レジェンドの尽力により、秀作となり得た「ザ・ファブル」
皆さんは、アニメ「ザ・ファブル」って見てる?
私は見てる。
これの原作はヤングマガジンに掲載されてた人気漫画で、今までに2度実写映画化されたほどの超有名作であり、今回のアニメ化は「何を今さら」感が正直ないわけでもない。
ただひとつ、注目ポイントはこれの制作が「手塚プロダクション」だということ。
皆さんは、今まで疑問に思ったことはない?
「そもそも虫プロと手塚プロは、何がどう違うんだろう?」と。
そうだよね。
虫プロは大昔に倒産し、でも手塚プロは今なお生き残っている。
どっちも手塚治虫先生が作った会社だというのに、この差は何?
どうやら、もともとは
虫プロ⇒アニメ事業
手塚プロ⇒漫画事業
という分け方だったらしい。
ところが、虫プロの倒産に伴ってかは知らんけど、いつの間にか手塚プロにアニメ部門というセクションができてたからややこしいのよ。
これ、何なんだろう。
それこそ、蕎麦屋なのに新メニューでラーメンを出してるかのようなもんである。
・・いやね、私が昔よく行ってた蕎麦屋で、実際そういう店があったのよ。
裏メニューで常連相手にラーメン出してたら「蕎麦より美味しい」と評判になり、いつの間にか、ご近所で「ラーメンの美味しい蕎麦屋」として超有名になってましたわ(笑)。
で、手塚プロについては「ラーメンの美味しい蕎麦屋」とならなかったようで、いやむしろ、【手塚プロ=作画崩壊】という方が有名になったと思う。
たとえば、これね↓↓
そう、一時話題になった「五等分の花嫁」作画崩壊問題。
この作品、本来は「顔が同じ五つ子の姉妹」という設定だというのに、上の画を見ての通り、
肝心の五つ子の5人が全く似てない(笑)。
これほど安定感のない作画も前代未聞である。
そして、これが一躍手塚プロの名を世に知らしめたといっていいだろう。
じゃ、今やってる「ザ・ファブル」も大丈夫かいな?と心配する人もいるだろうが、ご安心あれ。
ここにきて手塚プロは、昔の人脈、すなわち旧虫プロのベテラン作家たちに救いを求めるようになったのよ。
この作品は、監督に高橋良輔、また総作画監督に杉野昭夫という虫プロ2大レジェンドを投入してきやがった。
さすがにこの御二人も、手塚先生のご子息に依頼されたら断れないかもしれないね。
特に作画に問題があった手塚プロとして、あの天才・杉野昭夫を引っ張れたのはめちゃくちゃ大きいだろう。
かつては虫プロで、あの「ジャングル大帝」(1966年)の作画監督を務めたというレジェンドである。
多分、ファブルの頭の上に乗ってるインコは、杉野さんが描いているに違いない(笑)。
無二の相棒だった出崎統さんを失ってから一体何をしてたのかと思ったら、今こうして手塚プロで描いてるんだね。
杉野さんが作画監督をやるのは、出崎さんの遺作、「源氏物語千年紀」以来だという。
そして、あともうひとりの大御所、高橋良輔監督。
私、この人の作品が昔からツボなんだよなぁ。
彼は虫プロ作品より、サンライズで作った「装甲騎兵ボトムズ」が一番有名だろう。
そこで彼が考案した機体は、「モビルスーツ」とは似て非なる「アーマードトルーパー」なんです。
このふたつがどう違うのかというと、前者が全長20m前後なのに対し、後者は全長4m前後とされている。
サイズ的に、アーマードトルーパーはガンダムの5分の1。
でもって、これはガンダムに比べてめっちゃ壊れやすいみたいで、すぐ爆発します(笑)。
うん、おそらく機体のスペックとして、アーマードトルーパーはサンライズ史上最弱だと思うのよ。
でね、機体がすぐに爆発するもんで、「ボトムズ」の主人公キリコは機体を「使い捨て」の武装として扱うわけさ。
このへんが、「ガンダム」の価値観とは全く違う。
「ガンダム」みたく、全く機体を神聖視してないんだから。
あくまでこれは「道具」である、と。
