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「モノノ怪」「空中ブランコ」に見る、ノイタミナ00年代の前衛性
聞けば、今夏に「モノノ怪」の劇場版が公開されるらしいね。
思えば「モノノ怪」の放送は2007年だったので、あれから十数年を経ての映画化か・・。
この作品を知らん人の為に説明すると、まずはフジテレビ「ノイタミナ」枠の成り立ちから説明せねばなるまい。
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少女漫画の名作、羽海野チカ先生の「ハチミツとクローバー」。
これの映像化権をフジテレビが買ったところから全てが始まったんだ。
フジテレビとしては普通にテレビドラマ化を想定してたっぽいけど、集英社から「まずアニメで」という申し入れがあったという。
どうやら、その時点で蒼井優主演の映画化企画が動いてたらしく、メディアミックスプロジェクトとして
【2005年】テレビアニメ「ハチクロ」スタート
【2006年】映画「ハチクロ」公開
【2007年】テレビアニメ「ハチクロ」2期
【2008年】テレビドラマ「ハチクロ」放送
という流れを想定してたみたい。
で、「ハチクロ」の為に急遽作られた枠がノイタミナ。
その時に全く別の企画で、同じく少女漫画の名作「パラダイスキス」アニメ化プロジェクトも社内で動いてたらしく、じゃ「ハチクロ」⇒「パラダイスキス」でノイタミナはいっそ女子向けコンセプトにしよう、となかば後付けの企画趣旨が出来上がったんだね。
やたらテキトーに思えるけど、この「女子向け」というコンセプトは意外と悪くなかったんだよ。
その論拠として、次のアンケート結果を見てくれ。
ノイタミナ歴代アニメ人気投票アンケート
【1位】
BANANA FISH(1060票)
【2位】
PSYCHO-PASS(678票)
【3位】
ヲタクに恋は難しい(506票)
【4位】
あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない(436票)
【5位】
ギヴン(413票)
以上がTOP5なんだが、これ見て「はぁ?」と思うでしょ。
「四月は君の嘘」「冴えない彼女の育てかた」「僕だけがいない街」「東のエデン」「甲鉄城のカバネリ」「四畳半神話大系」「東京マグニチュード8.0」といった名作が入ってないじゃないか。
それにダントツ1位の「BANANA FISH」って、これどう見てもBLじゃん。
あと、5位の「ギヴン」も。
つまりノイタミナは、フジテレビの企画趣旨通りに女性層(腐女子)確保に成功したともいえるわけね。
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さて、ノイタミナ成立経緯の話を戻そう。
ノイタミナは「ハチクロ」と「パラダイスキス」までは既定の路線だったとして、「じゃ、その後どうする?」という話になったと思うのよ。
そこで「もっと革新的なモノを」という、ノイタミナのもうひとつの基軸が生まれたわけさ。
そこで作られたのが「怪ayakashi」という作品である。
「ハチクロ」「パラダイスキス」と違って、ノイタミナ用に作られた初めての企画。
内容は日本の怪談をモチーフにした和テイストのオムニバス作品で、初回ということで予算もかけ、かなり気合いの入った出来になっている。
特に凄いのが、中村健治監督が担当した第9~第11話、「化猫」だ。
これは、アニメ史に残る大傑作だと思う。
和テイストでありながらサイケデリックな映像美、怪談をベースとしつつもミステリー仕立てのプロット、主人公「薬屋」を演じる櫻井孝宏の妖艶さ。
私、これ初めて見た時は震えたよ。
で、案の定というべきか、「怪ayakashi」オムニバスの中から「化猫」だけが抜擢され、「モノノ怪」という新アニメが制作されることになった。
もちろん、中村監督や櫻井さんは続投。
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主人公の薬屋は謎めいた人物だが、おそらく人間ではないだろう。
江戸時代でも大正時代でも、全く変わらない容姿で登場してるから。
耳が尖ってるところからして、不老長寿のエルフ?
