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荒木飛呂彦、不老不死説を知ってますか?

ルックバック」見て思ったことだけど、考えてみれば「漫画家が主人公の漫画」というのは意外と多いよね。

・バクマン
・かくしごと
・俺はまだ本気出してないだけ
・アオイホノオ
・ぼくだけがいない街
・月刊少女野崎くん
・アイアムアヒーロー
・まんが道etc

これはほんの一部で、実際はもっともっとあるだろう。
・・そうだ、漫画を描くシーンは皆無だけど、西原理恵子毎日かあさん」も主人公は西原先生自身だし、これも漫画家主人公カテゴリーに入るかと。

アニメ版「毎日かあさん」
実写版「毎日かあさん」

この作品については、アニメ版より実写版の方が私は好きなんです。
アニメはコメディ系で(それが原作に忠実なんだけど)、しかし実写は旦那さんのアルコール依存症、および癌の闘病の方にストーリーがフィーチャーされてて、どっちかというとシリアス系に仕上がっている。
いや、できれば2つとも見た方がいい。
欲をいえば、旦那さんの自伝小説の実写映画化作品「酔いがさめたら、うちに帰ろう」も見た方がいいかと。
これもシリアス系。
これら見てると、西原先生ってめちゃくちゃ苦労してる人生だというのに、それを「毎日かあさん」でコミカルに描いてるあたりが逆にスゲーなぁ、と思って・・。
というか、そのコミカルさが逆に切なく、やっぱり泣けてきてしまうけど。

「酔いがさめたら、うちにかえろう」

ようするに漫画家主人公の漫画って、その多くが「自分語り」なんだよね。
たとえフィクション(「ぼくだけがいない街」や「アイアムアヒーロー」)であっても主人公は作家自身の投影であって、どっちかというとイケてない人物像(俗っぽい、人間くさい人間)として描かれるものである。
少なくとも、漫画家がヒーローとして描かれることはまずない、と断言していいだろう。

・・いや、待て。
ひとつ例外あるわ。
荒木飛呂彦先生だよ。

「岸辺露伴は動かない」

漫画家を主人公に据え、尚かつカッコイイ系のヒーローとして描いてるのが荒木先生である。
・・先生、アンタどんだけナルシストなのよ(笑)。

荒木先生は、漫画界でもちょっと変わったタイプの先生といえよう。
あくまで都市伝説だが「荒木飛呂彦不老不死説」や「吸血鬼説」というのもあるらしく、実際、今は64歳なんだけど、上の写真とほぼ見た目が変わってないのよ。
どんなアンチエイジングをしとるんや?
アンタ、実はDIOか?

1503年から生きてるってことは、実年齢520歳以上?

でもまぁ、実際の荒木先生はとてもマトモな人で、気さくで明るくて、結構よく喋る人である。
良い意味でチャラい。
絵の印象からもっと気難しい芸術家肌を想像してたが、どうもそういう感じではないっぽい。
ただ、やはり美意識は人一倍強そうな印象はある。

先生いわく、岸辺露伴は自分と全く異なる「漫画家の理想像」として描いたとのこと。
とはいえ、その作家としての哲学は荒木先生自身のもののような気がしなくもない。
露伴は、作中でこう言ってるんだ。

「面白い漫画とは、どうしたら描けるか知ってるかね?
リアリティだよ。
リアリティこそが作品に命を吹き込むエネルギーであり、リアリティこそがエンターテイメントなのさ。
漫画とは、想像や空想で描かれてると思われがちだが、実は違う。
自分の見たことや体験したこと、感動したことを描いてこそ、面白くなるんだ」

「JOJOダイヤモンドは砕けない」第14話

・・うん、実際そういうものだと思う。
想像や空想だけで描いていては、必ずいつかはその源泉が枯れる。
やはりアウトプットするには、それに見合うインプットがないとキツイんだよ。
よって露伴は、そのインプットの為の「取材」に巨額のおカネを惜しみなく注ぎ込む。
ヒドイ時は、取材の為に山をまるごと買って破産したほどである。

映画「岸辺露伴ルーブルに行く」主演・高橋一生

一見露伴は破天荒に見えるけど、しかし荒木先生は「こういうのが漫画家としての理想」と考えているんだろう。
先生自身、結構海外に行ったりしてるみたいだし、取材という投資に対しておカネを惜しまないタイプなのかも。

でもさ、気をつけなきゃならんのがこのリアリティ追求の行き過ぎであり、自分の人生そのものを「取材」に重ね合わせちゃって、実際に心中を何度も繰り返して最後は死んじゃった太宰治の例もあるわけじゃん?
太宰ってさ、今の時代でいうなら「ムチャなことするYouTuber」そのものだよね(笑)。
割腹自殺した三島由紀夫も同じく。
私小説を書く小説家って、最後は自分の人生そのものを劇的なフィクションにしちゃう傾向があるのかと。