このへんの思想をさらに鋭く尖らせたのが、「ボトムズ」の外伝となるOVA「機甲猟兵メロウリンク」である。
これも高橋良輔原作モノなんだが、本編「ボトムズ」に負けず劣らず面白いので、是非機会があったら見てみて。
多分、ネットで「mellowlink」と検索すればいけるから。
本作の何が面白いかというとね、大体これはアーマードトルーパーの戦記物なのに、主人公メロウリンクは機体に全く乗らないのよ(笑)。
逆に生身の歩兵として装甲機体を倒すという、かなりめちゃくちゃな設定である。
ちなみに、彼の戦闘スタイルは大型の銃や爆弾を使う形で、基本は攪乱系。ただ、なんせ相手は装甲が厚いアーマードトルーパーゆえ、離れた距離からでは相手にダメージを与えられない。
よって、最後は「ゼロ距離射撃」で内部の操縦者を殺すしかない。
このへんのバトルが、なかなか見応えあってね~。
弱い武装で強い武装を倒すというのは非常に難しいが、そこは創意工夫である。
そこらに落ちてたものをうまく利用してトラップを仕掛けるとか、そのへんがメロウリンクはプロである。
ああ、そうか。
ようするに今やってる「ザ・ファブル」って、 「メロウリンク」を現代日本に舞台を移したというだけの同一コンセプトじゃん?
なるほどね。
なぜ、高橋監督が今敢えて「ザ・ファブル」をチョイスしたのか、ちょっと狙いが見えてきた気がするよ。
さて、「ザ・ファブル」について少し触れておこう。
本作は、伝説のプロの殺し屋・ファブルが、「一年間誰も殺さずに一般人のように暮らす」というミッションをボスから与えられてしまい、それに日々悪戦苦闘・・という感じのドラマである。
一応コメディタッチではあるけど、作中にヤクザとかたくさん出てくるし、本筋はクライムサスペンスといったところかな。
まぁ、高橋さんや杉野さんといった大ベテランのご尽力もあって、ちゃんと安定感ある作品に仕上がってたと思う。
スタッフだけじゃなく、実はcvの方も大塚明夫、津田健次郎、子安武人といったベテランで脇を固めてるから、かなり安心して見てられたよ。
やっぱりアニメの出来不出来って、最後の最後は結局人脈だよね。
あと、私がこの「ザ・ファブル」アニメ化で最も注目してたのは、ヒロインふたりのcvだったんだ。
見ての通り、原作者・南勝久先生の絵って下手とかそういうのじゃないんだけど、ただ、リアル作画寄りなので女性に萌え要素がほとんどないのよ。
ぶっちゃけ、綺麗ではあっても可愛くはない感じ。
そのへんでいうと、私は先に実写映画版の「ザ・ファブル」を見てたので、そっちの方が逆に萌えたんだよね。
このアニメ化については、果たして木村文乃、山本美月の魅力に勝てるか、というのがひとつのポイントだったと思う。
結構、ハードル高い要求だったと思うんだけど。
で、起用された声優はヨウコが沢城みゆき、ミサキは花澤香菜という大御所でしたわ。
しかし結論をいうと、御二人ともとても良かった。
特に沢城さんのヨウコはゲスっぽくていいね~。
バーで男を泥酔させ、ロレツが回らなくなってるのを見て悦ぶという趣味がヨウコにはあるみたいで、このへんの沢城さんの小芝居が実に秀逸だった。
このヨウコという役、清純派のミサキ役なんかより全然おいしいよね。
まぁ、本作は実写版の方が先行してたし、ファブル=岡田准一のイメージが定着してた人から見ると、アニメの方は「地味っ!」って感じだったかな。
でもまぁ、こっちの方が原作準拠だからいいんじゃない?
あと、作監がレジェンド杉野昭夫だからといって、全く杉野さんの画風とかなかったのも逆に良かったと思うよ。
・・ああ、そういや、作中でファブルがこういうこと言ってたっけ。
「名前を残したいとか、生きた証とか、 そういう痕跡すら全く残さない。
存在を知られない。
それが、この世界のプロや」
これってひょっとして、杉野昭夫=ファブルという意味なの(笑)?