彼の仕事は、「もののけ」を斬ること。
彼いわく「もののけ」と「あやかし」は定義が違うらしく、「あやかし」というのは「この世ならざるもの」全般を指すのに対し、「もののけ」は人間の情念・怨念がそれに結びついて人を祟るものだという。
封じるのは「もののけ」の方が難しく、退魔の剣で斬る以外に方法はない。ただし斬るには「形(視覚)」「真(実体)」「理(成り立ち)」の3つを解明しなければならず、よって薬屋は関係者への聞き込みで「なぜもののけが生まれたか」を解明する探偵のような役割を担っている。
このへんの推理小説的展開が何とも楽しい。
大体のパターン、祟られる奴は祟られて当然の非道なことをしてるんだけどね。
だけど薬屋が斬るのは非道な人間じゃなく、それを祟る「もののけ」の方である。
そこが何とも切なく、おそらく薬屋は「もののけ」と化した哀れな魂を斬ることで、何より恨みから解放して自由にしてあげたいんだと思うよ。
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「モノノ怪」も「怪ayakashi」同様、最終章を飾るのはまたしても「化猫」だった。
猫って、なぜか怨念と相性いいイメージがあるよね。
しかし、それはあくまでファンタジー世界の話。
実際の猫は怨念どころか、感情、自意識というものを持ち合わせているかも怪しく、腹減った、食おう、眠い、寝よう、ウザい、逃げよう、程度の思考しかしてないんじゃないの?
脳ミソ軽そうだもん。
そもそも、ちゃんとした知能があるなら「シュレーディンガーの猫」が箱に入れられても自らの意識で自分を「観測」し、「生と死が重なり合う状態」なんてヘンテコな状態には至らないよね(笑)。
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シュレーディンガーの猫こそ、半分死んで半分生きてる猫、これぞホントの「化猫」じゃないか!
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さて、これはノイタミナで中村健治監督が「モノノ怪」の次に作ったアニメ「空中ブランコ」である。
これまた「モノノ怪」に負けず劣らずサイケデリックというか、もはや前衛の極みといえよう。
上の画の人物は主人公の伊良部一郎で、彼は凄腕の精神科医。
この物語は、彼の医院を訪れる患者の病状を描いた群像劇であり、ブラックコメディながらも最後はホロリと泣ける、なかなかの傑作である。
しかしストーリーそのものより、気になってしようがないのが伊良部の助手を務める、ナースのマユミさんである。
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なぜか、毎回必ず極大の注射器を持って登場するわけで(登場する時の音楽も決まっている)、医院を訪れた患者は例外なく彼女に注射される。
そもそも精神科で注射は必要なのか?という疑問もあるけど、注射の中身はただのビタミン剤だという。
なんでビタミン剤を打つ必要があるのかは、特に説明してくれない。
多分、ドSと思われるマユミさんの趣味だろう(笑)。
で、このマユミさんが最初はアニメだったのに、途中から実写になってくるのよ。
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うん、なぜ実写になったのかは不明(笑)。
でもって、どんどんエロくなっていくもんだから私はマユミさん登場シーンを毎回心待ちにしたものである。
この注射シーンだけでも、「空中ブランコ」は十分見る価値あるアニメだと思う。
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そもそも、中村健治監督作品って攻めてるんだよなぁ。
中村さんは「空中ブランコ」以降、ノイタミナでは「つり球」「C」の監督を手掛け、もはやノイタミナ常連の監督といえるだろう。
ノイタミナ以外では「ガッチャマンクラウズ」あたりが有名かと。
「C」といい「ガッチャマンクラウズ」といい、かなり攻めてる野心作だよね。
「つり球」だけはヌルい青春SFだが、内容は「サマーウォーズ」中村版といったテイストで、どうやら彼は細田守監督をリスペクトしてるらしい。
いやいや、中村さんは細田守を目指すんじゃなく、もっと攻めるべきだ。
今回、「モノノ怪」の劇場版が実現したんだが、聞けばこれってクラウドファンディングで資金が集まったらしいじゃん。
そう、みんな中村監督には00年代の尖った作風を期待してるってことなんだよ。
ただひとつ残念なのは、これ以上ないほど薬屋のハマリ役だった櫻井さんが降板しちゃったこと。
例のスキャンダルのせいだろうね・・。
代わりは神谷浩史というこれまた大物の起用なんだが、神谷さんと櫻井さんじゃ、阿良々木暦と忍野メメぐらいのギャップがあるよ。
大丈夫かいな。
まぁとにかく、映画「モノノ怪」が公開される前に、まだ見てないという人はせめて「怪ayakashi」第9話~第11話だけでも見といてくれ。
かなりのお薦めですよ。
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