三島由紀夫もそうだったが、私小説を書く小説家は大体がナルシストである

さて、荒木先生に話を戻すけど、皆さんは「ジョジョ」以外の荒木作品って知ってる?
「岸辺露伴は動かない」は「ジョジョ」シリーズの一環だが、私はこれ結構好きでね。
大長編のイメージしかない荒木先生だけど、実は短編もめちゃくちゃ作るのが巧いことを教えてくれる作品である。
優れた作家であればあるほど、実は短編が面白いものだよね。
他にも漫画では色々あるんだが、お気軽にアニメで見られる作品としてこれをおススメしたいと思う↓↓

OVA「バオー来訪者」(1989年)

制作/スタジオぴえろ 総監督/鳥海永行

このOVAは1時間未満で1話だけだし、負担なく見られるから一回見てみて。
YouTubeで無料動画がアップされてます。

だけどさ、これはまだデビュー間もない頃の作品だけのことはあり、やっぱ「ジョジョ」や「岸辺露伴」と作風が全然違うんだよね。
今の荒木作品最大の特徴ともいうべき、「知性」が全く感じられない。
要は、なんか人体実験みたいなのを施されて不老不死になった男が、研究所を脱走して追っ手と闘っていく系の非常にシンプルなバトル作品なんだが、そのバトルはただドツキ合うばかりで、「ジョジョ」みたく頭脳の駆け引きみたいな要素がほとんどない。
でもって、ひたすら残酷でグロいんだ・・。

へぇ、荒木先生って、こういう頭悪い系のアクションも描けるんだ?と逆に新鮮ではあったんだけど、ただ、こういうのは他にも結構あるからな・・。
ちゃんと面白いにせよ、「荒木先生ならでは」という感じがしない。
これって、前述の「インプット」の問題だよね。
少なくとも、この時期の先生(24~25歳の頃)は「インプット」がまだ全然足りてなかったんだと思うわ。

ちなみに、私が荒木先生の「インプット」の凄さで一番ビビったのは、JOJO第6部の「ストーンオーシャン」である。

「ストーンオーシャン」(2021年)

これ、かなりの異色作だったよなぁ。
かわいいオンナノコを描けない荒木先生が(カッコいいオンナノコは描けるみたいだが)、オンナノコ主体の女子刑務所モノを描いたという挑戦(笑)。
で、ここで驚いたのは、「パラレルワールド」というか「マルチバース」というか、そういう並行世界の設定がかなり特殊だったのよ。

普通、並行世界って「同時進行する分岐した世界」として描かれるよね。
でも、荒木先生の設定はそれとは全く異なっていた。
多分だけど、この作品の発想はこれなのよ。

もともと、宇宙の終焉には3つの仮説があって、

・ビッグクランチ(宇宙が膨張から反転して収縮)
・ビッグチル(膨張が限界突破して冷えていく)
・ビッグリップ(膨張が限界突破して時空が裂ける)


おそらく荒木先生は上の3つのうち、「ビッグクランチ」説を採用してるんだね。
宇宙がギュ~っと収縮して極小の特異点となり、それがまた破裂してビッグバンが起きる。

ビッグバン⇒膨張⇒収縮⇒ビッグバン⇒膨張⇒収縮⇒ビッグバン⇒膨張

というのが延々と繰り返されていく、無限ループという考え方さ。
で、これは「1回散ったモノが残らず全部回収されて点に戻る」という思考だから、次のビッグバンも、同じ元素、同じ量、同じエネルギーで爆発するわけで、理論上、ほぼ同じ宇宙が次も出来上がるわけです(エネルギー/質量保存の法則)。
・・そう、だから次の宇宙も太陽系があって、地球があって、月があって、日本があって、フワちゃんがいて、バッシングされて、というのが繰り返されるという考え方だね。

ただ、完璧に複製したつもりでも必ずバグというものが生じるのが世の常であり、どうあっても「全く同じ世界」にはならない(エントロピー則)。
コンマ何%の誤差かは知らんが、必ず何らかの要素はズレてるものなんだ。
だから多分、次も日本という国が存在するところまではほぼ確実だろうが、でもその日本というのは「フワちゃんがバッシングされていない日本」かもしれない。
そう、それが「パラレルワールド」というものの正体である、という考え方ね。
一般的に、皆さんが考える「パラレルワールド」とは少し違うかも。

別の宇宙では、承太郎(?)がこんな人だったよね
バッシングされてない宇宙のフワちゃん

だけどさ、こういうタイプのパラレルワールド論って、荒木先生がそれなりに宇宙論を「インプット」してないと絶対に出てこない発想なのよ。
・・荒木先生、やっぱスゲーよな。
どの漫画家でも「選択するたびに分岐世界が増えてく」という、ありきたりな発想ばかりで作品を作ってるのに、先生だけはまさかの「宇宙ループ論」ですよ。
まさにオンリーワン型の作家である。

ところで、「ジョジョ」の第7部「スティールボールラン」アニメ化はまだなんでしょうか?
私は原作第3部までしか読んでない人なんで、もはやアニメ化頼みなんですけど。
噂だが、この後の「スティールボールラン」「ジョジョリオン」は面白いと聞いている。
今さら漫画読むのがしんどいお年頃のアニメ派として、腹をすかせて待ってるんですけど?


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