだと勘違いをして入ったらしいのよ
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・・ただのアホやん(笑)。
でも、めっちゃ熱い人なのは間違いないだろう。
彼は中学、高校ともに野球部の主将だったらしく、俗にいう体育会系?
なお、彼はこの「ジリオン」の制作をやる為の資金捻出として
まず親(農家)を説得し、実家の土地/家屋を抵当に入れました(笑)
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で、その後に吉田家に「ジリオン」を自分にやらせてくれ!と直談判をしたらしいんだが、どう考えてもこれ、順序がおかしいよね?
もし、そこで吉田家に断られてたら、もう既に抵当に入っちゃってる実家の土地と家屋はどうなんのよ・・(笑)。
でも、さすがに実家を抵当に入れてまで交渉されたら吉田家も圧倒されたのか、結局「ジリオン」は石川さんに一任されることに。
ただし、ここでタツノコプロってエグいな~と思うのが、彼らが石川さんに与えた制作費予算は
なんと1話当たり、僅か580万円・・
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1986年当時でも、やっぱ1話当たり1000万を切ると正直キツイよ~。
これ、暗に「実家を抵当に入れて作ったおカネ、あるんだろ?」と言ってるようなものじゃないか?
いや、彼はやはり体育会系気質なのか、その逆境を見事にはねのけるんですわ。
彼は、必死で「ジリオン」制作の人材を集めた。
<竜の子制作分室スタッフ>
【監督/西久保瑞穂】
押井守らと並ぶ「タツノコ四天王」の一角
【キャラデザ/後藤隆幸】
後の「攻殻SAC」作画監督
【作画監督/浜崎博嗣】
後の「STEINS;GATE」監督
【原画/沖浦啓之、黄瀬和哉】
後のProduction I.G主力アニメーター
【絵コンテ/押井守&うえだひでひと】
クレジットでは偽名を使ってるが、「四天王」の彼らも参加している
【OPアニメ/なかむらたかし】
言わずと知れたアニメ界のレジェンド
さらに、石川さんはこの当時無名だった京都アニメーションをよく知ってたらしく、実は原画のかなりの部分を京アニの協力に頼っている。
つまり「ジリオン」は、<沖浦+黄瀬+京アニ>という、夢のコラボだったわけだね。
・・いやしかし、これだけのメンバー揃えると予算1話当たり580万がネックになったと思うんだが、そこは正直、どうなったのかよく分からん。
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で、上の画が「ジリオン」主人公のJJである。
彼のキャラは、馬鹿、熱血、お調子者、オンナ好きなんだわ。
最近改めて「ジリオン」見て気づいたが
JJって、まんま石川光久の分身だよね?
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事実、石川さんはJJさながらにオンナ好きを発揮したのか、デザイナーとして「ジリオン」制作に参加してくれていた初代社長の娘さんとデキちゃうのよ(笑)。
そんなヤバいところに、よく手を出せるよなぁ・・。
ただ、それだけならまだしも、監督の西久保さんまでヒロイン・アップル役の声優・水谷優子さんとデキちゃったんですわ(笑)。
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後に、石川さんも西久保さんもこの時にデキた相手と結婚するわけだけど、こういう流れを見てるだけで、何となく分室の雰囲気が分かるでしょ?
そう、「ジリオン」制作現場は、リア充空間と化していたんです(笑)
だってさ、時代は80年代バブル絶頂期、分室に若いメンバーばかり集まってたら、そりゃそういうことにもなるでしょ?
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で、そういう分室の空気がそのまんま「ジリオン」にも反映されてるというか、見てもらえばご理解いただけるかと思うけど、この作品、かなりリア充寄りです。
内容はエイリアンに侵略され、人類が駆逐される系の残酷な話だというのに、不思議と物語のテイストは甘酸っぱい青春系。
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1話完結が基本で必ず最後は敵を撃退するんだが、それも少年ジャンプ系の敵がどんどん強くなっていくような「インフレーションシステム」を採っておらず、闘う敵は毎回いつも同じ。
ひたすら、定型パターンのループである。
「ガンダム」みたく、ドラマを見せようという意思も特に感じない。
とにかくガンアクションを魅せることのみ専念してシナリオを重視しない、シューティングゲームみたいな作品さ。
だから登場人物も、めっちゃ少ない。
主要キャラは、10人にも満たないのでは?
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もともとは、玩具販促用のアニメなのね。
その玩具というのが、これ↓↓
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この玩具、実はちょっと問題があったみたいで、これ光線銃なんだけど
バッテリーがすぐに切れるらしい・・
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で、「ジリオン」のうまいところはその商品の問題を逆手にとり、
アニメの中でも、銃はすぐバッテリー切れするという設定にしたのよ
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もはやシリーズも終盤にいくと「敵をどう倒すか」より「バッテリー切れをどうしようか」の方がメインテーマになっちゃって、これが見ててハラハラする感じで私は結構好きだった。
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あと、敵が全員同じ顔ってのも、ややこしくて私は好きだ
みんな同じ顔だし、そこにカッコいいとかカッコ悪いとかの差はないと思うだろ?
いや、ひとり、めっちゃカッコいいのがいるのよ。
リックス(cv速水奨)
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このリックスだけ唯一のイケメン枠で、なぜか終盤から黒い馬に乗って登場する設定に変更され、「ラオウみたいやな」と薄々思ってたんだが、こいつの最期は
自分の人生に後悔はないと言い、右の拳を天空に掲げて石化・・w
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このへん、スタッフが完全にフザけてるというか、ノリで描いてるというか、彼らが
「リックスの最期とか、いっそラオウっぽくしない?」
「いいね~!」
「そうだ、右腕挙げて石化とかどう?」
「ギャハハ、超ウケる~!」
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と盛り上がってるノリが目に浮かんでくるよ。
こいつら、多分この時のノリのまんま
「いっそ分室で独立して新会社作っちゃう?」
「ウェ~イ!」
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みたいな感じでProduction I.Gを立ち上げちゃったんだろう。
このまま解散するにはあまりに名残り惜しい・・と思えるチームのノリ。
確か、BONESの例も「カウボーイビバップ」の制作班がまるごとサンライズから独立した流れだっけ?
いや、こうして皆で新会社を立ち上げるのも確かにいいんだけど、それより
両親が住む実家を抵当に入れてしまったこと、石川さん、忘れてないよね?
私はむしろ、そっちが気になってしようがない。
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